圧倒的な個の力で今季もセリエAを制したが
スクデット獲得の喜びを分かち合うブッフォン(左)とロナウド(右)photo/Getty Images
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セリエAは2019-20シーズンもユヴェントスの優勝に終わった。9連覇という事実を見れば、一強体制は続いている。だが、例年よりもスクデット争いは混戦となり、変化を予感させるシーズンだったことは間違いない。虎視眈々と玉座を狙うクラブが、各々のスタイルで“攻略”を開始した。
ユヴェントスは今季も強かった。なんといっても、クリスティアーノ・ロナウドとパウロ・ディバラが圧倒的な存在感を示している。シーズン序盤はゴンサロ・イグアインもいる前線がどういう並びになるかで注目が集まったものの、結局彼ら2人が勝負を決めることが多かった。実際、『TUTTOSPORT』はセリエA優勝が決まった翌日のシーズン全体の採点で2人に「10」の満点を付けている。攻撃を組み立ててきたミラレム・ピャニッチが例年ほど決定的な仕事ができない中、ロドリゴ・ベンタンクールが大きな成長を遂げ、ハードワークで中盤を支えた。
ただ、ここまで挙げたのはユヴェントスの個の力。そう、昨年夏に指揮官に就任したマウリツィオ・サッリに関しては、あえてノータッチとさせてもらった。“前”監督の指導者としての能力は、エンポリ時代やナポリ時代を見ている人には分かることだが、(もっと時間があれば分からないが)ユヴェントスに合わなかったことは否定できない。“サッリズモ”は結局根を張らず、スターとの化学反応はなし。それでも優勝をしてしまうところがユヴェントスだが、圧倒的な強さを誇示するには至らなかった。ユヴェントスを焦らせた要因は、“サッリズモ”の浸透に時間がかかったこと以外に、追いかけるチームの成長速度にもある。
指揮官の色が出たインテルとアタランタ
コンテらしさ全開。タッチライン際で選手たちへ檄を飛ばすシーンが目立った photo/Getty Images
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2位フィニッシュのインテルが、打倒ユヴェントスの筆頭だ。元ビアンコネーロ指揮官のアントニオ・コンテを招へいしたインテルは、ロメル・ルカクとラウタロ・マルティネスの2トップが大爆発。チームを引っ張った。とにかく強度と勝利への強い意思を求めるコンテ。エースでありながらチームを鼓舞する新戦力のルカクは特に相性がよく、チームの雰囲気を良くする効果もあった。
インテルはセリエA最少失点チーム。“守備の国”イタリアでは常々、最も失点が少ないチームがスクデットを獲ると言われる。アレッサンドロ・バストーニのブレイクもありつつこの条件を満たしたことは、インテルにとって好材料だ。チームの総走行距離は堂々のリーグトップ。コンテが求める強度に選手が応えた結果と言えそうだ。
ただ、コンテからすれば、もっとできたシーズンという印象だったかもしれない。レンタルで獲得したアレクシス・サンチェスは、シーズン序盤にケガもあってほとんど機能せず。2トップの大爆発も、見方を変えればサンチェスを満足に起用できなかったことによる副産物。そのサンチェスが活躍した終盤戦はあらゆるところからゴールが生まれた。バリエーションの重要性は指揮官も認めているところだ。また、冬に加入したクリスティアン・エリクセンは期待値に届かず。トップ下を置く[3-4-1-2]へのシステム変更は彼のためのものだったが、本領発揮には至っていない。全てが目論見通りにいったらーー。コンテ監督はスクデットも本気で狙っていたように思う。
そんな中、「最少失点チームがスクデット」という一種の伝統に逆らう形でビッグクラブの仲間入りを果たそうとしているのが、3位アタランタだ。シーズン98得点は、ダントツのセリエA最多得点。ユヴェントスにおけるC・ロナウドやラツィオにおけるインモービレのような絶対的なエースがいない中でこの数のゴールを決めているというのは、個々の技術もあるが、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の手腕によるところが大きい。
リーグ最多得点で3位というのは前年と変わらない成績。ただ、チャンピオンズリーグを戦いながら、同じ成績を残したことに意味がある。1シーズンだけずば抜けた戦績を残したものの、チャンピオンズリーグとの掛け持ちがうまくいかずに定位置へ帰還という例は枚挙にいとまがない。アタランタはこの試験をパスしたと言える。
大型補強がなかった中で、そのカギとなったのがやはり指揮官の「手腕」。鋭い攻守の切り替えやアグレッシブなスタイルから「よく走るチーム」と思われがちだが、セリエA公式が出しているデータによると、今季のアタランタは意外にも20チーム中9位の走行距離。上位の中では明らかに少ない。言い換えると、個々の選手の消耗を極力抑えつつ、限られた戦力で週2試合のペースをこなせるチームを作っていたということ。戦術家ガスペリーニは、テクニックのある選手たちを最大限にいかしながら、効率よく戦う術をチームに授けたのだ。
着実に成長するラツィオ 「イチ」にたどり着いたミラン
今冬の移籍市場で7年半ぶりにミラン復帰を果たしたイブラヒモビッチ。シーズン途中の加入ながら10ゴールを記録した photo/Getty Images
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強度のインテルと攻撃のアタランタとともに上位に食い込んだのは、シモーネ・インザーギという信頼できる監督をみつけている4位ラツィオ突出したデータが多くないため、得点王となったチーロ・インモービレのゴール数に注目が集まるが、今季のセリエA月間最優秀選手賞を最も多く受賞したチームである。インモービレのほか、セルゲイ・ミリンコビッチ・サビッチとルイス・アルベルトも月間最優秀選手に選ばれた。最終ラインではフランチェスコ・アチェルビがシーズンを通して安定。各ポジションがハイレベルで、そこに2016年から指揮官がかわっていないことの利点が上乗せされている。今季の勝ち点は「78」。クラブレコード更新は、ラツィオの成長を感じさせるものだ。
そして、上位勢以外でどうしても触れておきたいのが、1年をかけて土台を築いた6位ミランだ。シーズン序盤はうまくいかずにマルコ・ジャンパオロ監督を解任。ステファノ・ピオリを“つなぎ”とし、リスタートする形となった。しかし、1月にズラタン・イブラヒモビッチを獲得すると、流れが一変。名ばかりの名門が、貪欲に勝利を求める集団に変わった。ピオリ監督は加入当初からイブラヒモビッチの影響力を絶賛。大ベテランがこれに呼応し、チームが一枚岩となる。“王”と若い力がうまく融合し、シーズン後半戦の獲得勝ち点はアタランタに次ぐ2位に。確実視されていたラルフ・ラングニックの招へいが流れ、ピオリ監督の続投が決まった。
ゼロからスタートして、カタチになる前に再びゼロに戻るを繰り返してきた近年のミラン。紆余曲折はあったが、「ゼロ」から「イチ」にたどり着いたシーズンとして、のちのち語り継がれるターニングポイントの一手を打てたかもしれない。
誰も近づけなかったユヴェントスの玉座。9年間崩れなかった城壁を突破するのは難しい。そんな中でそれぞれのクラブは独自の手法をとり出した。玉座への飽きが見え隠れしていたユヴェントスは、アンドレア・ピルロが監督就任という誰も予想していなかった舵取りで刺激を注入。また独自の方法で抗おうとしている。オーナー交代のローマ、ガットゥーゾ2年目のナポリ、有望株をそろえるフィオレンティーナといった勢力も巻き込みながら、来季はさらに白熱のセリエAがみられることに期待したい。
文/伊藤 敬佑
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)248号、8月15日配信の記事より転載
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