今季、思ったようなスタートが切れなかったマンチェスター・ユナイテッドとマンチェスター・シティの両雄。しかし、11月に入ったあたりからはチームとしてのカタチが見え始め、着実に勝点を稼ぐようになっている。格下相手に取りこぼすこともなくなり、ビッグクラブらしい安定感を発揮し始めた。こうなれば、もともと強烈な戦力を擁するこの両雄が上位戦線に顔を出さないはずがない。第12節のマンチェスター・ダービーはスコアこそ0-0だったものの、繊細な駆け引きが緊張感を生んだ好ゲームで、ともに調子が上向きであることをひしひしと感じさせた。マンチェスター勢の反攻は、すでにはじまっているのだ。
カバーニ加入のマンU 5戦負けなしで上昇中
調子を上げている両者が対戦した第12節マンチェスター・ダービーは、どちらも譲らず0-0で終了した photo/Getty Images
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序盤5試合を終えた段階では、マンUが2勝1分2敗。マンCが2勝2分1敗。マンチェスターの両雄はどちらもスタートダッシュできず、上位に姿がなかった。とはいえ、その後は地道に勝点を重ねることができている。
開幕当初のマンUは気持ちよく失点を重ねていた。シーズン初戦となった第2節クリスタル・パレス戦で3失点すると、第4節トッテナム戦は6失点だ。序盤4試合で合計12失点の大盤振る舞いで、GKダビド・デ・ヘアを筆頭に、ハリー・マグワイア、ヴィクトル・リンデロフの両CBなど守備陣の顔ぶれは揃っていたが、オフが短かったことで精神的&肉体的にオンに切り替えられておらず、いまひとつ気持ちが入っていない緩い戦いを続けてしまっていた。
一方で、同じ4試合で9得点とゴールはできていた。なかでも、昨シーズン途中に加入したブルーノ・フェルナンデスは変わらないハイ・パフォーマンスをみせ、すでにチーム最多の7得点となっている。2列目中央のポジションを拠点に絶え間なく足を動かし、攻撃を組み立てるとともに自らもフィニッシュしてゴールネットを揺らす。守備が不安定ななか、汗をかける献身的な司令塔に引っ張られ、自分たちにも相手チームにも多くのゴールが生まれる大味な戦いをしていたのである。
ようやくエンジンがかかってきたのは第8節エヴァートン戦からで、ここから4連勝している。勢いを与えたのは新加入エディンソン・カバーニで、このエヴァートン戦で移籍後初ゴールを奪うと、第10節サウサンプトン戦では2点ビハインドの後半から出場し、まず59分に絶妙なクロスでブルーノ・フェルナンデスのゴールをアシスト。74分にはFKの流れからブルーノ・フェルナンデスのシュートにゴール前で身体を投げ出し、ダイビングヘッドで2-2とした。さらに、92分にはマーカス・ラッシュフォードが左サイドから上げたクロスにニアサイドで合わせ、ふたたびヘディングで決勝点を奪ってみせた。
この試合もそうだったが、就任3年目となるオーレ・グンナー・スールシャール監督は従来の[4-2-3-1]とともに、[4-3-1-2]も採用している。ネマニャ・マティッチやフレッジがアンカーを務め、ポール・ポグバ、スコット・マクトミネイ、新加入ドニー・ファン・デ・ベークなどがインサイドハーフを務めるカタチだ。
第12節マンCとのダービーも[4-3-1-2]で戦い、0-0で引き分けている。残念だったのは第11節ウェストハム戦で負傷したカバーニの不在で、2トップの一角にこの頼もしいストライカーがいたらどうなっていたか……。ただ、シーズンはまだ序盤の段階だ。スールシャール監督はいま、カバーニやファン・デ・ベークを加えた最適解を探っている。そうしたなか、最近5試合は4勝1分けだ。もう、シーズン当初のような不甲斐ないパフォーマンスをみせることはないだろう。マンUは中盤戦、終盤戦と調子を上げていく可能性が高い。
ペップ率いるマンCが無策で終わることはない
ベルナルド・シウバに熱い指示を出す。ペップが無策で終わるはずがない photo/Getty Images
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マンCを指揮するジョゼップ・グアルディオラ監督にとって、同じチームで6年目のシーズンを迎えるのははじめてのことだ。チームはすでに完成されていて、オフの動きをみれば最低限の補強は行ったが選手の顔ぶれに大きな変化はなかった。
