[MIXゾーン]痛み分けの神戸×FC東京 この試合でいろいろなものが見えてきた

神戸を指揮するフィンク監督(左) photo/Getty Images

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フィンク監督は事実上の白旗宣言

 痛み分け。最後の最後で勝ち点1をもぎ取った神戸、最後の最後で勝ち点2を失った東京。リーグ優勝を占う上でどちらにとっても厳しい結果になった。

 とはいえ辛うじてポジティブなイメージを持ったのは神戸だろうか。ミスから逆転を許し、負けを覚悟したアディショナルタイムに値千金のゴールで引き分けに持ち込んだのだから。逆に東京からすれば、アディショナルタイム5分の使い方に後悔が残る。セオリーではゴール前のセットプレイは禁物。しかし不用意にFKを与えてしまった。まして神戸にはピンポイントで蹴れるMFイニエスタがいる。DFダンクレーに対して、もう少し強くディフェンスにいけなかっただろうか……。細かいことをいい出したらキリがないが、やはり悔いは残る。ただ前半の入りそのものは神戸のペースだったことを思えば、引き分けはそれ相応の結果という見方もできる。逆にゲームの流れを考えると、神戸は引き分けに終わる試合ではなかったのかもしれない。グルグルとああでもないこうでもないを繰り返すばかりだ。

 実際立ち上がりは神戸の流れだった。短いパスをつなぐというイメージが先行しがちだが、この試合では東京のプレッシャーを回避するために、ロングボールを前線に入れ、相手DFラインを後ろに押し込む。特にセカンドボールの回収率が高く、相手陣でゲームを続けることに成功。東京は神戸の戦いかたと、日本では珍しいハイブリッドターフになかなか適合がうまくいかなかった。更に東京は神戸が4バックでくると予想したようだが、実際はボランチのサンペールがCBの中央に落ちる3バックを形成。ここで東京の中盤とのミスマッチが起きる。この修正に東京はかなりの時間を費やすことになった。
「(東京は)ダブルボランチでスタートして相手の中盤、特にアンカーのところで自由にさせないように中盤の3枚でマンツーマンにしていこうとした。ただ相手の3バックとWBとミスマッチになり、(ポジションの)スライドのところで運動量が求められた」(MF品田)

 立ち上がりの東京の混乱が伝わってくる。

 神戸優勢の中で24分には神戸の流れるような攻撃で、最後はMF安井がプロ初ゴールを決めて先制。神戸にとっては狙い通り、東京にとっては予想外の展開だった。

 後半に入ると対応に後手に回った東京が、前線からのプレスを強める。50分にはFWディエゴ・オリベイラが相手のマークを剥がすと、FW田川に。田川はシュート性のクロスを入れると、これにFWアダイウトンがワンタッチでコースを変えてゴールを陥れる。東京は勢いづく。58分には神戸の先制点を決めた安井が中盤でバックパスのミス。これを東京が一気のカウンター。最後はディエゴオリベイラがコースのないニアサイドを射貫く。逆転。序盤の展開からすれば、神戸としては意外というほかない展開。東京からすれば、リードして後はしっかり守りながら、3点目を奪って神戸の息の根を止めるだけだった。

 しかし。

「最後のトドメをさせなかったところが勝点1になったと思う」(長谷川監督)

 まさにそれ。結局外せば相手に流れがいき、しっぺ返しにあう。アディショナルタイムのダンクレーの同点ゴールは、いわばその象徴に過ぎない。

 ただ東京としては寸前のところで勝ち点2を落としてしまったものの「17試合で勝点32、よく選手は頑張っている。さらに17試合、勝点を上積みできるようにしたい」(長谷川監督)。

 一方ギリギリのところで踏みとどまった神戸だが、フィンク監督は冷静に今の状況を見ていた。

「現実的に見ればこの勝点数となると、リーグ優勝はおそらくないと思ってもらってもいいと思う。ここからできるだけ良い順位で終えられるようにし、クラブの考えでもある若手の上達、デベロップメント(成長、進化)に集中したいと思う」

 事実上の白旗宣言。リーグ半分を終えただけだから、早過ぎるという見方もできるが、首位をいく川崎の充実ぶりを考えればこれも止む無しということかもしれない。日本人監督は「可能性がある限り」ということが多いが、ヨーロッパの監督は数字を客観的に見る人のほうが圧倒的に多い。ただ神戸に期待されるものは非常に大きいだけに落胆も大きい。フィンク監督の言葉にはなかったが、悲願であるACL制覇に全力を注ぐことになるだろう。

 リーグ中盤、様々なものが見えた試合だった。

取材・文/吉村 憲文

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