[粕谷秀樹]クリスタル・パレスの新監督はランパードが有力!? しかし大幅な戦力低下を余儀なくされそうな雲行き

粕谷秀樹のメッタ斬り 060

クリスタル・パレスの指揮官就任が噂されるランパード photo/Getty Images

チェルシーは不都合な環境だった

フランク・ランパードは現場に戻ってくるのだろうか。

英国の有力紙『Telegraph』をはじめ、多くのメディアがクリスタル・パレスの次期監督の有力候補に、ランパードを挙げていた。

ロイ・ホジソン現監督は、今シーズン限りで勇退する。イングランド代表、スイス代表、リヴァプール、ブラックバーン、インテル・ミラノなど、指導歴44年に及ぶ歴戦の勇士だ。今年74歳。コロナ禍でも現場で指揮を執りつづける姿は尊敬に値し、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ、リヴァプールのユルゲン・クロップ両監督も最敬礼するほどの人物である。

大ベテランのホジソンから指導歴2年程度のランパードにバトンタッチは、いわゆる世代交代であり、実にフレッシュな人選だ。現役当時はイングランド代表とチェルシーで活躍し、いまでも人気がある。しかし、少し急ぎすぎてはいないだろうか。

「ビッグクラブを率いる準備ができていなかった」

チェルシーのジョルジーニョは、ランパードに厳しかった。選手にとっていい監督の基準は、出番を与えてくれるか、くれないか、である。ランパードがチェルシーを率いていたころ、ジョルジーニョはベンチを温める機会が多かった。したがって、いい監督ではない。当然、辛口になる。

しかし、浅すぎるキャリアでチェルシーの監督に就任したのは、なかなかリスキーなチャレンジだった。ましてこのクラブは、実権を握るマリナ・グラノフスカヤCEOが監督よりもエージェントの意見を尊重し、選手と監督の衝突もしばしば起きる。

キャリアでランパードをはるかにまさるルイス・フェリペ・スコラーリ(現クルゼイロ)、アントニオ・コンテ(現インテル・ミラノ)でさえ、政治的な対立に疲れて去っていった。指導歴の浅い監督には、極めて不都合な環境といって差し支えない。

今季前半は怪我に苦しめられたものの、後半はチームの主力として活躍しているケイヒル photo/Getty Images

14選手の契約が6月30日に切れる

クリスタル・パレスは権力争いとは無縁のクラブだ。1月に加入した後、出場機会の少なさに不満を訴えたジャン・フィリップ・マテタは、ホジソンに諫められ謝罪している。ロッカールーム内で派閥争いが演じられているわけでもない。

ただ、主力DFのスコット・ダン、ガリー・ケイヒル、パトリック・ファン・アーンホルト、得点源のクリスティアン・ベンテケなど、実に14選手が6月30日に現行の契約が切れる。そしてミシー・バチュアイはチェルシーにローンバック。大幅な戦力低下を余儀なくされそうな、実に怪しい雲行きだ。

今シーズン、クリスタル・パレスはプレミアリーグ降格の恐れを抱かず、可もなく不可もなくの出来だった。しかし、多くの主力が留まれないとなると、来シーズンの残留はなんの担保もない。

ランパードは、もっともっと吟味すべきである。現場に戻りたいのなら、リーズのマルセロ・ビエルサやエヴァートンのカルロ・アンチェロッティなど、酸いも甘いも噛み分けた名将のもとで一から勉強する、という選択肢もあるはずだ。

いま、焦ってはいけない。

文/粕谷秀樹

スポーツジャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

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