[特集/U-24ライジングスター 01]ゴールハンターの役割だけではない! 攻守の切り替えで躍動するU-24FW

求められるのは“現代型” 象徴的ストライカーはこの2人

求められるのは“現代型” 象徴的ストライカーはこの2人

カイ・ハフェルツ(22) 1999年6月11日生まれ、アーヘン出身、189cm。チェルシー所属。昨季、CL決勝で決勝点を奪い、チームを欧州王者に導いた立役者。ドイツでは攻撃的なMFとしてプレイしていたが、昨季途中就任のトゥヘル監督からは最前線を任せられ、見事にその役割を遂行している photo/Getty Images

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 昨今のサッカーは各ポジションで総合的な能力が求められるが、ストライカーについても同じである。前線で足を止めてボールが入るのを待ち、消える時間が長くてもゴール前で競り勝って決めてくれればいい。こうした極端なタイプはもはや出場の機会がない。

 GKからパスをつないで攻撃をビルドアップするチームが多いいまは、まずファーストディフェンダーにならなければいけない。現代サッカーで重要視されるトランジションの早さ。FWといえど、攻守の切り替えを瞬時に行える能力はもはや必須といえ、献身的な守備ができたうえで、ボールを奪ったあとに攻撃でなにができるかが求められる。

 そういった意味で、カイ・ハフェルツ、ダニ・オルモは現代を象徴するストライカーではないだろうか。チェルシーでCL優勝を経験したハフェルツは、EUROでもドイツの攻撃をリードし、苦戦するチームのなかで2ゴールを奪って存在を示した。相手ボールのときは激しく追いかける守備の足を持ち、接触プレイも嫌がらない。身体の使い方がうまく、瞬間的な動きでグッと相手の前に入り、ゴールに近い位置でボールを刈り取ってみせる。
 いざマイボールになると素早いトランジションでゴールを目指すのだが、前方への推進力がまたすごい。急流を下る水のごとくスルスルとDFをかわし、フィニッシュできるポジションに入る。そして、味方がここにボールを合わせることになる。というか、洞察力にも優れ、動いたところにボールが出てくる。EUROでは2得点しているが、いずれもオフサイドぎりぎりで飛び出して決めたものだった。

 ハイプレッシャーからのショートカウンターでゴールを狙うのはもはや定石で、マッチするのはこうしたストライカーだ。スペイン代表としてEURO、五輪を戦ったダニ・オルモも前線で献身的な守備をみせ、高い位置でのボール奪取を可能にしていた。ディナモ・ザグレブで修行を積み、2020年からライプツィヒでプレイするオルモには、闘う精神が宿っている。足を動かしてボールを奪い、貪欲にフィニッシュへつなげる。ユリアン・ナーゲルスマン監督が指揮したライプツィヒでは2列目でプレイしたが、その特性を生かすべく、EUROではゼロトップのようなカタチで起用された試合もあった。

 イタリアとの準決勝を迎えて、ルイス・エンリケ監督は前後左右に動くオルモを前線に起用し、攻守両面でイタリアの守備陣をかく乱することを狙った。結果的にPK戦で敗れたが、この選択は効果的でスペインは試合を支配していた。新たな可能性を感じさせたゼロトップで、ライプツィヒでもこうした起用があるかもしれない。ナーゲルスマンはバイエルンに引き抜かれたが、新たな指揮官であるジェシー・マーシュ監督はレッドブル・ザルツブルクを率いていた人物で、ライプツィヒのスタイルが変わることはない。オルモは引き続き前線で精力的な動きをみせることになる。

個の力で打開もできる 前線中央の恐るべき才能

個の力で打開もできる 前線中央の恐るべき才能

ジャマル・ムシアラ(18) 2003年2月26日生まれ、シュツットガルト出身、180cm。バイエルン・ミュンヘン所属。一昨年にチェルシーから引き抜かれると、19-20シーズン終盤のフライブルク戦でデビュー。バイエルンの最年少出場記録を更新した photo/Getty Images

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 ナーゲルスマン監督が就任したバイエルンには、18歳のジャマル・ムシアラがいる。「個」の力で状況を打開できる能力を持ち、おもに2列目でプレイする。EUROではグループリーグ3戦目のハンガリー戦に途中出場し、トリッキーなボールタッチで左サイドを崩し、決勝トーナメント進出を決めるレオン・ゴレツカのゴールをアシストしている。

 決定的なパスが出せて、自分でもボールを運べるプレイスタイルを考えると、今後いろいろな起用方法が考えられる。ロベルト・レヴァンドフスキの負担を減らすべく、ナーゲルスマン監督からゼロトップを任されるかもしれない。今も守備意識は高いが、そのためにはいま以上に豊富な運動量、献身的な守備力を身につける必要がある。ムシアラの成長は、そのままバイエルンやドイツの成績につながることになる。

 この3名よりもストライカー色が強いのが、ドルトムントに加入したドニエル・マレンになる。サイドでもプレイするが前線の真ん中を主戦場にしていて、裏へ抜け出してパスを受けるのはもちろん、相手を背負ってくさびのボールを受け、そのまま振り向いて自分でゴール方向へボールを運べる。少し足元から離れるドリブルが特徴的で、相手DFが「取れる」と判断して飛び込むとあっさりかわされる。それだけ、ストライドが長いということだ。

