[MIXゾーン]寂しさにじませロティーナが去る 「桜色のカラーを心にしまって」

ロティーナ監督はC大阪に組織的なサッカーを植え付けた(写真は横浜FM戦) photo/Getty Images

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1点が遠く痛い敗戦に

 凍えるという表現がまさに相応しい。この日のヤンマースタジアム長居は気温4.9℃。しかもスタンドには身を切るような風が吹き抜け、体感温度は更に低く感じるものだった。この寒さの影響はピッチにハッキリと出た。アウェイの鳥栖は前半だけで12分にFW本田を、34分にMF高橋をケガで失うことになってしまった。ホームのC大阪も後半キックオフ直後に1トップの豊川がケガで自らピッチを去る。サッカーは冬のスポーツとはいわれるものの、寒さにも限度はある。寒波がゲームプランを難しいものに変えていった。

 ただ試合そのものは、互いが持ち味を出し合うナイスゲームとなった。22分に鳥栖のMF樋口がプロ初となるゴールをFKから直接叩き込むと、前半終了間際の44分に豊川が同点ゴールを決める。双方がゴールを奪い合う形になった。

 樋口は「蹴る瞬間に思い切って打とうと思い、いいところにボールが飛んでくれたので良かった」と話したが、角度のないFKだったがGKキム・ジンヒョンがまったく動けないほどの精度の高さだった。いいところに飛んでくれたどころか、プロの技術をまざまざと見せ付けるものだった。
 一方の豊川は「あの位置はトレーニングで何十本も打っている。考えて打つというより体が無意識に動いた」と日頃の練習の成果を強調。

 ポゼッションを高めようとする鳥栖に対して、C大阪は持ち味である守備ブロックからカウンターを狙う。C大阪は豊川がピッチを去ったことなどで3‐5‐2のシステムを鳥栖と同じ4‐4‐2に切り替えた。これを契機としてC大阪のボール保持が上がり、徐々に鳥栖は自陣でのプレイを強いられることになった。

「前半は少し苦しんでいた時間帯もあったが、後半は思ったプレイができ、相手のエリアに入っていくことができた」(C大阪・ロティーナ監督)

 ただ最後のフィニッシュの部分で精度を欠いた。同時にACLと天皇杯出場権獲得のためにはどうしても勝たなくてはならないC大阪に落とし穴が待っていた。

「90分が経った時は勝てるという感触をチーム全体が持っていたが、91分に負けてしまった」

 ロティーナ監督は溜息交じりに話したが、91分に鳥栖のカウンターを受け、最後は3分前に投入されたばかりのFWチアゴアウベスの枠ギリギリを狙いすましたシュートを決められジ・エンドとなった。

「やられそうなシーンもあったが、選手たちがよく頑張ってくれた。しっかりと1点を取って勝ったことは大きいと思う」(鳥栖・金明輝監督)

 ゲーム内容を考えれば鳥栖は引き分けで御の字を勝ちに、C大阪は勝てる試合を引き分けにすらできなかった。両者の明暗がくっきりと分かれた。

 試合を終え、今季最後のホームゲームということでセレモニーがおこなわれた。退任が決まったロティーナ監督は「少し感傷的な気分になりながら大阪を去る。皆さんからの愛情と桜色のカラーを心にしまってここを去りたい。皆さんのおかげで、スペインから1000キロ離れた大阪を自分の家のように感じた」と話し大きな拍手を浴びた。彼のサッカーが守備的かどうかは意見が分かれるだろうが、タイトルにこそ届かなかったものの、しっかりと結果を残したことは間違いがない。名将と呼ぶに相応しいだろう。来季、彼を呼び寄せるJリーグのクラブは出てこないだろうか?

 吹きすさぶ風の中、シーズンの終わりに一抹の寂しさを感じる試合だった。

文/吉村 憲文

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