あの白と黒のゼブラカラーをもう一度この目にすることができるとは……。
関西でサッカーを取材するようになって25年以上が過ぎた。その中で大きな思い出として残っていることがある。それが1995年1月17日の阪神淡路大震災であり、その後の神戸のサッカーを巡る動きだ。
1993年にJリーグが産声を上げ、突如として日本にサッカーブームが訪れた。1995年時点の関西にはG大阪、そしてJFLから昇格したC大阪の2クラブしかなく、日本のサッカー発祥の地ともいわれる神戸(諸説あり)には、Jリーグのクラブがなかった。そして前身の川崎製鉄サッカー部がヴィッセル神戸となり、Jリーグを目指すことになった。その始動の日がまさに1995年1月17日だった。半年後に株式の50%を保有していたメインスポンサーが撤退。その船出から躓いた。その後も経営状態は極めて厳しく、楽天が経営を引き継いだ2004年にようやくその赤字体質から脱却するに至った。少なくともクラブ存続が担保されたことはサポーターにとっては朗報だった。ただ……。
クラブからは白黒からクリムゾンレッド(深紅)に変更になった。これは楽天の三木谷オーナーの出身校であるハーバード大学のスクールカラーに由来するといわれている。背に腹は代えられないのは分かっていても、やはりチーム発足から見ていた者とすれば思うところがある。ちなみにこの白と黒のユニフォームでプレイしたことがあり、今なお現役の選手のひとりがカズである。当時三宮の駅前をボルサリーノできめたカズが闊歩していたと聞いたことがある。
そしてこの日、チーム発足25周年を記念する特別ユニフォームとしてゼブラカラーがホーム3試合限定で復活。そのお披露目がこの横浜FMとの試合である。ただし試合は一方的な横浜FMペースで進んだ。神戸は18分に横浜FMのミスに付け込み、FW藤本が先制ゴールこそ決めて見せたが、前半の見せ場はほぼこのシーンだけ。横浜のポゼッションに守備に忙殺され、マイボールになったとしても縦パスを入れられる状況がほとんどない。逆に27分、33分、53分と立て続けにゴールを許してしまう。試合内容を考えれば神戸の勝利、いや引き分けすら難しい。しかし62分の神戸の一気4人の選手交代からゲームは動き出した。
先発メンバーはボールポゼッションの点で大きく横浜FMに劣っていたが、特にFWに古橋、MFサンペールを入れたことで、前線に起点が生まれ、中盤にタメが作れるようになっていった。サッカーには劣勢を挽回するために取るふたつの手法があるといわれる。システムそのものを変更するというやり方と、システムはそのままに人を入れ替えるというやり方(勿論その両方をミックスするというやり方もある)。神戸は後者のやり方で一気にチームの活性化を図った。実際先発のメンバーで横浜FMに対応するには、MFイニエスタがケガで欠場していることもあり、やはり難しかった。リーグ日程が立て込んでいるがゆえに、メンバー編成は容易ではなかった。だがこの交代を切っ掛けにゲームの流れは一変。
「後半途中に選手が代わって入って、いつもなら強度を高くプレイできていましたが、今日はなかなかプレスのスイッチが入りませんでした。いかなかったのではなく、いけなかったのが事実で、だからこのような結果になったのだと思います。前線からスイッチを入れず、ボールホルダーとの間があれだけ開いていれば、サイドに振られてしまいます。ファーストDFのプレスは修正が必要ですし、いけないなら、いけないなりに賢く守らないといけなかったと感じています」
横浜FMのMF扇原のコメントだ。選手交代を切っ掛けにした神戸の圧力をどうかわしてゴール前に迫るか。横浜FMとしてはもう少し工夫が必要だった。そしてまさかの展開に繋がってしまう。90分にサンペールが大きく左サイドに振ると、途中交代で左SBに入った酒井のクロスのFW藤本がピンポイントで合わせてゴール。これで1点差。更にその直後、やはりサンペールからDFラインから飛び出した古橋。浮き球のバウンドを利用して、GKの頭を見事に越したボールは、ゴールマウスに吸い込まれていった。劇的な同点弾に、メモリアルゲームに集まった観衆のボルテージはピークに達した。ゼブラカラーが雄々しく見える。
かつてJリーグのお荷物とまでいわれ、残留争いの常連だった神戸。白と黒のユニフォームにはその苦い思い出しか沁み込んでいないかもしれない。しかし時は流れ昨季はクラブ初タイトルとなる天皇杯を取り、ACLに進出。今ではJリーグを代表するビッグクラブとなり、その動向が世界に発信されるまでになった。まさに隔世の感がある。ただまだその戦いぶりは安定していないのも事実だ。勝ち点では首位川崎から17も差をつけられている。再びクリムゾンレッドをまとい戦うまでに、僅かでもチーム力を上げていかなくてはならない。
果たして神戸は「あのメモリアルゲームが切っ掛けだった」そういわせることができるだろうか?
文/吉村 憲文
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