プレミアリーグの頂点は過去3シーズン、史上類を見ない高みに達した。2017-18シーズンにはマンチェスター・シティがリーグ史上初の勝ち点100を達成し、2018-19シーズンは3位以下に20ポイント以上もの差をつけてマンCとリヴァプールがデッドヒートを繰り広げる。そして昨季はリヴァプールが勝ち点99を記録しての独走優勝。2強が異次元のタイトルレースを繰り広げ、他のクラブはその争いをただ傍観しているしかなかった。
だが、今季は久々に混戦模様となりそうだ。レスター・シティが上位陣に割って入り、チェルシーも4シーズンぶりの覇権奪還をもくろむ。2020-21シーズンのプレミアを沸騰させる両クラブ。ふたつの青いチームが繰り出すサッカーは頂点を取れるか。虎視眈々とリーグ制覇を狙う、彼らの今を追う。
“レスター旋風”再びか 指揮官が進化させたスタイル
レスターはバーディ(右)を中心に今季プレミアで快進撃を披露している photo/Getty Images
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「21世紀の奇跡」と呼ばれた初優勝から5年、レスターがふたたび旋風を巻き起こしている。彼らは開幕3連勝と完璧なスタートを切ったが、敵地でマンCを圧倒した第3節のゲームはそのなかでも特にセンセーショナルだった。
立ち上がりに失点するも、FWジェイミー・バーディの3連続得点で逆転に成功。ふたつはPKだが、いずれも獲得したのは最終ライン裏へ抜け出した彼自身。結果的にPKではあったものの、エリア内での強さが光る“らしい”ゴールだった。
また、MFジェイムズ・マディソンが鮮やかなミドルで加点し、最後はMFユーリ・ティーレマンスがPKで締めくくる。5バックと守備を重視してつかんだ、ビッグクラブからの勝利。これは快進撃の始まりを告げる象徴的な金星となった。
過去、プレミアとチャンピオンシップを行き来する“エレベーター・クラブ”だったレスターは、2015-16シーズンに成し遂げた奇跡の優勝を機にプレミア定着を果たした。優勝直後は12位に沈んだが、昨季は後半戦から指揮を執ったブレンダン・ロジャーズ監督のもと、5位に躍進。その勢いは今季も衰えていない。
ロジャーズ監督が志向するのは、ポゼッションを主体としたスタイルだ。2018-19シーズン途中に解任された前任者クロード・ピュエルとスタイルの方向性こそ同じだが、ロジャーズはそれを改良し、より強度高く進化させた。
よりダイレクトに縦を突くサイドアタック、ショートカウンターを織り交ぜることで、チームの良さをさらに引き出すことに成功したのだ。
決してバーディだけではない 各所に実力者が揃う構成に
CBでコンビを組むソユンク(左)とエヴァンズ(右)。タイトな守備でレスターの最終ラインを支えている photo/Getty Images
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その仕上げを務めるのが、昨季のプレミア得点王バーディというのだから決定力は上がるはず。33歳という年齢を迎えた今なお得点感覚に衰えは見られず、それどころかフィニッシュワークの幅を広げている。第11節シェフィールド・ユナイテッド戦で先制点につながったような、味方をサポートする動きにも磨きがかかっており、まさに攻撃陣の中心といえる存在だ。 だが、いまのレスターは決してバーディだけのチームではない。中盤、そして最終ラインの選手たちも充実し、チーム全体のレベルが確実に上がっている。
10番を背負うマディソンは、プレミアを代表するチャンスメイカーのひとりに成長。チャンスとあらば、自らもゴールを狙える選手になった。中盤の底を引き締めるMFウィルフレッド・エンディディは無尽蔵のスタミナで、敵のボールを次々と刈り取り、堅実な配球でもチームのリズムを整えるチームの“ヘソ”だ。
守備陣も安定感は抜群だ。経験豊かなGKカスパー・シュマイケルは言うまでもなく、ウェスレイ・フォファナとティモシー・カスターニュを新たに加えた4バックは質、量ともに充実している。
とくにベテランのジョニー・エヴァンズとコンビを組むCBチャグラル・ソユンクは、強さ、高さ、速さを高次元で兼ね備えた大器。近い将来ビッグクラブからの引き抜きが噂され、移籍報道が絶えない逸材だ。 最後尾から前線まで穴のない陣容となったレスター。10、11月はエンディディの離脱もあって足踏みしたが、ビッグ6を追うグループでは最有力。5年ぶりのプレミア制覇は、もはや現実的な目標といっていい。
大補強で戦力充実のチェルシー 優勝争いはノルマとなった
昨季ブレイクしたマウント(右)と、今夏移籍市場で加入したヴェルナー(左)。今季のチェルシーは要所要所に確かな実力を備えた選手が揃っている photo/Getty Images
