1カ月にも及んだEURO2020がついに幕を閉じた。欧州No.1に見事輝いたのは、サッカー大国の復活を果たしたイタリア代表。予選を全勝突破した勢いそのままに、本大会でも順調に駒を進め、53年ぶり2度目の優勝を成し遂げた。
優勝の要因としては、選手たちが一丸となって戦ったこともそうだが、チームの指揮官を務めるロベルト・マンチーニ監督の存在も大きかったのではないか。指揮官が欧州制覇の最大の立役者といっても過言ではないかもしれない。実際に、同指揮官の修正力やマネジメント力が光る場面が多々あった。前者で言えば、準決勝のスペイン戦や決勝のイングランド戦。劣勢の中で試合が進んでいったが、ハーフタイムでの指示や交代カードをうまく使うことで、見事にその状況を跳ね返してみせた。
ただ、マンチーニの手腕において特筆すべきは、前者よりも後者の方に違いない。2018年に就任して以降、代表活動の際に他国では考えられないような30名以上もの選手たちを招集してきたマンチーニ監督。たくさんの選手に統一意識を持たせることもそうだが、さまざまな選手に代表入りの可能性があることを示すことで、そういった選手たちの間に競争力を生ませる。巧みなマネジメント力で、選手たち個々のレベルアップとともにチーム全体の底上げにも成功したのだ。
そして、今大会でブレイクを果たした左SBレオナルド・スピナッツォーラが負傷離脱した際にも、この名将のマネジメント力が活きていたように思う。スピナッツォーラの代役を任されることになったのは、チェルシーでプレイするエメルソン・パルミエリ。EURO2020では左SBのセカンドチョイスに甘んじていたエメルソンだが、つい最近まではファーストチョイスだった。要は、ビッグコンペティションの直前にスタメンを奪われてしまったのだ。当人からしたらこの状況は、非常にショックな出来事だっただろう。選手によっては腐ってしまい、モチベーションを下げた状態で大会に臨むこととなり、出番が回ってきた際にひどいプレイを披露することになってもおかしくはない。
しかし、マンチーニ監督はエメルソンのモチベーションを保つことに成功している。もちろん、モチベーションが下がらなかったのは、同選手の性格によるところもあるかもしれない。ただその結果、エメルソンはグループリーグの最終戦(ウェールズ戦)もそうだが、スピナッツォーラの負傷で急遽出番が回ってきてもしっかり対応し、準決勝と決勝のプレッシャーがかかる大一番でも自分の役割を全うしてみせたのだ。こういったこともマンチーニ監督のマネジメント力の高さが光った点ではないか。
マンチーニ監督がきちんとチームをマネジメントできていることは、イタリア代表の試合を見ていた人からすれば、チーム全体の団結力からも感じ取れたと思う。延長戦・PK戦に突入した際や試合後にベンチ前でマンチーニ監督を中心に円陣を組み、士気を高めている姿は圧巻で、選手たちも指揮官に大きな信頼を寄せているようであった。
また、試合前の選手たちのモチベーションの上げ方から見ても、マンチーニ監督のマネージメント力の高さがうかがえた。伊『SPORT MEDIASET』などによると、同指揮官はイングランド戦直前のドレッシングルームで、選手たちに細かい指示を出すのではなく次のようなメッセージを送ったようだ。
「私はもうキミたちに話すことはないよ。キミたちが何者であるか知ってるからね。我々は偶然ここに立っているわけではない。我々の運命を握っているのは自分たちなんだ。キミたちも自分たちがやるべきことはわかっているだろう」
決勝まできたら、あとは最後の試合に全身全霊をぶつけるだけ。対戦相手への対策などは前日までのトレーニングやミーティングで必ず行っているはずで、決勝戦のような舞台では試合前にあれこれ言うよりも、マンチーニ監督のように選手たちへの信頼を強調する方が、かえって効果的な場合もあるだろう。信頼を寄せる指揮官からこのような声をかけられたら、選手たちが燃えないわけはないからだ。なお、このメッセージを送る前にマンチーニ監督はイングランド戦のスタメンを発表したのだが、その際に負傷離脱しているスピナッツォーラの名前を挙げ、場の空気を和ませてもいたという。さすがマンチーニ監督といったところか。
EURO2020が1年遅れでの開催となったため、W杯も来年にまで迫っている。名将マンチーニのもとでアッズーリが残り1年、さらにどのような進化を遂げていくのか見ものだ。EUROで華麗なる復活を果たしたものの、真のリベンジの機会はW杯なのだから。