無論、ダビド・シルバ、レロイ・サネが抜けた穴は埋めなければならない。しかし、これらは短期間で簡単に答えが出る問題ではない。加えて、開幕当初から数名がコロナウイルスに感染し、日替わりでチームを結成しなければならなかった。アイメリック・ラポルテ、イルカイ・ギュンドアン、リヤド・マフレズらが離脱し、セルヒオ・アグエロ、ベルナルド・シウバもケガで出遅れた。必然だったのか、マンUと同じく開幕当初はインテンシティの高い試合ができず、らしくない戦いで対戦相手に勝点を献上していた。
驚きだったのは第3節レスター戦だ。立ち上がり4分にマフレズのゴールで先制しながら、その後に失点を重ねて2-5で敗れた。昨年、一昨年を振り返っても5失点はなく、インパクトの強い敗戦だった。というか、グアルディオラ監督のマンCでも長年戦っていればこうした大敗を喫するときもあるのだと気づかされた。
ただ、これが実力を出し切ったすえの完敗だったら問題はより深刻だったが、原因は明らかにマンC自身にあった。状況を改善するべく、グアルディオラ監督は素早く動いた。第5節アーセナル戦をロドリをアンカーにした[3-1-4-2]で戦ったのである。3バックは昨シーズンのCLリヨン戦でも採用したが、このときはうまく機能せず1-3で敗れていた。そのため、3バックはしばらく封印すると考えられていたが、ここで使ってきたのである。すると、選手たちが監督の期待に応え、ラヒーム・スターリングが奪った1点を守り切って勝利し、勝点3をモノにしている。
その後、第9節は好調トッテナムに敗れたが、下位に沈む相手との対戦ではきっちり複数得点し、勝点3を積み上げている。気づけば、新加入ルベン・ディアスが最終ライン中央でポジションを獲得し、攻撃面では同じく新加入フェラン・トーレスが出場を重ねている。フェラン・トーレスはダビド・シルバの「21番」を受け継いでおり、期待値が高い。本職はサイドだが、CLマルセイユ戦ではアグエロ、ガブリエウ・ジェズスに替わって1トップを務め、先制点を奪って3-0の勝利に貢献している。
このフェラン・トーレスはまだ20歳だ。そして、同い年のフィル・フォデンも主力として順調に経験を積み重ねている。また、下部組織所属で17歳のリアム・デラップという逸材もいる。“デラップ砲”でお馴染み、ロングスローが得意だったロリー・デラップの息子で、今シーズンは第3節レスター戦で45分間プレイしている。ダビド・シルバ、サネがいなくなり、アグエロも32歳となったなか、こうした若手をどんどん起用できるのはグアルディオラ監督にとって先行投資となる。
スタートダッシュには失敗したが、マンCもまた、この期間に着々と戦力の底上げを図っている。1試合だけだったが、3バックも試されている。年末年始の過密日程で試合が続く決戦の日々が訪れたときに、いま蓄えられている力がおそらく発揮されることになる。
試合消化もひとつ少なく、今後の巻き返しが期待できる
期待値の高いフェラン・トーレスはサイドだけではなく、前線でもプレイできる photo/Getty Images
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グアルディオラ監督が就任してから、プレミアリーグでは4位、3位、優勝、優勝、2位とCL出場圏内から落ちたことがない。マンネリを指摘する声もあるが、若い選手の台頭がみられる。なにより、勉強熱心なグアルディオラ監督がこのまま無策で中位に沈むことはないだろう。マンCが優勝争いから脱落することはないと考えられる。
第12節終了時点のリーグテーブルでは、マンUが勝点20の8位、マンCが勝点19の9位と、確かにサポーターが満足するような順位ではない。しかし、冷静にみれば両者とも1試合消化の少ない状態であり、この勝点3を加えると首位トッテナム(勝点25)との勝点差はおよそ1ゲーム分と、十分に巻き返しが可能な位置にいる。もともと戦力を落としているわけではないため、終盤になればなるほど、この2チームが抜け出す可能性は大きくなるはずだ。年が明けたころには、いつものようにマンチェスター勢が首位争いを繰り広げている光景を見ることになるだろう。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD252号、12月15日配信の記事より転載