現在関西で一番ホットな選手は誰かと問われたとき、筆者は真っ先に名前を挙げる選手がいる。右サイドからのカットインで相手DFをパニックに陥れ、ゴール前で最高の仕事をする。利き足の左でシュートを打って良し、パスを出しても良し。開幕前にはそれほど大きな注目を集めたわけではなかった選手が、半年を過ぎて今ではピッチで眩いばかりの光を放つ。もしかしたら筆者はシンデレラストーリーを見ているのかもしれない。そんなことを思うほどだ。
その選手とはC大阪の背番号17、坂元達裕である。身長170cmと決して大きくはない身体ながら、そのハンディを補って余りあるほどドリブルのキレは鋭い。ここまでJ1リーグ戦12試合すべてに先発し、ガッチリと右サイドハーフのポジションをモノにしている。特に昨日のホームの仙台戦では1ゴール1アシストとC大阪の全得点に絡んだ。
「前半から何本かチャンスがあって、中に切り込んでシュートを打つ場面もあったので、後半も来るだろうと思って、準備していました。キヨくん(清武 )からいいボールを出してもらったので、落ち着いて決めることができました」
決勝ゴールとなった60分の得点の場面では、彼にボールを出せば何かをしてくれる、そんな予感さえした。
坂元の履歴を見ると、決してエリートではない。確かにFC東京U15から前橋育英、そして東洋大という決して悪くはない道を歩んできたものの、プロ入りに際してJ側からなかなか芳しい返事を貰えなかったという。辛うじて「山形に拾ってもらった」(坂元)形で入団。ところがこの山形入団で一気にその才能が開花する。プロ入り1年目で42試合に出場し7ゴール。この山形の指揮官がこの試合の対戦相手である仙台を率いている木山監督という因縁。
「『頑張れ』といってもらいました。去年、(山形で)自分が試合に出て活躍できたのも、木山さんの存在が本当に大きかったので、感謝の思いは大きいですし、その分、相手として戦う中で、今日は結果として見せたい思いは強かったです。とにかく点を取りたい思いは強かったので、結果に出て良かったと思います」
J1の舞台で成長した自分を見せたい。まさに結果で『恩返し』をしたということになる。今の好調をキープできれば、自ずと日本代表も近づいてくるだろう。決して大袈裟な話ではなく、現実的な可能性の話である。勿論代表の活動が完全に休止しているだけに、それがいつになるのかは分からないが。同時にもしかしたら海外のクラブから声がかかり、日本で彼のプレイを見られる時間はそれほど長く残っていないのかもしれない。付け加えるなら、同じポジションで開幕前に大きな注目を集めていたのは高卒ルーキーのMF西川潤である。素晴らしいポテンシャルの持ち主であることは説明するまでもないが、それでも現状坂元の壁を超えるのは相当難しいだろう。
ゲームに話を戻そう。C大阪は前節の川崎戦で自慢の守備が崩壊する形で5失点を喫した。しかしこの試合ではもう一度守備のブロックを再整備した。相手にボールになった場合、素早い帰陣でブロックを形成。相手の侵入してくるポジションに選手を配した。確かに前半終了間際にCKからの失点はあったものの、90分を通しては手堅い守備を見せることに成功したといえる。
ただ攻撃はというと、これまで勝ち切れない試合が多かったことに象徴されるよう、点を決め切るという点でまだ足りない。フィニッシュはクラブか代表かを問わず、日本のチームの永遠の課題といわれるが、C大阪にとってもそれは同じだ。確かにこの試合では60分に坂元がゴールを決めて仙台を突き放すことができたが、膠着した時のもう一手が何かを探って欲しい。敢えていえばパターン化している清武からMF柿谷へのスイッチではなく、両者を同時にピッチに立たせるというやり方があってもいいように思う。川崎が名古屋に敗れ、結果的に勝ち点差は7の2位となった。優勝争いを考えると、これ以上離されては厳しいだけに、オプションとして、いやそれ以上の一手として、清武と柿谷の共演を実現させて欲しいというのが本音だ。中盤で清武、柿谷、そして坂元が縦横無尽に駆け回る。C大阪サポーターでなくとも心躍るはずだ。ロティーナ監督、是非!
ニュースターの活躍がチームを活性化し、大敗を引きずらずに再スタートを切ったC大阪。まだまだ優勝争いはおもしろくなるはずだ。
文/吉村 憲文
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