[水沼貴史]アトレティコは超守備的布陣が裏目に チェルシー第2戦のキーマンは“マウントの代役”
水沼貴史の欧蹴爛漫052
1stレグでは6バックの一角としてプレイしたコレア(右)。攻撃面では存在感を示せなかった photo/Getty Images
2ndレグでアトレティコがすべきは……
水沼貴史です。今季のUEFAチャンピオンズリーグの決勝ラウンドが、ついに始まりましたね。先日、アトレティコ・マドリード対チェルシー(ラウンド16)の1stレグをチェックしたのですが、まさかアトレティコが[6-3-1]という超守備的な布陣を敷くとは思いませんでした。
アトレティコのディエゴ・シメオネ監督としては、直近の国内リーグ7試合連続で失点を喫していることもあり、まずは手堅く守りたいという意図があったのかもしれません。ただ、この試合では6バックのデメリットばかりが目立ってしまいました。今回は両チームの1stレグでのパフォーマンスを振り返るとともに、2ndレグの見どころについてもお話ししましょう。
[3-4-2-1]が基本布陣となりつつあった今季のアトレティコですが、1stレグの最終ラインは左からトマ・レマル、マリオ・エルモソ、フェリペ、ステファン・サビッチ、マルコス・ジョレンテ、アンヘル・コレアという並びでした。これは私の推測ですが、自陣ペナルティエリアの両脇のレーン(ハーフスペース)を徹底的に埋めるべく、シメオネ監督は6バックを選んだのではないでしょうか。
ティモ・ヴェルナーとメイソン・マウントというチェルシーの2シャドーは、今年1月にトーマス・トゥヘル監督が就任して以降、ハーフスペースへの侵入を虎視眈々と狙うプレイを見せています。シメオネ監督としては、彼らにハーフスペースを突かれ、チャンスメイクされるのを防ぎたかったのかもしれません。
ただ、1stレグに関しては自陣ゴール前のスペースを埋めることに気を取られすぎて、ボールホルダーへの寄せが甘くなってしまいましたね。アントニオ・リュディガー、アンドレアス・クリステンセン、セサル・アスピリクエタというチェルシーの3バックや、マテオ・コバチッチとジョルジーニョの2ボランチに簡単にボールを運ばれたり、サイドチェンジのパスやスルーパスを蹴られてしまう場面が度々見受けられました。必然的にチェルシーに押し込まれる時間が長くなってしまいましたし、ヴェルナーやマウントによるハーフスペースへの侵入も、思いのほか食い止められなかったというのが私の感想です。
また、元々[3-4-2-1]の2シャドーの一角であるはずのコレアが右サイドバック、右ウイングバックであるはずのマルコス・ジョレンテがセンターバックの一角に入ったことで、彼らが攻撃面で輝けませんでした。
コレアは最前線のルイス・スアレスとのパス交換が魅力的ですし、ジョレンテも本来であれば縦への推進力溢れるドリブルで攻撃に厚みをもたらしてくれる存在なのですが、2人とも最終ラインに板付き状態でしたので、カウンターの場面でも攻め上がりに時間がかかりすぎていましたね。彼らの持ち味が消えてしまったことも踏まえると、今回の6バックは失敗だったと言って差し支えないでしょう。
1stレグを0-1で落としたアトレティコが2ndレグで心がけるべきは、前線からアグレッシブにプレスをかけること。実は1stレグでもハイプレスを行えている時間帯はあり、前半1分すぎには相手GKエドゥアール・メンディのトラップミスを誘えていました。こうしたチャンスを2ndレグで何度も作れれば、逆転での準々決勝進出が見えてきます。そのためにも、守備陣形が1stレグのように後ろに重たくならないようにしたいですね。
もちろん、2ndレグで先に点を取られるとより苦しくなりますし、90分間ハイプレスをかけ続けるのは難しいと思います。シメオネ監督がどの時間帯を勝負所と捉え、選手たちにハイプレスをかけさせるのか。彼の判断が試合の鍵を握りそうです。
トゥヘル監督が就任して以降、プレイタイムを伸ばしているマルコス・アロンソ photo/Getty Images
猛威を振るうヴェルナー&アロンソのホットライン
アトレティコに先勝したチェルシーですが、監督がフランク・ランパードからトゥヘルに代わり、攻撃が多彩になった印象があります。特にトゥヘル監督のもとで出場機会を得ているマルコス・アロンソが、攻撃面で良いアクセントになっていますね。
サイドに張って上下動することに特化したサイドバックで、ランパード前監督に重宝されていたベン・チルウェルとは違い、アロンソは外のレーンから内側に入るプレイであったり、敵陣ハーフスペースでのチャンスメイクが上手です。
トゥヘル監督が就任してからのチェルシーの基本布陣は[3-4-2-1]で、アロンソは左ウイングバックで起用されているのですが、彼がハーフスペースでボールを受けて、そこからヴェルナーとのワンツーパスで局面打開を試みることが多いですね。この攻撃パターンはアトレティコとの1stレグでも機能しているように見えました。
チェルシーとしては、2ndレグでもヴェルナーとアロンソによるポジションチェンジで相手守備陣を撹乱したいところですし、アトレティコがどんな守備隊形を敷き、彼らのポジションチェンジに備えるのかも、2ndレグの注目ポイントのひとつです。
1stレグで途中出場を果たしたツィエク。2ndレグのキーマンとなりそうだ photo/Getty Images
鍵を握るチェルシーの右サイドの攻撃
チェルシーにとって気がかりなのは、マウントとジョルジーニョが累積警告により、2ndレグに出場できないこと。ジョルジーニョの代役はエンゴロ・カンテだと思われますが、マウントが主戦場としている2シャドーの右には、カイ・ハフェルツ、ハキム・ツィエク、クリスティアン・プリシッチと、複数の候補者がいます。
どの選手でも遜色なくこなせそうですが、ツィエクを起用するのが一番良さそうな気がします。彼の利き足は左ですが、アヤックスにいた頃のプレイぶりを見る限り、右サイドからのカットインや、敵陣ゴール前中央の密集地帯でボールキープすることを苦にしていない感じがします。
2ndレグでツィエクが2シャドーの右で起用され、彼が中央でタメを作る。もしくは彼が右サイドからカットインして相手守備陣を引きつけ、右ウイングバックのカラム・ハドソン・オドイ(もしくはリース・ジェイムズ)へスルーパスを出すという場面を多く作れれば、チェルシーは得点を量産できるかもしれません。マウント不在のチェルシーの右サイドの攻撃がどの程度機能するかも、興味深いポイントです。
ここまでいくつか見どころを挙げさせて頂きましたが、アトレティコがハイプレスでチェルシーを飲み込むのか、それともチェルシーがアトレティコの守備をいなし、敵陣でプレイする時間を増やすのか。これが勝負の大きな分かれ目となるでしょうし、私もこの点に注目しながら、手に汗握る攻防を楽しみたいと思います。
ではでは、また次回お会いしましょう!
※UEFAチャンピオンズリーグ・ラウンド16(2ndレグ)、チェルシー対アトレティコ・マドリードの一戦は、日本時間3月18日(木)の早朝5時キックオフ!
水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。