[特集/20-21王者達をプレイバック 04]守備に安定感を欠くも絶対王者に揺るぎなし! 攻めて勝ち切るバイエルンが怒涛の9連覇

前半戦に訪れた2つの鍵となる試合

前半戦に訪れた2つの鍵となる試合

開幕5試合で得点数を早くも二桁に乗せたレヴァンドフスキ。第13節レヴァークーゼン戦では、2ゴールの活躍でチームを逆転勝利へ導いた。最終的に41得点まで伸ばし、ゲルト・ミュラー氏のシーズン最多得点記録(40得点)を更新 photo/Getty Images

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 昨シーズンに続き、今シーズンも“史上初”を更新した。9連覇を達成したバイエルンは、どこまで記録を伸ばすのか──。現状、ブンデスリーガにこの絶対王者の牙城を崩す力を持ったチームはなく、まだまだ連覇は止まりそうにない。

 決して万全の状態ではなかったが、最終的にバイエルンがマイスターシャーレを獲得している。9連覇の間にはこうしたシーズンが何回かあり、2020-21シーズンもそうだった。第1節シャルケ戦に勝利しながら、第2節ホッフェンハイム戦に1-4で敗れ、いきなり足をすくわれた。

「昨シーズンのチームは、クオリティの面において今シーズンのチームよりも優れていた。それは誰もが認めるところだろう」
 これは2021年4月にハンジ・フリックが残した言葉で、指揮官も今シーズンのクオリティが例年以上に高かったわけではないことを認めている。ただ、要所を抑えるのがバイエルンで、だからこそ優勝を重ねているのだ。

 最初に迎えた“壁”は第7節ドルトムント戦で、お互いに勝点15で並んでいた。大事な一戦は36分にヨシュア・キミッヒがヒザを痛めて途中交代し、さらに直後の45分に先制点を奪われる苦しい展開となった。並みのチームなら平常心を失ってもおかしくない流れだったが、幾多の試練を乗り越えてきたバイエルンは慌てることがなかった。前半終了間際の45+4分にダビド・アラバがFKを決め、わずか4分で追いつくことに成功したのである。

 この勢いを後半へと繋ぎ、48分にロベルト・レヴァンドフスキが勝ち越しゴールを奪って優位に立った。ライバルとのシーズン序盤の戦いで、トラブルがありながらも後半になって勝ち越した。こうなると、バイエルンは各選手が高い集中力を発揮し、反撃を許さない。80分にレロイ・サネがダメ押しゴールを奪い、ドルトムントの反撃を1点に抑えて3-2で勝利し、最初の関門を突破した。

 続く前半戦のヤマ場は第13節レヴァークーゼン戦だ。第10節ライプツィヒ戦(△3-3)、第11節ウニオン・ベルリン戦(△1-1)に引き分けたことで、この時点で2位に順位を下げていた。代わって首位に躍り出ていたのが、レヴァークーゼンである。そして、この一戦でも14分に先制点を奪われている。さらには、32分にキングスレイ・コマンが太ももの裏を痛めて途中交代している。1点のビハインド、前半途中にケガ人が出る。ここまで、ドルトムント戦と同じ流れである。そして、前半終了間際にレヴァンドフスキのゴールで追いついたのまで一緒だった。

 結局、この一戦にはバイエルンが2-1で勝利したのだが、試合後の感想としては「これだとバイエルンが優勝するよ」というものだった。なぜなら、前半終了間際の同点弾は右サイドからのクロスに対して、レヴァークーゼンのGKとDFがゴール前で譲り合ったすえに生まれていた。また、90+3分のレヴァンドフスキによる決勝点も、レヴァークーゼンのDFが自陣でトラップミスを犯し、ボールがキミッヒの足元へ。キミッヒからのダイレクトパスを受けたレヴァンドフスキが素早いタイミングでシュートすると、身体を寄せてきたDFの右足に当たり、GKの動きと逆方向にボールが飛んでゴールとなった。

 バイエルンがしっかりと攻めているゆえのゴールだったが、どちらも防ぐことができた失点で、この時点で首位だったチームがこれではバイエルンの連覇は止められないという印象が残された。もとより、こうしたチャンスを絶対王者が逃すはずがない。きっちり勝点3をいただいたバイエルンは定位置である首位に返り咲き、以降シーズン終了までその座をどのチームにも譲ることがなかった。

大黒柱不在の中迎えた首位攻防戦

大黒柱不在の中迎えた首位攻防戦

近年は不調に悩まされることもあったが、フリックのもとでさらに一歩進化したチームの象徴。ミュラーはフィールドプレイヤーで最も出場時間が長く、11ゴール18アシストを記録して6年ぶりのダブル・ダブルを達成している photo/Getty Images

