ピルロ・ユヴェントスを悲観するには早い 5人の名将たちと比べると?

今季からユヴェントスの指揮を任されたピルロ photo/Getty Images

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かつての名将たちと成績を比較

ピルロ・ユヴェントスのここまでの成績は、本当に悪いものなのか……。

17試合消化した時点で、9勝6分2敗(勝ち点「33」)となっているユヴェントス。暫定ではあるものの(1試合未消化)、すでに首位ACミランに勝ち点を「10」も離され、5位に沈んでいる。前人未到の10連覇へ向けて、大きな苦戦を強いられているのだ。

こういった状況もあり、早くもチームを率いるアンドレア・ピルロに対してのネガティブな意見や報道がちらほら出てきている。新型コロナウイルス感染や負傷による主力の欠場、昨季からの過密日程など、ユヴェントスが本来の力を出せていない要因はさまざまあるだろうが、最も大きな要因が「監督交代」にあることは間違いない。
ユヴェントスは昨季、マウリツィオ・サッリを招聘したが、これまで欧州屈指の堅守を誇ったチームに“サッリズモ”や“サッリボール”と呼ばれるポゼッション主体の攻撃的なスタイルはなかなか根付かず。リーグ戦ではクリスティアーノ・ロナウドやパウロ・ディバラといった実力者たちの個の力を生かしてなんとか9連覇を成し遂げたが、最大の目標であるCLではベスト16でリヨンを相手にまさかの敗退を喫した。

すると、ユヴェントスの首脳陣は悲願である欧州制覇を成し遂げるため、昨季終了後に再び監督交代を決断。クラブOBで、監督未経験のピルロを招聘した。ピルロの将来性や未知数な部分、現役時代に見せていた戦術眼に懸けたのだ。しかし、いざシーズンが開幕してみると、格下相手に予想だにしない苦戦を強いられることも多々ある。まもなくシーズンのお折り返し地点だが、勝率は50%強だ。近年、圧倒的な強さでカルチョを席巻してきただけに、今季のチームに失望しているファンも少なくないかもしれない。

ただ成績だけ見れば、ピルロのここまでの数字を悲観するにはまだ早い。2000年以降にユヴェントスの指揮官を務め、スクデット獲得した5名の名将たちと、現指揮官ピルロの成績を17試合終了時点で比較してみた。

①マルチェロ・リッピ 8勝7分2敗(1年目)


2001-02シーズンに自身2度目となるユヴェントスの指揮官に就任したリッピ。見事開幕3連勝を飾ったが、第4節でレッチェに引き分けると、そこから6試合も白星から遠ざかるなど、序盤戦は苦戦を強いられた。17試合消化した時点では8勝7分2敗(勝ち点「31」)。今季のピルロより勝ち点を積み上げることができていなかったのだ。しかし、後半戦は黒星を一つに抑え、1点差をしっかりとモノにする試合も増やし、最終節で逆転優勝を成し遂げた。このシーズンの最終成績は20勝11分3敗となっている(当時は1シーズン34試合)。なお、リッピ体制では翌2002-03シーズンも前シーズンからの好調を維持し、21勝9分4敗で連覇を成し遂げたが、3年目の2003-04シーズンは3位に終わり、指揮官を退任した。

②ファビオ・カペッロ 12勝4分1敗(1年目)


2004年にリッピの退任を受け、次期指揮官に指名されたのがカペッロだ。2004-05は就任1年目ながらスタートダッシュを決め、開幕9試合無敗(8勝1分)。着実にポイントを積み重ね、17試合消化した時点では12勝4分1敗(勝ち点「40」)で首位に立っていた。この年、激しいスクデット争いを繰り広げたミランに首位を明け渡す時期もあったが、最後まで好調を維持したユヴェントスは最終的に26勝8分4敗で2位との勝ち点差を「7」まで広げ、優勝を勝ち取った。そして、カペッロもリッピ同様に連覇を成し遂げたが、のちにカルチョ・スキャンダルが発覚し、スクデットは2つとも剥奪されている。

アッレグリ体制2年目は、今季のピルロ体制と同様に17試合消化時点での勝ち点は「33」だった photo/Getty Images

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③アントニオ・コンテ 10勝7分(1年目)


