[粕谷秀樹]ロッカールームの立ち居振る舞いも申し分ない ユナイテッドがカバーニから学ぶもの

粕谷秀樹のメッタ斬り 050

今夏の移籍市場でユナイテッドに加入したカバーニ photo/Getty Images

あんたがやるなら相手してやるよ

ルート・ファン・ニステルローイ以来なんじゃないかな、センターフォワードっぽいセンターフォワードは──。

クリスティアーノ・ロナウドはサイドからのカットインが得意で、ウェイン・ルーニーはセカンドトップが適性だった。ズラタン・イブラヒモビッチもマンチェスター・ユナイテッドに移籍してきたときは、9.5番みたいなイメージだったよね。アントニー・マルシャル? この人、からだ張らないじゃん。

エディンソン・カバーニは、ユナイテッドに欠けていた前線のピースだ。プレスの足を止めず、ボールを奪われても即座に奪い返そうと相手DFを追いかけまわす。攻→守に切り替わった瞬間、動きを止めるマルシャルは、授業料を払ってでもカバーニに教えてもらった方がいいな。

また、カバーニはボールを受けたり、スペースを創ったりする動きにもすぐれている。マルシャルやマーカス・ラッシュフォード、メイソン・グリーンウッド、ダニエル・ジェイムズは単調になりがちだけれど、つねに工夫を欠かさないカバーニが入るとリズムが生まれるんだ。

2ゴール・1アシストの大活躍だったサウサンプトン戦でも、だれよりも素早くニアポストのボールに反応した。相手DF陣の配置を崩す動きを何度も繰り返した。パスを待っているだけじゃダメってことね。

さらに、肉弾戦も厭わないでしょ……というか、むしろ好きなんじゃないかな。前線の中央に起用されているのだから、やっぱり相手のマークを跳ね飛ばすくらいの気概が必要だ。逃げまわっているようなヤツは、相手センターバックにすればチョロすぎるひよっこなんだな。

カバーニは厳しいマークににらみを利かせ、「あんたがやるなら相手してやるよ。覚悟しとけ」とでも言いたげな表情で一対一を演じる。こうしたタイプのアタッカーは、プレミアリーグに向いているね。

アップに励むカバーニ。その姿勢は周囲も手本にすべきだ photo/Getty Images

集中力がビンビン伝わってくる

試合前の練習、交代出場に備えるアップ中のカバーニからは、集中力がビンビン伝わってくる。ヘラヘラしながらからだを温めている連中もいるけれど、カバーニの表情は美しいほどの緊張感が漂っているね。入念に準備する姿勢を若手は、いやいや、チーム全体が学ぶべきだと思うよ。

「全盛期の彼なら得点王も可能だったに違いないが、33歳のいまとなっては……」

シーズン前、ユナイテッドOBのポール・スコールズはカバーニを酷評した。高給と惰眠を貪ったアレクシス・サンチェス(現インテル・ミラノ)の例があるので、経験豊富なアタッカーの獲得に不安だったんだろう。

でも、カバーニはユナイテッドに溶け込もうとしているし、フットボールに真摯に向き合っている。ロッカールームの立ち居振る舞いも申し分ないっていうから、サンチェスのような不満分子になるリスクはほとんどない。人種差別を疑われた件の投稿も言葉のニュアンスの違いで、本人も猛省している。

いろいろな意味で、カバーニの獲得は正解だ。スコールズには謝罪してもらおうじゃないの。

文/粕谷秀樹

スポーツジャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

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