頭ひとつ抜けているイタリア ホーム3連戦の恩恵も絶大
予選を全勝で勝ち抜いたイタリアは、2018年10月から25試合を戦って無敗をキープしている photo/Getty Images
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グループAは、イタリアが抜けていると見て間違いない。実力はもちろん、日程や環境も追い風。グループステージ(GS)でつまずくようなことは起こらないはずだ。
4月発表のFIFAランキングが7位のイタリアは、EURO2020予選で10戦全勝。37得点4失点と、その内容でも文句の付けどころがない成績を収めている。
システムは[4-3-3]がベースだが、攻撃時には片方のSBが高い位置をとる[3-4-3]のイメージだ。
ボール支配という面では他の優勝候補に比べてデータ的にやや見劣りするものの、インテンシティの高さは目を見張るものがあり、技術不足は強度の使い分けでカバーしている印象だ。技術不足とはいっても、GSで相手に後れを取るようなレベルではない。
タレント揃いのアッズーリ。今季ユヴェントスで飛躍したフェデリコ・キエーザも捨てがたいが、中盤の一角を任されるであろうニコロ・バレッラが肝になると予想する。
ウイングを2枚置くイタリアにおいて、2列目からの飛び出しというのは非常に重要だ。ジョルジーニョ、もしくはマルコ・ヴェッラッティがボールを持った際にCFは裏を狙い、両ウイングも前のスペースに走る。そこでバレッラが抜群のタイミングで入ってくると、相手の守備が対応できない。その場はしのいだとしても、今度はウイングの警戒が薄くなる。バレッラの運動量が、相手の歯車が乱すキッカケになる。今季インテルで大きく飛躍したバレッラ。昨年10月のオランダ戦では、そのポジション取りだけで相手の脅威になっており、イタリアの実力が頭ひとつ抜けているグループAで大暴れする可能性は高い。
加えて、イタリアは日程面でも有利だというのだから、同組のライバルにとってはたまらない。GSの3連戦は、すベてが同国のホームであるローマにて行われる。大会のオープニングゲームを担当するため、第1戦トルコ戦と第2戦スイス戦の間が中4日という点もメリットだ。
もちろん、一番大事なのは初戦。グループAで最も楽とみられる相手で、当然勝ち点3が必要だ。グループ3位でも決勝トーナメントに行ける可能性があるレギュレーションのため、初戦に勝てば、精神的にだいぶリラックスできる。反対に、ここで入り方に失敗すると、たちまち悲観論が発生し、大きな混乱を生みかねない。そういった意味でも、やはり初戦が何より大事だ。コンディションのピークは決勝トーナメントに合わせているはず。短期決戦ゆえに歯車が狂い出したときは危険だが、視界は良好と言える。
強国だが、不安要素も スイスを襲う“魔の移動”
スイスに欠かせないシャキリ。彼とジャカの2人がどれだけ攻撃に絡めるかがポイントとなってくる photo/Getty Images
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とはいえ、グループAには侮れない相手も多い。スイスはFIFAランキング13位の強国で、予選ではデンマークやアイルランドといったライバルを抑えてグループ首位通過を果たしている。
フォーメーションは、最近の試合で[3-4-1-2]を選択している。組織的な守備で手堅い戦い方が計算できるチームだが、攻撃面ではやや不安が残りそうだ。ハリス・セフェロビッチは所属するベンフィカでゴールを量産しているが、相棒のブレール・エンボロはボルシアMGで今季5得点と物足りない。アウクスブルクで飛躍中のルベン・バルガスは期待の選手だが、左ウイングが本職で、そもそもスイスの戦い方に合うのかという点で疑問符が付く。
やはりサイドからリカルド・ロドリゲスのようなキック精度に自信のある選手が中に入れて、セフェロビッチらが潰れ役になり、ジェルダン・シャキリやグラニト・ジャカが2列目から狙う形で得点を演出していくことになるか。その方が効率は良さそうだ。
