30日に行われた東京五輪の準々決勝で、スウェーデン女子代表と対戦した日本女子代表(なでしこジャパン)。キックオフ直後から最終ラインを高めに設定し、2分にFW岩渕真奈を起点にハイプレスを仕掛けたものの、DFアマンダ・イレステットからFWソフィア・ヤコブソンへのロングパスが繋がってしまい、あわや失点のピンチに。その後も相手のロングカウンターやサイド攻撃を断ち切れず、コーナーキックからの2次攻撃で7分にDFマグダレナ・エリクソンに先制ゴールを奪われた。
なでしこジャパンのハイプレスが空転した要因は、スウェーデン代表の最終ラインが一時的に変形したこと。同代表は2分に、右サイドバックのハンナ・グラスが高い位置へ移動。ナタリー・ビョルンとイレステットの2センターバック、中央に絞った左サイドバックのエリクソンで3バックを形成し、2トップのなでしこジャパンに対して自陣で“3対2”の数的優位を作っていた。
なでしこジャパンはこの場面で、長谷川唯と杉田妃和の両サイドハーフに変形3バックの両脇の選手を狙わせたうえでハイプレスをかける。もしくはハイプレス自体を諦め、[4-4-2]の陣形のまま自陣後方へ下がり、最終ラインの背後やバイタルエリアを埋めるかのどちらかを徹底する必要があったが、敵陣での数的不利を解消しないままハイプレスを仕掛けたため、相手のビルドアップを止められず。グループステージ第2節のイギリス代表戦でも、相手の変形3バックに2トップのまま漫然とハイプレスを仕掛けたことで自陣左サイドを攻められ、74分に失点。グループステージ最終節のチリ代表戦に関しても、相手の3センターバックに対して同様の守備を行っており、準々決勝でも同じ罠にはまってしまった。
出鼻をくじかれたなでしこジャパンは、[4-4-2]の布陣の2トップで起用された岩渕と田中美南、両サイドハーフの長谷川と杉田が近い距離感を保ち、ショートパス主体の攻撃を披露。23分には熊谷紗希からのパスを右サイドのタッチライン際で受けた清水梨沙と、インナーラップした長谷川の連係が冴えわたり、同サイドを攻略。長谷川の低弾道クロスに田中が反応し、なでしこジャパンが同点に追いついている。
グループステージではサイドからのハイクロスが目立っていたなでしこジャパンだが、この日は相手GKと最終ラインの間へのロークロスを連発。上背のあるスウェーデン代表の最終ラインに対し、ハイクロスで勝負しなかったのが功を奏した。
小気味良いパスワークでスウェーデン代表を困らせていたなでしこジャパンに暗雲が漂ったのが、53分の場面。バイタルエリアでボールを受けた相手MFフリードリナ・ロルフォに対し、最終ラインから飛び出したセンターバックの熊谷と、ボランチの三浦成美の2人がアプローチしてしまう形に。熊谷の背後にパスを通されると、このスペースに走ったFWスティナ・ブラックステニウスに勝ち越しゴールを奪われた。
前半の序盤に三浦が最終ラインに入り、一時的に5バックを形成することで自陣のハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)を消すというシーンがあったが、2失点目ではなぜかこの守備隊形がとられず。あまりに痛い守備の連係ミスだった。
その後、FWコソバレ・アスラニのシュートがペナルティエリア内にいた三浦の手に当たったことで、67分にスウェーデン代表がPKを獲得。アスラニ本人にPKを決められ、なでしこジャパンの東京五輪は1-3の敗戦で幕切れとなっている。
思い返せば、今大会初戦からなでしこジャパンの守備には緻密さが無かった。グループステージ第1節のカナダ代表戦でも、6分に左サイドバックの北村菜々美が同サイドのタッチライン際に流れてきたMFジェシー・フレミングに釣られ、同選手の背後が空く形に。同時に左センターバックの南萌華と北村の間も大きく開き、このスペースをFWニシェール・プリンスに使われたことが、相手の先制ゴールに繋がっている。
大会全体を通じ、選手個々のハードワークは光っていたが、相手の形状変化に対応できない試合が続いた事実と、最終ライン、中盤、最前線の3列が間延びし、プレスの連動性に欠ける場面が度々あったことなどを踏まえると、チーム内に明確な守備戦術が落とし込まれていたとは言い難い。必然的に自陣に釘付けになる時間帯が長くなり、熊谷をはじめとする最終ラインの面々への負担が大きかった。
男女を問わず、近年は相手の基本布陣やプレスのかけ方に応じて臨機応変に陣形を変え、マークのずれを作りながらビルドアップを行うチームが増えている。相手チームの戦い方の特徴や、試合中の形状変化にピッチ上の選手たちが気づくことはもちろんのこと、それ以前に監督を含むコーチングスタッフが試合を迎えるにあたってこれらを精緻に分析し、相手の長所を消すためのノウハウを選手たちに授けなければ、今の国際舞台で成功を収めるのは難しい。今回なでしこジャパンが突きつけられたのは、こうした厳しい現実なのかもしれない。