人生何が起こるかわからない。自身が予想だにしていなかった不運な出来事が起こることもあるだろう。ただ、その転機をネガティブなものにするのではなく、いかにしてポジティブな方向へと持っていくか。成功を収められる人と、収められない人の大きな差かもしれない。それは一流のサッカー選手といえども変わらない。そんな自身にとってネガティブな要素をポジティブな要素へと変え、今季大成功を収めて見せたのが、インテルに所属するモロッコ代表DFアクラフ・ハキミだ。
現在22歳のハキミはレアル・マドリードの下部組織出身で、2017年10月に18歳ながらトップチームデビューを飾るなど若い頃から将来を嘱望されてきた選手のひとり。2018年夏からは実戦経験を積むために、レンタル移籍によってボルシア・ドルトムントで2年間プレイすることとなった。そして、ドイツでは公式戦73試合に出場して12ゴール17アシストと、しっかり結果を残して見せた。この活躍により、レアルへ復帰してからの活躍に期待したファンも少なくないのではないか。
しかし、ハキミのレアルでの未来はすぐさま絶たれることになってしまう。自身も手応えを感じていたドルトムントでの武者修行から帰ってきた直後の昨年7月、レアルからインテルへの移籍が発表された。レンタル移籍ではなく、完全移籍でのだ。ハキミは当時のことをスペイン『EL CHIRINGUITO』で次のように振り返っている。
「みんなは僕が『一定の出場時間を望んでいる』と言っていたけど、(移籍理由の)真実はそうではないんだ。マドリードは僕にとって我が家のようだった。だから、僕はそこに残りたかった。でも、彼らは別の方法を決断したんだよ。僕は与えられた任務はこなせていると思っていたんだけど、クラブはパンデミックによる経済的な問題を抱えていた。その結果、僕はチームをさらなければならなかったんだ」
どうやら、ハキミ本人は8歳ころから過ごしてきたレアルでのプレイを望んでいたが、不運にもコロナ禍によるクラブへのダメージが大きく、退団を余儀なくされた模様。ただ、ハキミは自身が望んでいなかったレアルとの別れを強いられるも、しっかりと気持ちを切り替え、昨夏の転機をチャンスへと変えてみせた。新天地に選んだインテルで躍動し、クラブに11年ぶりのスクデットをもたらして見せたのだ。
開幕戦となったフィオレンティーナ戦では、後半からの途中出場ではあったが、ロメル・ルカクの貴重な同点ゴールをアシスト。4-3の逆転勝利に貢献し、早速結果を残した。この開幕戦での接戦を落としていれば、新型コロナウイルス感染などによって離脱者が続出し、苦戦を強いられた序盤戦で踏ん張ることができず、今季のここまでの躍進や勢いはなかったかもしれない。
その後、第2節ベネヴェント戦でも1ゴール1アシストの活躍を見せるなど、ハキミはすぐさまインテルの主力へと定着。ここまでフィールドプレイヤーとしてはチームで2番目に多いリーグ戦33試合に出場し、7ゴール7アシストの大活躍を披露している。持ち味の圧倒的なスピードは脅威で、それを活かしたドリブルや裏への抜け出しで相手選手をぶっちぎるシーンは爽快。イタリア挑戦1年目ながら、セリエAで今季最も存在感を放っている右サイドプレイヤーと言っても過言ではないだろう。間違いなくインテルのスクデット獲得の立役者のひとりだ。まだシーズンは終わっていないが、セリエAの優勝決定を受けて、ハキミは次のようなコメントを残した。
「サッスオーロ対アタランタ戦(1-1)を見たよ。これは僕らにとって重要なタイトルだ。イタリアでの最初のシーズンだったけど、非常にポジティブなものになったと思う」
もちろん、恵まれた監督やチームメイトとの出会いなど、成功を収めるには運も必要かもしれない。ただ、ハキミのネガティブな要素をポジティブな要素へと変える力は、今後も自身の成長やキャリアを大きく助けるはず。インテルのスピードスターの来季以降のさらなる活躍に期待だ。なお、今季の活躍により、レアルへの復帰の噂もちらほら聞こえてくるハキミだが、本人はこの件に関して「どこからも声はかかっていないよ。昨季、彼らは僕と契約を結ぶチャンスがあった。でも異なる選択をした」とコメント。10年以上も過ごした愛するクラブといえども、すぐさまレアルへ復帰する可能性はなさそうか。