 EUROでは2試合に先発、2試合に途中出場し、不発に終わった。悔しい結果となったが、新シーズンをドルトムントでプレイすることが決まっており、心機一転して臨むシーズンになる。いまだ去就が定かではないが、ドルトムントには同じ前線の真ん中を主戦場にするアーリング・ハーランドがいる。マレンがまず任されるのはジェイドン・サンチョが抜けたサイドのポジションで、これまで以上に守備力と切り替えの早さが求められることになる。

 昨シーズンのラ・リーガで17得点したレアル・ソシエダのアレクサンデル・イサクは、EUROでも全4試合に出場し、前線で攻撃の起点となってスウェーデンの16強進出に貢献した。ズラタン・イブラヒモビッチの後継者として早くから注目されてきたが、ポストプレイができるストライカーとしてどうやら順調に成長している。

 バルセロナ、ローマなどビッグクラブが獲得を狙うなか、EURO開催中の7月にソシエダと2026年6月までの契約を結んでいる。だが、イサクがこの期間ずっとソシエダでプレイするとは思えない。資金力のあるクラブがこの21歳の伸び盛りのストライカーをただみているはずがない。そのうち、高額の移籍金を残してステップアップするだろう。

サイドで魅せる幻惑のドリブル 局面打開の切り札たち

サイドで魅せる幻惑のドリブル 局面打開の切り札たち

ミッケル・ダムスゴー(21) 2000年7月3日生まれ、ジリンジ出身、180cm。サンプドリア所属。ノアシェラン下部組織で腕を磨き、昨季からサンプドリアへ。EUROでは準決勝イングランド戦で強烈な直接FKを叩き込むなど知名度を一気に上げたが、献身的な守備姿勢も持ち味だ photo/Getty Images

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 ワイドなポジションにも魅力的な選手が多い。EUROでブレイクしたのが、イタリアのフェデリコ・キエーザだ。両サイドのワイドなポジションでプレイできて、ドリブルで仕掛ける力があるし、フィニッシュの精度も高い。得点にからむ仕事ができるアタッカーで、リヴァプールやチェルシーが獲得を狙っているという噂が後を絶たない。

 デンマークの4強入りに貢献したミッケル・ダムスゴーの評価も高まっている。初戦でクリスティアン・エリクセンにアクシデントがあり、デンマークは攻撃力低下が懸念されたが、2戦目から2シャドーの一角に入ったダムスゴーが相手を翻ろうする機動力をみせた。FKを決めるなど2得点という結果を残したことで、サンプドリアには続々と獲得のオファーが届いているようだ。スクデットを獲得したインテル、復調したミラン、そしてユヴェントス。さらには、ローマも興味を示している。国外のビッグクラブも獲得を狙っており、今後の去就が注目される選手のひとりである。

 EUROの決勝戦では辛い思いをしたが、イングランドのブカヨ・サカ、ジェイドン・サンチョもさらなる飛躍が期待される。19歳のサカはポジションへの適応力が高く、アーセナルでは両サイドのワイドなポジションのほか攻撃的MFとしてもプレイし、攻撃をリードする。左サイドバックを務めたこともあり、ネガティブ・トランジションも素早く、ミケル・アルテタ監督から厚い信頼を得ている。イタリアとの決勝では出場時間が短くなにもできず、PKも外した。だからこそ、新シーズンへのモチベーションが高く、とんでもないハイパフォーマンスをみせるかもしれない。

 これは同じくPKを外したサンチョも同様で、こちらはさらにドルトムントからマンチェスター・ユナイテッドに移籍したことで新シーズンにかける思いがより強い。サカとは少しタイプが違い、器用さはないが、自分のリズムでボールを持ったときに底知れない爆発力がある。ブルーノ・フェルナンデスのパスを受けて右サイドを切り崩し、ゴール前に正確なラストパスを送る。あるいは、自ら豪快にフィニッシュする。このカタチを多く作れば作るほど、マンUは得点数が増えることになる。

 右サイドのアタッカーでは五輪で活躍した堂安律の去就も注目される。昨シーズンはローン先のビーレフェルトでプレイし、5得点2アシストでチームの1部残留に貢献した。今シーズンはPSVアイントホーフェンにローンバックとなったが、PSVはマリオ・ゲッツェを筆頭に2列目の人材が豊富で、ポジション争いが激しい。五輪で合流が遅れている間にチーム作りが進められているのも堂安にとっては痛い。

 ただ、オランダ紙によれば五輪での充実したパフォーマンスを受けて、ローンの依頼が来ているとも。国際大会を経験したいま、ベンチを温める存在でいるのはもったいない。堂安の切り替えの早さ、守備意識、球際の強さを欲するチームは必ずあるはずで、ピッチに立てるチームに出会えれば期待は大きい。

 もちろん、この世代にはドルトムントで爆発的な得点力をみせるアーリング・ハーランドや、メッシの加入でケミストリーに期待がかかるパリ・サンジェルマンのキリアン・ムバッペもいる。21-22シーズンも、彼らの華麗なゴールをフットボールファンたちは待っている。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD260号、8月15日配信の記事より転載

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