“狂気じみた”移籍ビジネス時代の終焉か 少々寂しい今冬の欧州市場 

今冬の移籍市場でアーセナルへレンタル移籍したウーデゴー photo/Getty Images

5大リーグの総支出額は2012年以来の低さ

2021年も2月に突入し、欧州サッカー界では冬の移籍市場の幕が下ろされた。日本代表MF久保建英や同代表MF南野拓実らが新たなチームのレンタル移籍を決断したほか、Jリーグで活躍した選手が欧州挑戦するなど日本では話題となる移籍が多々あったが、全体を見てみると今冬は少々寂しい市場だったと言わざるを得ない。

シーズンが切り替わる夏に比べれば、もちろん冬の移籍市場自体動きは少ないものだ。ただ、近年はシーズンの前半戦で活躍した選手のステップアップやチーム状況に苦しむクラブの緊急補強で、冬も盛り上がりを見せていた。DFフィルジル・ファン・ダイク(リヴァプール/2018年)やFWピエール・エメリク・オバメヤン(アーセナル/2018年)、MFブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド/2020年)、FWアーリング・ハーランド(ドルトムント/2020年)らも、冬の移籍市場で戦いの舞台を移した選手たちだ。

しかし、今季はどうだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大でクラブやそのオーナーの収入が減少したり、プレミアリーグへの参戦条件がイギリスのEU離脱によって厳しくなったりした影響も大きいだろう。ほとんどビッグディールは実現しなかった。

今冬の移籍市場において、最も市場価値の高い選手の移籍はアーセナルへ加入したMFマルティン・ウーデゴー(市場価値4000万ユーロ)。そして、アヤックスのFWセバスティアン・ハラー(同3000万ユーロ)、アトレティコ・マドリードのFWムサ・デンベレ(同3000万ユーロ)、ライプツィヒのMFドミニク・ショボスライ(同2500万ユーロ)、リヴァプールのオザン・カバク(同2500万ユーロ)と続く。しかもこのトップ5のうち3つの移籍(ウーデゴー、デンベレ、カバク)はレンタルによるもので、さまざまなクラブが資金繰りに苦戦していたのが見て取れる。MFクリスティアン・エリクセンやDFアシュリー・ヤングなど、ここ数シーズンは冬の移籍市場でも積極的に補強を行ってきたイタリアの名門インテルも、今冬の補強はゼロに終わった。

実際に、今冬の移籍市場がどれだけ寂しいものだったのかが、数字にも現れていた。スイスの研究機関『CIES FOOTBALL OBSERVATORY』によると、欧州5大リーグの冬の移籍市場における総支出は、昨年が12億9800万ユーロ(約1639億円)だったのに対して、今年はわずか2億9100万ユーロ(約367億円)。80%近くも下がっており、2012年以来の低さだという。各リーグで見てみると、以下の通りとなっている。

プレミアリーグ:3億2500万ユーロ(約410億円)→1億ユーロ(約126億円)
セリエA:3億5400万ユーロ(約447億円)→7300万ユーロ(約92億円)
ブンデスリーガ:2億6200万ユーロ(約331億円)→6000万ユーロ(約76億円)
リーグ・アン:1億5200万ユーロ(約192億円)→3300万ユーロ(約42億円)
リーガ・エスパニョーラ:2億500万ユーロ(約259億円)→2500万ユーロ(約31億円)

リーガ・エスパニョーラに至っては、クラブが使った移籍金の総額が昨年に比べて10分の1近くまで下がっており、5大リーグで最も低かったのだ。どのリーグも選手の移動が少なかったため、後半戦は各クラブの地力やチームとしての成熟度などがモノを言いそうだ。

2016年夏にポール・ポグバが1億ユーロ超えの移籍をして以降、移籍金は年々高騰していき、近年ではまだまだ実績の少ない若手にも信じられないような高額な移籍金が飛び交うようになった欧州移籍市場。だが、やはり世の中の情勢には逆らえなかった。コロナ禍といったやむを得ない部分と、FFP(ファイナンシャル・フェア・プレイ)が厳しく取り締まられるようになってきていることも相まって、久しぶりに落ち着いた1ヶ月間だった。ただ、近年の金額が“狂気じみていた”のも事実。もしかしたら今冬の移籍市場を機に、移籍ビジネスが落ち着きを取り戻すかもしれない。

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