捉えどころのない多彩なプレイスタイル
今季は28試合に出場。初年度の3試合から大きく出場時間を伸ばした。年明けに足首の負傷がなければ、もっと増えていたことは確実だ photo/Getty Images
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今季のフランクフルトにおける最大のサプライズ――。鎌田大地をそう評する識者は少なくない。シント・トロイデンに武者修行に出ていた2018-2019シーズンは、公式戦36試合で16得点(9アシスト)とアタッカーとして満足のいく働きを披露。だが、保有権を持つフランクフルトの上層部は、「ドイツよりレベルの劣るベルギーリーグで結果を残したに過ぎない」とシビアな評価を下していた。実際、レンタルバックしたての昨夏には再度のレンタルやジェノアへの完全移籍の話が進行。いわばチームの構想外だった。その立場が一転したのは、鎌田がプレシーズンキャンプで「1年前とは見違えるような姿」(アディ・ヒュッター監督)を見せつけたからだ。
その指揮官から「出番が増えると思う」と慰留された日本代表MFは今季、ブンデスリーガ28試合出場で2ゴール、ヨーロッパリーグ9試合出場で6ゴール、DFBポカール4試合出場で2ゴールと活躍し、ほとんど戦力外に近い状態の立ち位置から攻撃陣に欠かせない一人へと信じがたい飛躍を遂げた。
欧州サッカーの最先端で覚醒した鎌田は、相手にとって“捉えどころ”が非常に難しいアタッカーだ。典型的なフォワードでもなければ、セカンドトップとも言い切れない。トップ下で決定的なパスを出せば、サイドに流れてウイング的な役割を担うこともできる。さらには、やや低い位置で司令塔的に振る舞うことも可能だ。
敵を置き去りにするようなスプリント力や相手のチャージを弾き返すような強靭なフィジカルこそ備えていないが、トラップ、パス、シュートの基本技術すべてが水準以上で、フランクフルトでプレースキッカーを任されているほどキック精度も高い。その強みはELグループステージのアーセナル戦で叩き込んだミドルでも証明した。その質の高い右足キックを武器に、今季公式戦で9アシストを記録している。
レジェンドに喩えられた、ヘルタ戦のスーパーアシスト
31節ヘルタ・ベルリン戦では度肝を抜くようなドリブル突破からのアシストを披露。完璧なコース取りと緩急で守備陣を完全に翻弄 photo/Getty Images
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味方の動きや相手の位置を見極める視野の広さを含め、多彩な魅力を持つ鎌田が、みずからの長所を最も活かしたプレイが、ブンデスリーガ第31節のヘルタ・ベルリン戦で決めたスーパーアシストだ。ペナルティエリア左でボールを受けると、素早い反転からドリブル突破を開始。緩急をつけ、適切なボールタッチとコース取りで3人を抜き去り、アンドレ・シウバのバックヒール弾を演出してみせたのだ。
これには同僚のGKケビン・トラップも「ダイチはドリブルを仕掛けるクオリティーを持っていて、プラスアルファとなる要素も兼ね備えているし、つまりは違いを作り出せるのさ」と絶賛。現地『fussball.news』のクリストファー・ミヘル記者は「息を呑むようなスラロームラン。一部のファンは1993年秋のカールスルーエ戦で、ジェイ・ジェイ・オコチャがディフェンダーとオリヴァー・カーンを切り裂いた瞬間を思い出した」と、フランクフルトのレジェンドを引き合いに出した。
指揮官も絶賛 鎌田のプレイは次のレベルへ
ELアーセナル戦で圧巻の2ゴール photo/Getty Images
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ゴールやアシストのみならず、個の力で崩しの局面でも輝ける鎌田は、まさに“なんでもできる”アタッカーだろう。かつてブンデスリーガで異彩を放ったMF、ケビン・デ・ブライネを想起させる部分も少なくない。
欲を言えば、ブンデスリーガでの得点数に不満は残るものの、この1年を通じて、鎌田が「ネクストレベル」に到達したのは確かだ。ゴール前に入り込む頻度やタイミングの良さは、サガン鳥栖でプレイしていた3~4年前に比べて、はるかに磨かれている。
コロナ禍により、なかなか鎌田本人の声を聞くチャンスに恵まれないものの、ヒュッター監督は今季のブンデスリーガ終了後、地元紙『Frankfurter Rundschau』で「ダイチはとてつもない創造性の持ち主だ。彼はサッカー選手としても、一人の人間としても、チーム内で大きな存在感を放つようになった」と総括。フランクフルトとの契約が2020-21シーズンかぎりで切れるため、今夏の去就が注目されるが、クラブについに覚醒した異能のアタッカーを手放す気はない。新契約を用意し、全力で慰留する構えだ。
文/遠藤 孝輔
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)247号、7月15日配信の記事より転載
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