[MIXゾーン]数的不利でも6連勝 C大阪・柿谷「こういう試合でも勝たないと」
決勝点を挙げた柿谷(写真は川崎戦) photo/Getty Images
神戸はJ最強級の戦力有すも……
もしかしたらその瞬間、神戸のベンチも選手、サポーターでさえも「これは厄介なことになったぞ」そう思ったに違いない。
33分、故意ではなかったもののFW都倉がGK前川の顔面を蹴ってしまったことで一発退場。C大阪は10人となり、神戸が数的優位に立った。しかしこれがアウェイチームが自陣深くに守備ブロックを完璧に敷く切っ掛けになった。そのブロックを攻略するのは容易ではないことは今季の数字がハッキリと証明している。C大阪の失点14はリーグ最少。守備に特長があるチームが、更に守備専従になったら攻める側はどれほどしんどいか……。実際展開はまったくその通りになってしまった。
C大阪は4バックを5バックに守備により重心を置く。
「相手のスペースをなくすことが狙い」(ロティーナ監督)
最終ラインは自陣ペナルティエリアの僅かに前に設定された。
神戸はボールはこのC大阪の守備ブロックをどう破るのか。MFイニエスタがスタメンに復帰したものの、シーズン26ゴールはリーグでは中位の成績でしかない。むしろ失点30は悪い方から数えて5位。結果的にはその数字がことごとく現実化していく。
ガッチリと守備を固めたC大阪だったが62分に電光石火の攻撃を見せる。MFデサバトからのクロスを、ファーサイドからニアへ走り込んだFW柿谷が頭で合わせてゴール。デサバトのクロスの精度は勿論、DFダンクレーの死角を突いた柿谷のコース取り。そしてヘディングの精度。どれをとっても一級品のゴールだった。
「レアンドロ(=デサバト)と完全にタイミングもパスの質も自分の動き出しも、全部がかみ合ったという感じ」(柿谷)
自画自賛するほどの見事なゴールだった。同時に神戸は守備の綻びを繕えないままに試合を重ね、ここまできてしまった。いうまでもなく戦力的にはJリーグ最強といえるだけに、どうこれを改善していくのか。
これで益々やりにくくなったのは神戸。リードを奪ったことでC大阪は更に守備の傾向を強くした。神戸とすればガチガチのブロックを、パスやシュートだけでなくドリルやハンマーで叩き割らなくてはならない。神戸はC大阪の守備ブロックの周囲でボールを保持しながら、縦パスを入れるタイミングを何度もはかった。ダイアゴナルな動きも再三見せてはいたものの、それでもラストパスを通し、あわやという場面を作り出すことは非常に難しい作業だった。中を固めた相手を崩すセオリーとして、ミドルレンジのシュートといわれるが、それもC大阪とすれば予測の範囲内でしかない。
かくして無情のホイッスルが吹かれる。神戸は白星から遠ざかって久しい。結局クラブ発足25周年の白黒の記念ユニフォームを着用したホーム3試合で、一度も勝利することはなできかった。
一方のC大阪は6連勝。確かにこの試合は勝つためだけのサッカーで、エンターテインメントに乏しい内容だったとはいえる。ただローテーションで何人かの選手を入れ替え、しかも数的不利になりながらも勝ち切ったことはプロとして最大限に評価されるべきだろう。首位川崎を勝ち点差5に迫った。これまでも何度も書いてきたが、この『したたかさ』こそがこのチームの最大の武器である。
「同点(引き分け)ではなく川崎に追いつくためには、こういう試合でも勝たないといけないので(ゴールを)狙っていた」と話した柿谷。
最後は、
「疲れた」
と一言。その疲れは素晴らしい充実感を意味している。
取材・文/吉村 憲文