[名良橋晃]J1昇格の徳島 スタイルに合った補強とブレない強化

柔軟な対応力があり、後出しジャンケンができる

 J2で三つ巴の昇格争いが行われています。現段階(12月11日)では徳島が首位に立ち、昇格目前となっています。第39節水戸戦に勝っていれば昇格決定でしたが、プレッシャーがかかるなか0-1で敗れました。最終節がアウェイでの福岡戦なので、第40節千葉戦、第41節大宮戦で決めたいところです。

 徳島は誰がピッチに立っても変わらない力を発揮できるチームです。2017年から指揮を執るリカルド・ロドリゲス監督の功績が大きく、継続性のある強化を続けてきた結果です。クラブの理念、強化方針にブレがなく、フロントがしっかりと現場をサポートしています。毎年のように主力を引き抜かれるなか、自分たちのスタイル、コンセプトにあった選手を獲得することでチーム力を高めてきました。

 個人的には、リカルド・ロドリゲス監督が率いる徳島をJ1でみたいと思っています。ここまで積み上げて生きた徳島のスタイルがどこまで通用するか、引き続きみたいですね。もちろん、そこは交渉の世界であり、リカルド・ロドリゲス監督には仲介人がいます。関係するチーム、各個人にそれぞれいろいろな考えがあります。それを踏まえても、私は徳島に残ってほしいと思っています。

 リカルド・ロドリゲス監督はホントに魅力的なチームを作り上げました。一度でも試合をみれば、きっとハマると思います。攻撃時はボールを大切にして、ポジショナルプレイをコンセプトにボールを運び、ゴールを目指します。守備では前からプレスをかけ、能動的にボールを取りにいく。攻守にアグレッシブなのが、いまの徳島です。

 対戦相手のシステムや特徴に応じて3バック、4バックを使い分けることもできます。守備時に3バックであっても、マイボールになると各選手が柔軟に動くことで立ち位置が変化し、4バックになるときもあります。いわゆる可変システムで、徳島の選手たちは細かい約束事をみんなが理解し、攻守両面でうまく連動しています。

 キーマンは中盤でプレイする岩尾憲で、相手とのバランスや試合の流れをみて必要なときはひとつポジションを下げ、チームに安定感をもたらしています。憲さんは戦術眼が高く、彼がいるからこそ徳島のサッカーが成り立っているとも言えます。

 また、外国籍選手に頼っているチームではありません。むしろ、スーパーな選手はいません。リカルド・
ロドリゲス監督が各選手の特徴を引き出すことで、チームとしてかみ合っている印象です。なんと表現すればいいか……。対応力があって、後出しジャンケンができるチームです。相手の出方や戦況に応じて、自分たちの戦術を変えることができる。当然、相手は戦いにくいと思います。

積み上げてきた財産を大事に、J1でも旋風を起こしてほしい

渡井のドリブルはキレキレで一見の価値がある photo/Getty Images

 今シーズン、徳島の試合で印象に残っているのは第30節群馬戦です。アウェイで前半に2点をリードされる苦しい展開になりましたが、ハーフタイムに2名を交代し、これが奏功して56分までに2点を返すことに成功しました。その後も主導権を握っていましたが、なかなか勝ち越し点を奪えない重苦しい展開となりました。

 ここで勝点1もやむなしと考えず、攻撃を続けて93分についに決勝点を奪いました。しかも、交代出場した河田篤秀のスーパーボレーで、なんとも劇的な勝利でした。この試合だけでなく、第37節金沢とのアウェイゲームも3-0から3-3にされる非常に嫌な展開になりました。流れとしては、追いついた金沢に勢いがありました。しかし、もう一度ギアを入れ、垣田裕暉が決勝点を奪って4-3で勝利しています。接戦をモノにする決定力、最後に勝ち切る勝負強さが今シーズンの徳島にはありました。

 その背景にあると考えられるのが、第2節愛媛戦での衝撃的な逆転負けです。立ち上がりから気持ちよく攻撃を仕掛け、前半を3-0で折り返しました。ところが、後半になって反撃を許し、3-4で敗れました。四国ダービーでの屈辱的な大逆転負けで、気持ちの部分で選手にはよい教訓になったと思います。ここでネガティブにならず、しっかりと修正してその後の戦いに臨んでいました。

 徳島は攻撃力がウリでどうしても前線の選手に目がいきがちですが、私はGK上福元直人の加入で後方からのビルドアップがより洗練されたと感じています。マイボールを大切に、GKからしっかり繋ぐスタイルは上福元直人に合っています。昨シーズンまでプレイした梶川裕嗣(現横浜FM)の移籍で心配されたポジションでしたが、こうしてコンセプトにあった選手をしっかり補強しているのです。

 よいところばかりを紹介してきましたが、もちろん改善点もあります。相手に守備のブロックを作って守られると、苦戦する傾向があります。ボールを保持するもののなかなか崩せず、逆にカウンターを受けるというパターンです。第35節京都戦は低い位置にブロックを作られ、ボールを持たされていました。先制点を許したことで相手の守備がより強固になり、さらに攻めあぐねることに。結果は0-2の敗戦でした。

 現時点でJ2は残り3試合で、千葉戦、大宮戦、福岡戦と続きます。最終節の福岡戦はアウェイでの“直接対決”になるので、徳島としては千葉戦、大宮戦で昇格を決めたいところです。私個人としては、久々にJ1で徳島をみたいですね。いまのサッカーで旋風を巻き起こすところをみたいです。そして、より多くの人に徳島のサッカーを楽しんでほしいです。

 リカルド・ロドリゲス監督の去就問題、ローン中の選手が多いなど、来シーズンに向けては不確定要素が多いです。なにより、いまはだ昇格が決まっていません(編注:第41節の大宮戦に勝利し現在は昇格が決定)。すべてが一緒というわけにはいきません。徳島に限らず、そこにチーム作りの難しさがあります。大事なのは、積み上げてきた財産をムダにしないことです。これまで、徳島はクラブの理念、強化方針にあった監督や選手を連れてきています。ここさえブレなければ、大丈夫でしょう。しつこいかもしれませんが、徳島は魅力的なサッカーをしています。無事に昇格してほしいと思っています。

構成/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD252号、12月15日配信の記事より転載

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