[特集/ダークホースに刮目せよ 03]柔軟・多彩な戦術で攻撃陣が躍動 大願成就に向けライプツィヒ覚醒

 ブンデスリーガ8連覇に、DFB杯、CLも併せて3冠を達成。昨シーズンもまた、バイエルンは我が世の春を謳歌した。いったい、いつになったらこの時代に終焉がくるのか……。現実をみるとまだまだ続きそうだが、必ず連覇がストップするときがくる。

 2年連続2位のドルトムントが一番のライバルかもしれないが、もう1チーム可能性を秘めたクラブがある。2年連続3位のライプツィヒだ。昨シーズンはヘルプストマイスター(秋の王者)を獲得し、CLでも準決勝まで勝ち上がった。ポテンシャルは十分で、今シーズンも好スタートを切り、第7節を終えてわずか4失点。安定した戦いぶりで2位につけている。なにかをやってくれるのは、ライプツィヒかもしれない。

ブレないコンセプトを基準に選手やシステムを使い分ける

ブレないコンセプトを基準に選手やシステムを使い分ける

第7節を終えてわずか4失点と、ライプツィヒは好スタートを切った photo/Getty Images

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 チームの強化方針は一貫している。礎を作ったのは2012年にレッドブルグループ(ライプツィヒはレッドブルグループ)の開発責任者となったラルフ・ラングニックで、高い位置からプレスをかけ、ボールを奪ったら素早く攻撃を仕掛けるアグレッシブなスタイルの精度を年々高めてきた。ハイライン、ハイプレス、素早いトランジション(切り替え)を早くから取り入れており、監督が代わっても志向するスタイルに変化はない。

 現在のユリアン・ナーゲルスマンは昨シーズンから指揮官を務めるが、実際には一昨年の段階ですでにライプツィヒの監督に就任することが決定していた。ホッフェンハイムとの契約を消化するまでの1年間は、ラングニックが責任を持って監督を務めるという流れだった。当然、両者は意思の疎通が取れており、ナーゲルスマンは就任1年目から違和感なく采配を振るうことができ、いきなりヘルプストマイスターを獲得するに至った。

 一貫したチーム強化を続けるなか、ナーゲルスマンは新たなスタイルも植えつけた。ただ単純に、必死に走ってプレスをかけるだけでなく、より効率的に相手を追い込み、マイボールになればときにポゼッションする時間帯も作り出すように。結果として、ブンデスリーガのなかでは相手のスタイルに関係なく、多くの試合で主導権を握れるようになった。
 ゆえの2年連続3位だったが、今シーズンは大きな不安材料があった。ティモ・ヴェルナー(昨季28得点)の移籍、パトリック・シック(昨季10得点)のローンバックによる攻撃力低下である。しかし、どうやらこうした懸念は杞憂に終わりそうである。

 コンセプトがしっかりしていれば、選手やシステムが変わってもチームは機能する。これは元日本代表監督のイビチャ・オシム氏がかつて語っていた言葉で、ナーゲルスマンはライプツィヒでまさに体現している。新戦力でポストタイプのアレクサンダー・セルロートを1トップに起用し、2列目からエミル・フォルスベリやクリストファー・エンクンクが飛び出す試合があれば(第5節ヘルタ戦)、ポウルセンとセルロートの長身2トップで戦った試合もあった(第6節ボルシアMG戦)。

 第7節を終えた時点で、ライプツィヒは実に4つのシステムを使い分けている。特徴的だったのは第3節シャルケ戦で、通常は2列目でプレイするダニ・オルモを1トップに起用し、フォルスベリ、エンクンクがシャドーを務めた。この3名が流動的に動くことで、実質0トップのようなカタチに。

 後方ではアンヘリーニョ、ムキエレがサイドハーフを務め、中盤が6枚から7枚にもなる[3-4-2-1]で、中盤が5枚の[3-5-2]だったシャルケに対してピッチ中央で数的優位を作り出していた。結果はヴェルナー、シックの放出を感じさせない4-0の快勝で、ナーゲルスマンの戦略がうまくハマった一戦だった。