カルチョ・スキャンダル以降低迷していたチームを見事に立て直し、イタリアの常勝軍団の礎を築き上げたコンテ。1年目の2011-12シーズンは勝ちきれない試合も多かったが、開幕戦から粘り強い戦いで無敗をキープし、17試合消化した時点で10勝7分(勝ち点「37」)。その後も黒星を喫することはなく、第28節からの8連勝で一気に首位に立つと、就任初年度からクラブ史上初の無敗優勝(23勝15分、勝ち点「84」)を成し遂げた。そして、2年目は5つの黒星を喫したものの無敗優勝時を上回る勝ち点「87」(27勝6分5敗)、さらに3年目はセリエA初となる3桁の勝ち点「102」でスクデットを勝ち取り、3連覇を達成した。

④マッシミリアーノ・アッレグリ 10勝3分4敗(2年目)


2000年代に入ってから、ユヴェントスを最も長く率いたのがアッレグリ(5シーズン指揮)。コンテ時代からのリーグ連覇を継続させただけでなく、4シーズン連続で国内2冠や2度のCL決勝進出を果たした名将だ。コンテ前監督からうまくチームを引き継ぐと、1年目の2014-15シーズンは2位と勝ち点差を「17」も広げ、危なげなくスクデットを獲得(26勝9分3敗)。連覇のプレッシャーを跳ね除けたことに加えて、ライバルクラブであるミラノ勢の低迷などもあり、2年目以降も勝利街道をまっしぐらに進むかと思われた。

しかし、アッレグリが苦戦を強いられたのは就任2年目だった。クラブ史上初となるセリエA開幕2連敗を喫すると、その後もなかなか勢いに乗ることができず、第10節が終了して3勝3分4敗。その後、なんとか連勝を飾り、17試合消化した時点で勝ち点を「33」(10勝3分4敗)まで伸ばしたが、この数字は今季のピルロとともにここ10年でワーストだ。ただ、アッレグリ・ユヴェントスがすごかったのはここから。一度立て直したチームは第11節から続いていた連勝をあれよあれよと伸ばし、驚異の15連勝を達成。さらに、1試合引き分けを挟んで再び10連勝と、26試合負けなしという偉業を成し遂げた。シーズンが終わってみると、ユヴェントスは勝ち点を「91」(29勝4分5敗)まで伸ばしており、アッレグリはチームを5連覇へ導いて見せたのだ。勝負の2年目を乗り越えたこの名将の勢いはとどまるところを知らず、3年目、4年目、5年目もセリエAを制し、8連覇という金字塔を打ち立てた。

⑤マウリツィオ・サッリ 13勝3分1敗(1年目)


アッレグリ以上に大きなプレッシャーを背負っていたのがサッリだろう。8連覇中のチームを任されるプレッシャーは計り知れない。その中で、守備的なスタイルからより攻撃的なスタイルへの変化を求められ、試行錯誤していった。なかなか正解が見えなかったが、内容とは裏腹に順位表では好調なスタートを切り、第13節まで無敗をキープ。17試合消化した時点での成績は13勝3分1敗となっており、勝ち点「42」で首位だった。その後もサッリらしさが見えないままシーズンは進んでいったが、リーグ戦では最後まで首位の座を死守し、サッリは9連覇という最低限の仕事はやってのけた。

こうして見ると、9勝6分2敗という成績はスクデットを狙う上でまだまだ許容範囲だ。本来新たな監督の哲学がチームに根付くには時間がかかるもので、それが監督未経験の指揮官ならばなおさら。さらに、今季は2年連続のスタイル変化に加えて、準備期間となるプレシーズンも短かった。このような状況を踏まえれば、ピルロはむしろよくやっている方なのかもしれない。

もし不安な部分があるとするならば、現チームがピルロが思い描く理想のチーム像にどれほど近づいているのか、という点。先のインテル戦では苦戦を強いられたが、「調整は終わった」と述べていたとおり、2トップの一角(モラタやディバラ)にボールを当てて中盤の選手たち(ラムジーやマッケニー、キエーザなど)が積極的に相手の背後を狙う動きなど、試合を重ねるにつれてピルロのやりたいサッカーは間違いなく見えてきていた。はたして、ピルロはチームの完成度をさらに高め、かつての名将たちのように結果に繋げることができるのか。ユヴェントスを率いる以上、周囲を結果で納得させるしかない。

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