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 後半戦のヤマ場は第27節、勝点4差で2位につけるライプツィヒとのアウェイゲームで、レヴァンドフスキが直前に行われたW杯予選でヒザのじん帯を負傷して欠場。アルフォンソ・デイビス、ジェローム・ボアテングが出場停止という状態だった。繰り返しになるが、こうした要所をしっかりと抑えるのがバイエルンである。38分にレオン・ゴレツカが先制点を奪うと、チーム全体で集中力のある守備をみせ、1-0で逃げ切って2位に勝点7差をつけてみせた。

 ただ、レヴァンドフスキの負傷欠場はやはり影響が大きく、このライプツィヒ戦から中3日で開催されたCL準々決勝1stレグではPSGにホームで競り負けている(●2-3)。さらに、翌週の2ndレグにもレヴァンドフスキは間に合わず、マキシム・チュポ・モティングが1点を奪って試合には1-0で勝利したが、アウェイゴールの差で敗退となった。冒頭に紹介したフリックの「昨シーズンのチームは、クオリティの面において今シーズンのチームよりも優れていた」というコメントは、この時期に残されたものである。

 PSG戦での3失点に代表されるように、今シーズンのバイエルンは守備については例年よりも安定していなかった。一方で、攻撃に関しては相変わらずで、34試合で99得点している。とくに大黒柱のレヴァンドフスキは驚異的な決定力をみせ、ゲルト・ミュラーのシーズン最多得点(40得点)を更新する41得点で歴史に名を刻んでいる。

 フリックの監督就任で生き返ったトーマス・ミュラーも11得点18アシスト。サイドアタッカーを務めるコマンは負傷するまで好調を維持しており、コロナ感染があったセルジュ・ニャブリも最終的に二桁得点している。新加入だったサネも徐々にチームにフィットしていった。

 さらに、ジャマル・ムシアラという将来有望な若手も台頭した。開幕戦に交代出場すると、クラブ史上最年少の17歳205日でブンデスリーガ初ゴールをゲット。その後もおもに交代出場で前線をかき回す役割を務め、CL出場も含めてフリックのもと経験を積み重ねた。やや前傾姿勢でボールを運ぶドリブルが特徴で、顔が上がらないためDFは対応しにくい。それでいてチラチラとまわりをよく確認しており、正確なパスが出せるし、ミドルシュートもある。EURO2020を戦うドイツ代表にも選出されており、大会の注目選手のひとりになっている。

新陳代謝の良さでさらに強固なチームへ

新陳代謝の良さでさらに強固なチームへ

33歳ながら実績は十分。青年戦術家ナーゲルスマンは来季、バイエルンをどのようなチームへと進化させるか photo/Getty Images

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 来シーズンを考えると、指揮官がフリックからユリアン・ナーゲルスマンに代わる。いまだ33歳のナーゲルスマンだが、昨シーズンにライプツィヒをCLベスト4に導くなど、十分な実績がある。ビッグクラブを率いるのははじめてだが、不安よりも期待のほうが大きい。

 ライプツィヒからはナーゲルスマンとともに、ダヨ・ウパメカノを獲得。CBはアラバ、ボアテング、ハビ・マルティネスが退団となるが、指揮官とともにやってくるこの22歳のフランス代表によって、最終ラインは間違いなく安定する。また、DFではサイドでプレイするオマル・リチャーズをレディング(イングランド2部)から獲得している。かつてのアラバ、最近ではデイビスがそうだったように、シーズンがはじまってみたらリチャーズは現在と異なるポジションでプレイしているかもしれない。

 現状、最終ラインの新加入選手がアナウンスされているが、今後にボランチの補強も発表されるはずだ。今シーズンはダブルボランチのキミッヒ、ゴレツカにかかる負担が大きく、いかに鉄人とされる両名でもきつかった。昨シーズンのチアゴ・アルカンタラに続き、アラバ、ハビ・マルティネスも退団するのでそもそも絶対数も足りていない。

 どうやらレンヌでプレイする18歳のエドゥアルド・カマヴィンガの獲得を狙っているようだが、この逸材は複数のビッグクラブが目をつけている。左利きで技術力が高く、密集地帯でも余裕でボールキープできる。個人の力で前方にボールを運ぶこともできる。中盤に不安を抱えるバイエルンとしては、なんとしても獲得したい選手だといえる。

 9連覇を達成したバイエルンは、新たな監督のもと、新たな有力選手を補強し、新たなシーズンを迎えようとしている。この新陳代謝の良さによって、マンネリに陥ることがない。ブンデスリーガではまだまだ政権交代が起こりそうにない。来年のいまごろは、おそらく10連覇についての記事を書くことになる。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD258号、6月15日配信の記事より転載

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