[水沼貴史]マンCはPSGのカウンターに備えよ 攻撃の切り札は“カンセロ・ロール”
水沼貴史の欧蹴爛漫054
マンCのグアルディオラ監督(左)と、PSGのポチェッティーノ監督(右)の采配にも注目が集まる photo/Getty Images
鍵を握るグアルディオラの人選
水沼貴史です。レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長が、イングランド、スペイン、イタリアのビッグクラブを中心とする欧州スーパーリーグの設立を突然発表したことで、サッカー界に動揺が走りましたね。スーパーリーグに名を連ねていたレアル、マンチェスター・シティ、チェルシーの3クラブが、UEFAからの制裁で今季のチャンピオンズリーグから除外されるといった話も浮上しましたが、スーパーリーグ構想が立ち消えになったことで、とりあえず来週に予定されているチャンピオンズリーグの準決勝は行われそうです。私としてはビッグクラブも中堅クラブも同じ舞台で実力をぶつけ合い、それによって今後も数多くのドラマが生まれることを願うばかりです。
さて、今回はチャンピオンズリーグ準決勝、パリ・サンジェルマン(PSG)対マンチェスター・シティの1stレグの見どころをお話しします。両チームの戦い方の特長を踏まえつつ、試合の行方を左右しそうなポイントを絞ってみましたので、ぜひ観戦のお供にして下さい。
準々決勝でバイエルン・ミュンヘンと対戦したPSGは、2ndレグであえて自陣にリトリートし、カウンターで相手ゴールを脅かしました。守備隊形は[4-4-2]で、俊足のネイマールとキリアン・ムバッペが前線に残る形でしたが、この2人が執拗に最終ラインの背後を狙い、何度も決定機を迎えていたので、バイエルンにとってPSGのカウンターは恐るべきものだったはずです。
今年1月からPSGを率いているマウリシオ・ポチェッティーノ監督は、対戦相手の出方や予想される試合展開に応じ、ポゼッションとカウンターを使い分けるタイプの指揮官です。マンCはポゼッション型のチームですので、来週の準決勝1stレグでもバイエルン戦と同じく[4-4-2]の布陣でリトリートし、カウンターで得点を狙うという戦い方を選手たちにさせるのではないでしょうか。
PSGのカウンターが強力であることを踏まえると、マンCを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督の最終ラインの人選が、この試合の鍵を握りそうですね。ドルトムントとの準々決勝2ndレグでは左サイドバックにオレクサンドル・ジンチェンコが起用されましたが、PSG戦で彼がこのポジションを務めた場合、ネイマールやムバッペ、そして右サイドハーフのアンヘル・ディ・マリアとのスピード勝負に敗れてしまう可能性があります。バンジャマン・メンディはジンチェンコよりも速く走れますが、今季のプレミアリーグで先発出場が僅か9試合、チャンピオンズリーグでも先発が1試合に留まっているので、試合勘に不安ありです。
ジンチェンコよりもスピード勝負で計算が立つジョアン・カンセロを左サイドバック、同じく快足が持ち味のカイル・ウォーカーを右サイドバックに置いてPSGのカウンターに備えるのが得策だと私は思いますが、グアルディオラ監督はどう考えるのか。当日のスターティングラインナップが楽しみです。
持ち前のハーフスペースを突く動きで、マンCの攻撃にアクセントを加えているカンセロ photo/Getty Images
カンセロを起用すれば、攻撃面でもプラスに
長短の正確なパスや、力強い長距離ドリブルでマンCの攻撃を牽引してきたMFケビン・デ・ブライネが、今月17日のFA杯準決勝(チェルシー戦)で負傷してしまいました。彼抜きでPSGとの大一番に臨むことになりそうですが、左サイドバックにカンセロを起用すれば、デ・ブライネ不在の影響を何とか抑えることができるかもしれません。
カンセロが得意としているのは、味方が自陣でボールを保持している時にボランチの脇に立ってパスを受けたり、敵陣にボールが入った時にハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)に走り込むという、“偽サイドバック”の役割。彼のこの動きは“カンセロ・ロール”と呼ばれていて、今やサッカー界に浸透していますね。カンセロがタイミング良く敵陣ゴール前中央でボールを受け、インサイドハーフのベルナルド・シウバやイルカイ・ギュンドアン、左ウイングFWのフィル・フォデン(ラヒーム・スターリング)とのパスワークに絡めれば、PSGの4バックと4人の中盤による守備ブロックをかき乱せるでしょう。
マンCの基本布陣は[4-3-3]か[4-2-3-1]ですが、カンセロが敵陣中央に入った時にはルベン・ディアスとジョン・ストーンズの2センターバック、プラスもう片方のサイドバックの計3人で3バックに変形しています。この3バックがネイマール、ムバッペ、ディ・マリアとのスピード勝負に勝ち、PSGのカウンターの芽を摘む、そしてカンセロを中心とするパスワークでPSGの選手たちを走らせて疲弊させれば、試合は自ずとマンCペースになるはずです。カンセロが如何ほど敵陣中央でボールを受け、質の高いパスやドリブルを繰り出せるか。これが、この試合の最大の注目ポイントでしょう。
対するPSGとしては、力強い対人守備が持ち味のイドリッサ・ゲイェとレアンドロ・パレデス(マルコ・ヴェッラッティ)の2ボランチと、プレスネル・キンペンベとダニーロ・ペレイラ(マルキーニョス)の2センターバックの計4人で自陣ゴール前中央のスペースを消したいですね。B・シウバやギュンドアンは目まぐるしくポジションを変えますし、リヤド・マフレズとフォデン(スターリング)の両ウイングFWは目一杯サイドに張り、PSGのセンターバックとサイドバックの間を空けにかかるはずです。カンセロもしつこく中央に入ってくるでしょう。PSGとしては、これらの動きに釣られてハーフスペースや、最終ラインと中盤の間が空くという事態は避けたいところです。マンCのポゼッションサッカーと、PSGのカウンターサッカーのどちらが勝るのか。この点に注目しながら、ぜひ試合を楽しんで下さいね。
ではでは、また次回お会いしましょう!
※UEFAチャンピオンズリーグ準決勝1stレグ、パリ・サンジェルマン対マンチェスター・シティの一戦は、日本時間4月29日(木)の早朝4時にキックオフ!
水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。