[名良橋晃]五輪で感じた危機感 サッカーは会議室ではなくピッチで行われている!
グループ戦術で負けた日本 ピッチでの対応力が必要
東京五輪を戦った選手やスタッフには、さまざまストレスや苦しみがあったと思います。男女ともにメダルには手が届きませんでしたが、いい刺激を受けたし、感動しました。関わったすべての方々に感謝しかありません。本当にお疲れさまでした。
メキシコと3位決定戦を戦う日本は、明らかに精魂尽き果てていました。中2日で戦い続けるなか、準々決勝のニュージーランド戦、準決勝のスペインが延長戦までもつれました。そして、最後の最後に失点してスペインに敗れました。ショックが残るなか迎えた3位決定戦です。メダル獲得に向けて気を張って懸命に身体を動かしていましたが、ものすごく厳しい状態だったと理解できます。
悔しかったと思いますが、4位という結果を恥じる必要はないです。金メダルをめざしていたという意味では目標に届かなかったかもしれませんが、みんな最大限の力を発揮しました。サッカーは相手がいるスポーツで、勝つことがあれば負けることもあります。これで終わりではありません。ここを新たなスタートとして、また進んでいけばいいんです。
今回、私はすごく勉強させられました。このままではダメだ。なにかしないといけない。子どもたちの指導方法を考え直さないと、そのうち代表がW杯に出られなくなる日が来るという危機感がいまものすごく芽生えています。
スペインやメキシコとは、グループ戦術において差がありました。日本は久保建英、堂安律といった「個」を消されると、どうしても窮屈になっていました。準々決勝のニュージーランド戦もグループで挑んできた相手にボランチの動きを制限され、なかなか得点チャンスを作ることができませんでした。「個」を消されたらこうやって戦うという立ち返る原点、プレイモデルがあると戦いやすいのですが、いまの日本サッカーは「個」を伸ばすことに極端になっています。もっと、グループ戦術についての理解力を高めないといけないと強く感じました。
この部分に関しては、ジュニア、ジュニアユース、ユースの年代でしっかりやっていかないとダメだと思います。「個」を伸ばしながら、グループ戦術への理解力を植えつけていく。どちらか一方に特化するのではなく、バランスをうまく取りながら指導していく。ピッチで対応しなければならないのは選手たちです。相手の出方に対して、どうリアクションしなければならないか。発想力、対応力などを身につけられるように、指導者はときに言いたいことをガマンしないといけないです。
サッカーは会議室ではなく、ピッチで行われています。事前に考えていた以上のことが、試合中には発生します。いかにピッチで対応できるかが重要で、この部分に関して日本サッカーは抜本的な改革が絶対に必要です。いまの指導方法のままでは、いつまで経っても間違いなく変わらないと思います。
体育の文化が諸外国との差に
森保監督をはじめ、指導者にとっても学ぶことが多い大会だった photo/Getty Images
ドイツは2000年のEUROに惨敗したことでユースの強化を見直し、2014年W杯優勝にたどり着きました。ブラジルはその2016年W杯に惨敗したことで、ユース年代を強化するために国外から人材を招聘しています。日本も考えるだけではなく、いま以上に本気で動かないとダメだと思います。
指示を待つ選手、やらされている選手が多いチームは、一度ピッチで予想外のことが起きると対応できないでしょう。放任主義ではないですが、選手たちに戦術盤を持たせて、自分たちでやらせてもいいと思います。サッカーを俯瞰した視点でみることが子どものころから必要で、できるだけ考えさせてあげてほしいです。また、すべての選手が自分で答えを出せるわけではないので、ときにヒントを出してあげることも必要です。
もうひとつ大きな問題があります。「個」やグループ戦術を強化するのは、なんのためでしょうか? もちろん勝つためですが、現在の日本文化、環境のなかで勝利を追求するメンタルを植えつけるのはなかなか難しいです。勝利への飢餓感を考えると、“体育の文化”が諸外国との差になっているのではないでしょうか。
準決勝で対戦したスペインは、各選手が攻守両面で勝つためのポジションを取り、状況に相応しい動きをしていました。自分たちの時間と、そうではない劣勢の時間の見極めが的確で、意思統一もされていました。子どものころから勝負にこだわってきたことで、そうしたグループ戦術を各選手が持ち合わせているのだと思います。
体育の文化のなかで勝負にこだわると、いろいろ問題が出てきます。かわいい子どもが試合に出られないと、親御さんは納得できないでしょう。ただ、今回の五輪をみて本当に現状のままではいけないと感じています。新しい指導方法を取り入れていかないと、いつまで経っても日本サッカーは変わらないままです。
幸い、W杯や五輪を経験した人材がいまは多くいます。みんないろいろな意見を持っています。経験者の声をフィードバックし、実際に行動へ移すタイミングを迎えています。多くの人がすでに薄々感じていたかもしれませんが、そろそろみんなが「このままではいけない」と気づくべきです。
いろいろ指摘してきましたが、なにを言ってるんだと思われてもいいです。すべては、日本サッカーに強くなってもらいたいという思いからきています。こうして発信することで、動いてくれる人がいるかもしれません。みんなが積極的に足を動かすことで、なにかが変わってくるはずです。
構成/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD260号、8月15日配信の記事より転載