[特集/頼れる大ベテラン 03]頼れるDFが醸し出す大ベテランの味

 ベテラン選手が活躍する上で最も必要な要素のひとつは、間違いなくこれまでのキャリアで得てきた「経験」だろう。そこから来る嗅覚や駆け引きで、歳を重ねても衰えを知らず、ゴールやアシストを量産する選手も少なくない。ただ、ベテラン選手の経験値がより顕著に現れるのは、攻撃的な選手よりもむしろ守備的な選手の方かもしれない。守備は勢いだけではどうにもならないことが多く、地道に積み重ねていくしかないからだ。まさに経験に勝るものなし。

 若手の台頭が著しい一方で、40歳近くまで現役生活を続ける選手たちも増えてきているが、今季も若手に負けじとピッチで味のあるプレイを見せるベテラン選手たちがいる。最高峰の戦場で10年以上も磨き続けてきた守備によって、勢いのある若手たちを手玉に取ったり、チームに安定感をもたらしたりする姿は、世界中のサッカーファンを勇気づけているのではないか。

クレバーさやキャプテンシーでチームを引っ張る統率者

クレバーさやキャプテンシーでチームを引っ張る統率者

クラブや代表で様々な栄光と苦難を経験してきたチアゴ・シウバ。豊富な経験と高いプロ意識でチェルシーを統率する photo/Getty Images

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 35歳を超えて第一線で活躍するためには、若いころから高い意識を持って身体のメンテナンスを行っていなければならない。アルコールは飲まず、揚げ物も食べない。そうした選手はJリーグにもいる。「できれば40歳までプレイしたいと思っています」。ある30代の選手はそう語っていた。

 衰えを感じてからなにかをはじめても、それはもう遅い。大事なのは、いまある力を落とさないこと。とはいえ、身体の変化、能力の変化はどうしても生じてくる。そのときは、それに合わせたプレイスタイルを構築することだ。DFであれば、単純に身体にぶつけてバトルするだけではなく、良いポジションを取る。頭を使って相手との駆け引きに勝利するなど、経験を積んだほうがより洗練される部分がある。

 パリSGからチェルシーに移籍したチアゴ・シウバは、プロ意識が高く、練習への取り組みが素晴らしいことで知られる。「自分のことをうまく管理できていて、練習も素晴らしい。他の選手たちが彼のことをよくみていて、参考にしようとしている。彼のパフォーマンスと練習への姿勢は、ホントに素晴らしい」。これが、フランク・ランパード前監督によるチアゴ・シウバの評価だった。
 チェルシーでのデビュー戦となった第3節ウェストブロム戦ではトラップをミスし、失点する原因となった。あまりにも軽いプレイで、行く末が懸念された。しかし、その後は幅広い視野でピッチを見渡し、的確なポジション取りでスペースをカバー。あるいは、相手FWの動きをよく観察し、少しでも足元からボールが離れると身体をスッと入れてボールを奪う。チアゴ・シウバに関しては、こうしたプレイスタイルが若いころから確立されていた。もともとクレバー、スマートというタイプで、経験を重ねたいまはより各選手の動きがみえているのか、シンプルなプレイでチームを助けている。

 フランクフルトの顔となり、引退後もブランドアンバサダーとしてクラブに残ることが決まっている長谷部誠も同じタイプだと言えるかもしれない。冷静にプレイするだけではなく、キャプテンシーがあり、必要なコーチングで味方のポジションを修正し、自分が動き、人を動かしてディフェンスする。チアゴ・シウバや長谷部は、オフ・ザ・ボールの動きが大事なのは攻撃面だけではなく、守備面でも同じだと示している。

「子どもたちを人間性の優れた大人へ。世界を身近に感じ、想像力を働かせ、世界で活躍できる子どもたちを育てたいと思います」

 これは、自身が設立したスポーツクラブのコンセプトとして長谷部が語っている言葉だ。若いころから身体はもちろん、心も整えてきた人格者である。ポジションが最終ラインになったことで、先読み、駆け引きといった頭を使ったプレイがより光り輝き、現役年数を伸ばすことにつながっている。

 フランクフルトでスポーツディレクターを務めるフレディ・ボビッチは、「絵に描いたようなプロフェッショナル。サッカーをなによりも優先し、勤勉に身体のケアをしている。いまの年齢でも主力としてチームに不可欠な存在であり続けているのは、プロフェッショナルな姿勢があればこそ」とクラブのHPでコメント。そして、長谷部との契約を2022年まで延長している。長谷部は来シーズンもフランクフルトでプレイする。

若手がお手本にすべき、球際や競り負けない闘争心

若手がお手本にすべき、球際や競り負けない闘争心

かつては悪童というイメージが強かったペペだが、近年は退場もなく、ポルトの頼れるキャプテン。闘志剥き出しのプレイも健在で、ユヴェントス戦での存在感も抜群だった photo/Getty Images

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 大ベテランになっても、若かりし頃から胸に抱く熱いハートを維持し続けている選手たちがいる。それは時に若い選手たちを惹きつけ、良いお手本になったりもするだろう。