ウパメカノ&コナテ残留で持ち味の堅守に変わりなし

ウパメカノ&コナテ残留で持ち味の堅守に変わりなし

安定感抜群のウパメカノ。数多のビッグクラブから狙われていたが、彼の残留はチームにとって大きい photo/Getty Images

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 守備に関しては、夏の移籍市場で人気銘柄だったU-21フランス代表のダヨ・ウパメカノとの契約延長に成功し、同じくU-21フランス代表のイブラヒマ・コナテとの交渉もうまくいった。さらに、マンチェスター・シティからローン中のアンヘリーニョも残留したことで、戦力を維持できている。というか、いずれも20台前半の伸びしろしかない選手たちで、むしろより安定することが見込める。実際、前述したとおりライプツィヒは第7節を終えて4失点と抜群の安定感を誇っている。

 ただ、ウパメカノは肉離れで第7節を欠場している。CBはルーカス・クロスターマンもヒザを痛めて戦線離脱しており、現在は少しコマ不足に陥っている。コナテ、ヴィリ・オルバン、マルセル・ハルステンベルクでやり繰りしなければならず、両者の復帰が遅れると、堅守に定評があるライプツィヒもさすがに厳しいかもしれない。逆に言えば、ケガ人がいる状況でも現在の失点ペースで戦い続けることができれば、優勝戦線から離脱することはない。

 バイエルンの連覇をストップするという視点で考えると、下位との対戦で勝点を取りこぼさないことが大事になってくる。引き分けではダメで、しっかりと勝点3を積み上げていくことが求められる。昨シーズンは負け数だけをみれば、バイエルンと同じ4敗だった。堅守で失点が少ないため、負けることは少なかった。

 一方で、バイエルンの26勝に対して、ライプツィヒは18勝だった。秋の王者になったものの後半戦は引き分けが多く、勝点を伸ばせなかった。ヴェルナー、シックを擁しても、シーズンを通じて攻め抜いて相手を圧倒することはできなかったのである。このあたりを考えると、もし堅守というストロングポイントにほころびが生じると、より厳しい戦いを強いられることになる。ウパメカノ、クロスターマンの離脱が長引かず、まずは万全の戦力でシーズンを戦い抜きたいところだ。

悲願のタイトル奪取のために若手の覚醒は必須

悲願のタイトル奪取のために若手の覚醒は必須

偉大な父を越えるべくクライファートが活躍したなら、それがライプツィヒの躍進にもつながる photo/Getty Images

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「タイトルを取る」

 昨シーズン、ナーゲルスマンはそう公言していた。2009年創立のライプツィヒは、オーバーリーガ(5部相当)やレギオナルリーガ(4部相当)で優勝経験はあるが、それ以上のカテゴリーでタイトルを獲得したことはない。悲願を達成するためには、あくまでも堅守を維持したうえで、なおかつ競り合いをモノにする力強い攻撃力が必要である。

 そういった意味では、勝点3を積み重ねていくためには、セルロートだけではなく、ファン・ヒチャン、ジャスティン・クライファートといった攻撃面に補強された若い新戦力たちの活躍が不可欠だと言える。繰り返しになるが、コンセプトがしっかりしていれば選手やシステムが変わってもチームは機能する。ナーゲルスマンがピッチに送り出す選手たちは、みな迷いなく気持ちの良いプレイをみせる。この新戦力3名のなかから、1名でも二桁得点できれば今シーズンも面白いことになる。

 上位争いをするチームから、優勝するチームへ。主力を放出して臨む今シーズンは、逆にチーム力を高めるチャンスなのかもしれない。若く、生きのいい選手たちのレベルアップは、そのままチームの成長につながる。試合によって出場選手、システムが変わる“カメレオン・サッカー”がブンデスリーガを制する日も、そう遠くないかもしれない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)251号、11月15日配信の記事より転載

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