[特集/世代交代を止めるな 01]バイエルン、BVB、マンC、そしてミラン ビッグクラブの世代交代4つの成功例

 選手が歳をとるものである以上、どんなクラブでも世代交代のときはやってくる。核となる選手をいかに入れ替え、戦力を落とさずにチームを活性化させるかは、永遠の課題と言っていい。加えて新型コロナ感染による特殊な環境に置かれた昨今は、これまでになく新陳代謝が激しい。予期せぬ選手の出場停止などでチームの状況は混乱しているが、だからこそ若手にとってはポジションを得るチャンスとも言えるのだ。今、いかに世代交代するか。今後をリードするクラブになれるかどうかは、そこにかかっていると言っても過言ではない。では、世代交代を成功させるためのカギとはなんなのか。近年ビッグクラブが行なった、4つの成功例を見てみよう。

ポジションは与えずに、競争でつかみ取らせる

ここ数年でコマン、ニャブリなどが台頭したバイエルンは、世代交代がうまく進んでいる photo/Getty Images

 以前、Jリーグクラブで長くゼネラルマネジャーを務める人物を取材したときに、世代交代の話になったことがある。いろいろな方法があると思うが、その方はこう語っていた。

「将来を期待している若手がいたとします。チームがベテランの肩を叩いてポジションを空け、若手に与えるのではダメなんです。このケースはうまくいかないことが多い。ポジションは競争して奪うもので、チームが用意するものではないんです」

 選手は実戦を積まなければ成長できないが、先行投資で実力不足の選手をピッチに立たせても、それは“賭け”のようなもので成功する未来を描きにくい。各ポジションで主力を務める選手が何歳で、あとどれぐらいの活躍が見込めるか。それによって補強する選手の年齢なども決まってくる。即戦力が必要なのか、伸びしろのある若手なのか。チームの強化部は中長期的な視点で選手編成を行っていかなければならない。

 そういった意味で、バイエルンの世代交代はスムーズで、ドイツ国内でトップを走り続けている。アリエン・ロッベン、フランク・リベリの日本なら同学年となる両者は、長くバイエルンの攻撃を支えた。個人的な印象としては、ともに最後のシーズンとなった2018-19もピッチに立てばしっかりと役割を果たしており、ケガによってフルタイム労働はできないが、「衰えたな」という感じではなかった。もちろん、全盛時のスピードやキレではなかったが、それを補う駆け引きのうまさがあり、ここぞというシーンでは輝いていた。とはいえ、後継者が必要なのは明らかで、もちろんバイエルンは動いていた。

 15-16にシャフタールからドウグラス・コスタを獲得。すでに欧州のカップ戦でも活躍していた選手で、年齢も20台半ばという即戦力の補強だった。同時にユヴェントスからローンでキングスレイ・コマン、17-18にブレーメンからはセルジュ・ニャブリを獲得。まだ“ロベリ”が健在という自チームの戦力状況を鑑み、ニャブリはローンでホッフェンハイムへ貸し出した。一気に若手へ入れ替えることはしなかったのである。

 18-19はコマン、ニャブリ、ロッベン、リベリが揃ってプレイしている。試合出場はニャブリ>リベリ>コマン>ロッベンの順で、“ロベリ”からのスムーズな世代交代が行われた。バイエルンは各ポジションでこうした新陳代謝がなされており、右サイドバックはフィリップ・ラーム→ラフィーニャ→ヨシュア・キミッヒと受け継がれ、バスティアン・シュバインシュタイガーの後継者にはチアゴ・アルカンタラなど、ポテンシャルの高い選手が台頭し、チーム力を落とさずに戦い続けてきた。なかでもキミッヒは、右サイドバックだけでなく中盤中央のポジションなども高いレベルでこなし、抜群の戦術理解力を備えたまさに“ラーム2世”。そのユーティリティ性で、バイエルンの世代交代に大きく寄与した存在だ。