 ポルトの最終ラインで身体能力の高さ、1対1の強さをみせるペペはいつの時代も血気盛んで、ポルトガル代表では2014年ブラジルW杯の初戦前半に退場し、レアル・マドリードでは相手を蹴って10試合出場停止を経験している。エル・クラシコで退場したこともあり、数的不利をもたらすという意味でプレイするチームに迷惑をかけ続けてきた。

 一方で、これだけ本能むき出しで闘える選手、勝利のために身体を張れる選手がチームメイトにいるのは頼もしいという見方もできる。現在ポルトでキャプテンを務めるペペは、この“頼もしい”という印象を与えるプレイをみせている。

 顕著だったのはユヴェントスを敗退に追い込んだCLラウンド16で、クリスティアーノ・ロナウドに仕事をさせなかった。延長戦に試合が突入するなか、高い集中力を維持してチームを統率し、ペナルティボックスのなかでは身体を張ってゴールを許さなかった。

 このパフォーマンスをみたリオ・ファーディナンドは、「もし自分がどこかのクラブで指導していたら、若いCBにこの映像をみせる。ポジショニング、モチベーション、コミュニケーション、責任感、ピンチを読む力、ペナルティボックスでの身体の使い方、守り方などすべて参考になる」と英紙『Daily Mail』でコメントしている。

 年齢を重ねたペペは、闘争心をそのままに、老獪なプレイも身につけている。これもまた、本能から来るものだろう。闘う、守るために、いまの自分にできることをしている。それが、効果的なポジション取りやまわりの選手へのコーチングにつながっている。加えて、いまだ高い身体能力を維持しており、まだまだ活躍できそうだ。

 同じポルトガル代表のジョゼ・フォンテもリーグ・アンで首位を走るリールでキャプテンを務め、チームをまとめている。若い選手を育て、売却して儲けを出す。リールはこのクラブ戦略を公にしていて、守備陣では将来有望なスベン・ボトマン、チアゴ・ジャロなどが2000年代生まれだ。これらの選手にとって、いまも身体の強さ、球際の強さを維持しているフォンテの存在は大きい。どのように身体をメンテナンスしているか、日々どのような姿勢でサッカーに取り組んでいるか、間違いなくお手本になる。

 リールに限らず、リーグ・アンには若くて将来性のある選手が多く、とくに前線でプレイする選手は個人能力が高い猛者ばかり。そんなイキのいい相手の突破に対して、球際で負けず、決して競り負けない。飛び込むタイミング、身体の使い方がうまく、相手をトップスピードに乗らせない高度な守備技術をフォンテは持っている。

試合の流れを読む抜群の察知能力

試合の流れを読む抜群の察知能力

イタリアでより磨きをかけたアルビオルの守備は、まだまだ錆び付いていない。今季リーグ戦29試合出場は、GKを除くとチーム最多出場となっている photo/Getty Images

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 ベテランならではの状況判断や察知力の高さも、歳を重ねて活躍する上では欠かせない。

 リーガではビジャレアルのラウール・アルビオルが若いチームメイトの成長を促す存在になっている。かつてバレンシアやレアル・マドリードで活躍し、ラファエル・ベニテスが監督だったナポリへ。足元のうまさ、粘り強いディフェンスでチームを支え、6年間セリエAで戦い続けた。

 2019-20からはビジャレアルでプレイ。年齢的にフルタイムでの労働はどうなのかと考えられたが、そんな心配は必要なかった。察知力の高さを活かした抜群のポジション取り、衰えないスタミナでチームに安定感をもたらし、4位へ導いた。守備が安定すると、チーム全体に良い流れが波及するというサッカーでの法則を証明してみせた。

 そうなると、そのなかでプレイする選手も覚醒することになる。CBでコンビを組む12歳差のパートナーであるパウ・トーレスはスペイン代表入りし、ビッグクラブから狙われる選手となった。身体能力が高くもともと良質な選手だったが、チャレンジ&カバーといった連携を駆使して相手のアタックを抑えるなど、状況判断に長けたアルビオルとプレイすることで、選手としてひとつ上のステージに到達した。これもまた、ベテランのなせる業である。

 セビージャでもキャプテンを務めるベテランが相変わらずのパフォーマンスをみせている。こちらは激しい運動量が求められる右SBだ。35歳となったヘスス・ナバスで、試合の流れを察知した効果的な攻撃参加、正確なクロスでチャンスを作り出している。

「年齢を重ねても、オレはできると考えて若いときと同じようにプレイしてしまうことがある。そうすると嫌でも衰えを感じることになる。年齢を重ねたら、年齢を重ねたなりのプレイをすればいい」

 これは、元日本代表選手から聞いた言葉で、こう考えることで動き、プレイの質が変わってくる。さらには、より試合展開に敏感になることで、みえる世界も変わってくる。ヘスス・ナバスもいまは90分間を全開でプレイするのではなく、戦況を見極め、タイミングを心得た攻撃参加をみせる。とはいえ、十分にアップダウンを繰り返しているが……。

 ここに名前をあげた選手以外にも、35歳を超えて活躍する選手は多い。DFはスピードがないと難しいと考えがちだが、スペースを消す、動き出しを抑えるなど、対応方法はいろいろある。ファーディナンドがペペのプレイを若いCBにみせたいと語った事実が、経験を重ねた選手たちの存在の大きさを表わしている。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)256号、4月15日配信の記事より転載

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