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王座復活を狙うチームはレスターだけではない。チェルシーもまた、今季は頂点を目指せる位置にいる。
2016-17シーズンにリーグ制覇を飾って以降、5、3、4位と上位は守ってきたが、それでもマンCやリヴァプールに大きく水を開けられた。だが今季の陣容は、その2強と比べても遜色はない。
昨季フランク・ランパードが監督に就任したことで、チェルシーは大きく生まれ変わった。補強禁止処分の影響で若手主体の戦いを強いられるも、新米監督はこの逆風をアドバンテージに変えてみせる。若手を互いに競わせ、刺激を与えることで、メイソン・マウントやクリスティアン・プリシッチ、タミー・エイブラハムといった有望株が独り立ち。CL出場権も死守した。
そんな雌伏のシーズンを経て今季を迎えたチェルシーは、一躍補強戦線の主役となった。
総額2億ポンド(約280億円)という巨費を投じ、大量補強を敢行。激しい争奪戦が繰り広げられたMFカイ・ハフェルツを、ドイツ史上最高額となる8000万ユーロ(約100億円)で獲得。さらに経験豊かなCBチアゴ・シウバ、プレミア屈指のSBベン・チルウェル、アヤックスの傑作MFハキム・ツィエク、ドイツ代表FWティモ・ヴェルナーといった即戦力を次々と釣り上げた。
重圧の少ない中で1年目を終えたランパード監督にとって、2年目は打って変わって重圧のかかるシーズンとなっている。これだけの戦力を整えてもらったのだから、結果を出さなければならない。CL出場圏内の4位以上は最低限。そして、優勝争いに加わることはノルマだろう。
ポイントとなる新旧戦力の融合 システムの決定版を見出したい
チェルシーとしては年末年始の間にハフェルツの最適な起用法も見出したいところ photo/Getty Images
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そのなかでポイントとなるのは、昨季から所属していた選手たちと今夏獲得した新戦力の融合だ。指揮官は有り余るタレントが各々最大限に力を発揮できるチームをつくらなければならない。
いまのところは、少し試行錯誤を強いられていると言っていい。システムと起用選手を試合ごとに変えながら多くの組み合わせを試したが、ランパード監督はいまだその“最適解”を見出せていない。
だが、オリヴィエ・ジルーやエイブラハムに復調の気配が出てきたことで、前線は新旧戦力の融合が進んでいる。開幕当初は1トップに入っていたヴェルナーだが、ここ数試合はジルーとエイブラハムにその位置を譲って、ウイングやトップ下に入ることが増えている。この形になることで、カウンター発動時にスピードのあるヴェルナーが孤立することが減った。第9節ニューカッスル戦の2点目も、独走するヴェルナーにエイブラハムのサポートが加わったからこそ生まれたゴールだったと言える。
なかなか思うようにシステムの“最適解”を見出せていないものの、それぞれのピースが噛み合い始めているチェルシー。高みを目指すにあたって、試行錯誤は繰り返していくもの。ここまでの結果も決して悪くない。リーグ戦で敗れたのは第2節のリヴァプール戦のみ。カタチが定まらなくても結果が出ているのは、ポテンシャルが高い証と言っていい。
あとは指揮官の采配次第。現役時代、多士済々のチームをリーダーとして率いたランパードだが、その経験を監督になったいま、生かすことができるだろうか。彼が近いうちにシステムの決定版を見出すこととなれば、チェルシーは優勝へ大きく近づくこととなる。
両クラブともに、現時点でチームが完全に仕上がっているとはまだ言えない。しかし、それはこれから上積みをしていくことでさらなる成長が見込めるということ。双方ともにピースは揃っている。パズルが完成した暁には、一気に頂点まで駆け上がっていく可能性も十分あるだろう。
そのうえで、勝負となってくるのは年末年始。レスターはトッテナム(第14節)やマンチェスター・ユナイテッド(第15節)といったビッグ6クラブとの対戦を控えており、チェルシーはウォルバーハンプトン(第13節)やアストン・ヴィラ(第16節)といった今季好調の中堅クラブに加えて、その後息つく間もなくマンチェスター・シティ(第17節)との大一番が。さらに、この連戦を締めくくるのは両クラブの直接対決(第18節)。厳しい戦いとなるが、逆に考えれば得られる経験値は高い。この期間にチームを完成させることさえできれば、そのまま最後まで駆け抜けるシナリオも見えてくる。年末年始の戦いにおいて、レスターとチェルシーはどこまで全体のクオリティを高めることができるか。優勝を狙うにあたり、これは大きなポイントとなるだろう。
文/熊崎 敬
※電子マガジンtheWORLD252号、12月15日配信の記事より転載