日程面はこのグループで最もタフ。初戦がバクー(アゼルバイジャン)で行われるウェールズ戦で、2戦目がローマに移動してのイタリア戦。そして3戦目は再びバクーに戻ってのトルコ戦となる。両都市の直線距離は約3110km。GSだけで往復6000km以上というのは、まさに“魔の移動”と言えるだろう。
いっそのことイタリア戦を捨ててしまえば楽になりそうだが、短期決戦でその選択をするのはあまりにもリスクが高い。ただ、初戦のウェールズ戦に勝てば、2戦目はある程度リラックスできるのは間違いない。そういった意味でも、やはり初戦で勝てるかどうかがカギを握る。
グループAのダークホース? ウェールズの強みはベイルにあらず
ベイルやラムジーに注目が集まるウェールズだが、成長株のロドンらが奮闘する守備陣も見逃せない photo/Getty Images
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まず、ライアン・ギグス監督が指揮を執らないことは、他国にとって読みにくい。同指揮官は女性への暴行罪で起訴されたため、先月、ウェールズ・サッカー連盟がEUROでの指揮をロバート・ページ暫定監督(前アシスタントコーチ)に任せることを発表している。
昨年11月からページ監督が担当しているウェールズは、[3-4-3]をベースにした戦い方。大エースのガレス・ベイルが、中央にもサイドにも顔を出す自由を与えられる。そこで違いをつくって、ゴールまでというシンプルな戦いだ。
ただ、EURO予選8試合でのゴール数は「10」とかなり少ない。むしろ、6失点の守備に強みがある。英国特有のフィジカルと気迫を前面に出した守備陣が踏ん張れば、良い形で攻撃にもつながるだけに、浮沈のカギはチーム全体の守備にありそうだ。
日程面は悪くない。初戦のスイス戦がまず重要だが、2戦目も同じバクーでのトルコ戦。そしてGS最終節はローマに移動してイタリア戦だ。こちらはイタリアがすでに決勝トーナメント進出を決めてリラックスしている可能性も考えられるだけに、勝ち点を奪い取ることもあり得るか。守備組織のしっかりとしたチームは短期決戦向き。もしかすると、ウェールズはこのグループでイタリアに次いで突破の可能性が高いチームかもしれない。
大きな可能性秘めるトルコ 要所に実力者揃う“堅守軍団”
トルコの攻撃を司るチャルハノール。右足の精度は世界でも屈指のレベルにある photo/Getty Images
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そして最後はFIFAランキング29位のトルコ。このグループの中で最もランキングが低いが、同国も十分に可能性を秘めている。
まず予選の成績が見事で、フランスと勝ち点2差のグループ2位で本戦出場を決めた。10試合を戦って失点はわずかに「3」。フランスの半分の失点というのだから、本大会をかき回すポテンシャルを感じずにはいられない。
攻撃は所属するACミランでも10番を背負うMFハカン・チャルハノールが中心。彼にボールが収まればトルコのチャンスはひろがっていく。先月のW杯予選では、35歳の主将ブラク・ユルマズがオランダ相手にハットトリックを達成して勝利に貢献していた。その後のラトビア戦ではセットプレイの守備で不安を露呈し3失点しているが、この点を修正できれば、スイスとウェールズを上回っても何ら不思議はない。
初戦がローマでのイタリア戦。その後、バクーで2試合という日程だ。まずはイタリア戦で勝ち点が獲れればベスト。ただ、山場は第2戦のウェールズ戦とみるべきか。ウェールズは移動なしでのバクー2連戦だが、イタリアとオープニングゲームを戦うトルコは、休養が1日長い。移動は言い訳にならないはずで、条件は五分に近いだろう。
前回大会ではグループ3位に入ったものの、決勝トーナメント進出を逃したトルコ。第2節までに勝ち点1でも取れれば、最終戦のスイスに勝ってGS突破という道が見えてくる。
文/伊藤 敬佑
※電子マガジンtheWORLD257号、5月15日配信の記事より転載