 そもそも、ブンデスリーガで良いパフォーマンスをみせる選手はバイエルンへ行くという流れがある。マヌエル・ノイアーはシャルケ、ロベルト・レヴァンドフスキはドルトムントから引き抜いた。キミッヒ(ライプツィヒ)、レオン・ゴレツカ(シャルケ)もそう。最終ラインでプレイするジェローム・ボアテングが高齢になり、ダビド・アラバの今シーズン限りでの退団が濃厚な現在は、ダヨ・ウパメカノ(ライプツィヒ)を狙っている。

「バイエルンは多くのサッカー選手たちにとって、一番の目標となるクラブだ」

 これは、オリバー・カーン執行役員がイギリス『Sky Sports』に語った言葉である。ベテランを大切にしつつ、そのポジションで後継者となる選手をつぶさにリサーチし、実際に獲得してムリのない起用方法で成長へとつなげてきた。ポテンシャルを評価して獲得し、ウィングから左サイドバックにコンバートしてブレイクしたアルフォンソ・デイビスのようなパターンもある。バイエルンは選手たちを競争させて世代交代に成功しているクラブだといえる。

新陳代謝活発なドルトムント フレッシュな若手が次々ブレイク

ハーランドはオバメヤンの穴を埋める以上の活躍をみせている photo/Getty Images

 同じブンデスリーガのドルトムントはより新陳代謝が激しく、次々に若い選手が出てくる。頭角を現すと引き抜かれ、空きポジションが生まれる。ある意味、世代交代を宿命づけられているクラブだ。

 イルカイ・ギュンドアンを失えばユリアン・ヴァイグルが、ヘンリク・ムヒタリアンを失えばウスマン・デンベレやクリスティアン・プリシッチが活躍してきた。こうしたなかマルコ・ロイスは長くドルトムントでプレイするが、どうもケガがちだ。すると、ジェイドン・サンチョが穴を埋め、ジョバンニ・レイナという次なる逸材も出てきた。ドルトムントは若い選手の見本市のようなクラブで、これが激しい新陳代謝を生んでいる。

 ピエール・エメリク・オバメヤンを失ったときは前線がコマ不足だったが、アーリング・ハーランドを獲得したことで問題が一気に解決された。ただ、おそらくハーランドは長くドルトムントではプレイしない。それはクラブも織り込み済みで、16歳のユスファ・ムココをトップ登録し、おもに途中出場で経験を積ませている。ハーランドはスペインの首都方面からの関心が継続的に噂されており、違うクラブでもう一度世代交代に寄与することになるのだろう。

 他クラブから有望株を引き抜きつつ、競争させてポジションを勝ち取らせるバイエルンと、引き抜かれた主力のポジションを埋めるべく、常に次なる逸材を探し続けているドルトムント。対照的ではあるが、この2チームは選手編成がうまいと考えられる。

ミランの世代交代は10年越し カギとなったベテランの働き

ミランの大ファンであると公言するトナーリは、世代交代によって象徴的な存在となっていくだろう photo/Getty Images

 今シーズン、4大リーグでもっとも若いのがミランだ。ビッグクラブであるというプライドが邪魔をして長く迷走を続けてきた名門は、若返りを図ることによってセリエAで復権を果たそうとしている。第21節を終えて首位をキープしており、10年ぶりのスクデット獲得が現実になろうとしている。

 現代のサッカーは攻守両面で素早いトランジションが求められるが、これを可能とするのが若い選手たちのプレイスピード、判断スピードだ。ミランはどうか? チームの中心となっているのは、ジャンルイジ・ドンナルンマ(21)、テオ・エルナンデス(23)、フランク・ケシエ(24)、イスマエル・ベナセル(23)、アレクシス・サレマーカーズ(21)、ラファエル・レオン(21)、そしてサンドロ・トナーリ(20)など、いずれも20台前半の選手たちだ。

 重要なのは中盤になるが、ケシエはチームへの犠牲心&献身性があり、活発な運動量を駆使してボールを刈り取る。ポイントはポジショニングの良さ、トランジションの早さで、味方がボールをロストする→ケシエが奪い返す→すぐにゴール前へという縦に早い攻撃が可能となっている。ベナセル、サレマーカーズなども同じセンスを持ち、いまのミランは各選手が連動した攻撃を仕掛けることができている。

 トナーリは中盤で同じく防波堤となるタフなフィジカルに加え、ピルロのごとき中長距離のパスセンスをあわせ持つ逸材だ。短期の負傷離脱などがありながらも、ここまで中盤中央ではケシエ(19試合)チャルハノール(15試合)に続く12試合の出場数を確保しているのは指揮官の信頼の証。本人も生粋のミラニスタであり、ファンにとっては新たなミランを背負って立つ存在として、永きにわたる活躍を期待したいところだろう。

 ここまで復調するのに、ミランは約10年を費やした。名のあるベテランの代わりに名のあるベテランを獲得しても、それは改革にならない。ナイジェル・デ・ヨング、ジェレミー・メネズ、アドリアーノ、フィリップ・メクセス、本田圭佑。これは、2010年代中期の主力選手たち。経験を積んだアラサーが多く、自分たちでなにかを生み出すというアイデアが感じられず、個々がそれぞれにプレイしている印象だった。

 とはいえ、必ずしもベテランの存在がチームにブレーキをかけるわけではない。いまのミランの前線には、39歳となったズラタン・イブラヒモビッチが君臨している。加入したのは昨シーズンの冬で、絶対的なストライカーを経て、若い選手たちが前線にボールを運べばゴールになると認識。前線に収まりどころができたことで中盤、最終ラインの選手も積極的な攻撃参加が可能となり、テオによる左サイドからの突破にも磨きがかかっていった。世代交代の成功には、追い越される側であるベテランが引っ張ることも重要であると彼は示してくれている。

ブレないベースがあるからこそ、マンCの世代交代は成功した

リヴァプール戦で3得点にからんだフォデンのドリブルは一見の価値がある photo/Getty Images

 混戦続くプレミアリーグでは、マンチェスター・シティが首位の座を固めつつある。シーズンオフにニコラス・オタメンディ、ダビド・シルバというオーバー30がチームを去った。さらには、コロナ陽性により、アイメリック・ラポルテ、イルカイ・ギュンドアン、リヤド・マフレズらがプレイできない時期があった。セルヒオ・アグエロ、ベルナルド・シウバもケガで出遅れるというシーズンだった。

 予想不可能だったこうした事態が、新たな選手の台頭を生むことは珍しくない。チームが苦しい時期、ベンフィカから加入したルベン・ディアスは冷静かつ安定感あるプレイで最終ラインを支え、短期間でペップ・グアルディオラ監督の信頼を勝ち取った。

 カイル・ウォーカーに代わり右サイドバックを任されたジョアン・カンセロも戦術への柔軟な対応をみせ、ポジションを獲得している。与えられた役割は、マイボールのときは中盤にポジションを上げ、いわゆる5レーンを意識してハーフスペースに入るというもの。ポジショナルサッカーを追求するグアルディオラ監督がバイエルン時代にフィリップ・ラームに与えた役割と似ているが、カンセロはこの要求にしっかりと応えている。
 懸念されたダビド・シルバの穴は、フィル・フォデンが埋める。第23節リヴァプール戦(○4-1)では49分にギュンドアンの先制点につながるシュートを放ち、73分には右サイドからキレのあるドリブルを仕掛けてギュンドアンの2点目をアシスト。さらに、83分にはまたも右サイドから仕掛け、今度は自らフィニッシュしてゴールを奪った。相手GKアリソンがパスをくれるという運もあったが、ポテンシャルが発揮された一戦だった。

 グアルディオラ監督は決してブレることがなく、選手にはっきりと役割が与えられる。ピッチに立つ選手には迷いがなく、プレス→ボール奪取→フィニッシュという流れが異様に早い。ひとつのクラブでの指揮が自身最長となる5年目を迎えて、グアルディオラ監督の落とし込んだ構想と戦術が、マンCの世代交代をスムーズに推し進めている。

文/飯塚 健司

※theWORLD254号、2月15日配信の記事より転載

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