モウリーニョに叩き込まれたプレイの優先順位 今のローマは“黄金期のポルト”のようだ

11年ぶりにセリエAの舞台に戻ってきたモウリーニョ監督。新天地ローマで幸先の良いスタートを切っている photo/Getty Images

昨季の課題を、今季序盤にして解決

先月29日のセリエA第2節でサレルニターナに4-0で勝利し、公式戦4連勝を飾ったASローマ。名将ジョゼ・モウリーニョを新監督に迎えての2021-22シーズンで、上々の滑り出しを見せている。

好発進の要因は、モウリーニョ監督が攻撃面におけるプレイの優先順位を明確にし、選手たちがそれを忠実に体現していることだろう。

今季のローマの基本布陣は[4-2-3-1]。2ボランチのブライアン・クリスタンテとジョルダン・ヴェレトゥのどちらかが、マイボール時に2センターバック間やセンターバックとサイドバックの間へ降り、自陣後方で数的優位を確保。相手のハイプレスをいなしやすい状況を作ったうえで、攻撃を仕掛けている。

隊形変化を駆使したうえで、自陣後方から丁寧にショートパスを繋いでいくスタイルは、パウロ・フォンセカ前監督時代より取り組んでいた。モウリーニョ新監督の特筆すべき点は、前任者のエッセンスを残しつつも、このスタイル一辺倒にならないことである。

今季の序盤4試合を見る限り、ローマの面々は自陣後方やミドルゾーンでパスを回しながらも、第一に相手最終ラインの背後を狙っているふしがある。

先月22日のセリエA第1節で、フィオレンティーナのGKバルトウォミェイ・ドロンゴフスキを一発退場に追い込んだセンターバックのロジェール・イバニェスのロングパスが典型例で、この場面ではワントップのタミー・エイブラハムが相手最終ラインの背後へ走り、ドロンゴフスキのファウルを誘っている。先述のサレルニターナ戦でも、エイブラハムや右サイドバックのリック・カルスドルプが相手最終ラインの背後へ走り、まずはそこへのパスを狙うという、チーム全体のコンセプトが窺えた。

自陣後方から無理にショートパスを繋ごうとし、相手にパスをカットされては速攻を浴びるという場面が度々あった前監督時代のローマだが、この問題はモウリーニョ新監督のもとで、早くも解決している。失点のリスクを高める漫然としたボールポゼッションを、同監督がブラッシュアップしたこと。これがローマのスタートダッシュに繋がったと言えるだろう。

モウリーニョ・ローマの強みは、相手最終ラインの背後を狙う攻撃だけに留まらない。サレルニターナは[5-4-1]の守備隊形で自陣にこもっていたが、相手に最終ラインの背後のスペースを消された際の“プランB”も、同クラブは持ち合わせていた。

この日のローマは相手最終ラインの背後へのパスが通りづらいと見るや、サイドチェンジのパスを多用。この攻撃で揺さぶられたサレルニターナの5バックや4人の中盤のスライドは徐々に遅れていき、特に3センターバック間と、左右のセンターバックとウイングバックの間が、時間の経過とともに空いていった。

48分に決まったローマの先制ゴールは、ぽっかりと空いた3センターバック中央のノルベルト・ギェンベールと右センターバックのラムジ・アヤの間へ、MFロレンツォ・ペッレグリーニが走り込んだことで生まれたもの。ローマの攻撃面におけるプランBが実を結んだ瞬間だった。

自陣後方で数的優位を作りながら細かくパスを回しつつ、まずは相手最終ラインの背後を狙う。それが通用しなければ、サイドチェンジのパスで相手の守備隊形を揺さぶり、これによって生まれる綻びを突く。このプレイ原則を、シーズン序盤にして植え付けたモウリーニョ監督の指導力には、脱帽のひと言である。

モウリーニョ監督によって束ねられた2003-04シーズンのFCポルトは、UEFAチャンピオンズリーグを制覇。デコを中心とするパスワークが魅力的なチームだった photo/Getty Images

“万能型チーム”へと変貌しつつあるローマ

モウリーニョ監督の真骨頂は、相手の出方や戦況に応じて、どんな攻め方や守り方もできるチームを作り上げることである。2004-05シーズン以降に率いたチェルシーやインテル、及びレアル・マドリード、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナムの基本戦術は堅守速攻であり、時に超守備的な戦いも辞さなかったが、ポゼッションサッカーを植え付けるのが不得手な監督ではない。

この同監督の持ち味が最も色濃く反映されていたのが、彼が2004年まで率いたFCポルトだろう。

2003-04シーズンにプリメイラ・リーガとUEFAチャンピオンズリーグ制覇という偉業を成し遂げたポルトは、中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]の布陣のトップ下で起用されたデコや、セントラルMFの一角マニシェを中心に流麗なパスワークを披露し、欧州サッカー界を席巻。ポゼッションサッカーをベースとしつつも、格上相手には自陣後方で守備ブロックを敷き、GKヴィトール・バイーアやリカルド・カルバーリョとジョルジュ・コスタの2センターバック、アンカーのコスティーニャを中心とする堅守から、カウンターで相手ゴールを目指せる好チームだった。

遅攻のクオリティの高さが際立っている今季序盤のローマだが、ジョゼップ・グアルディオラ監督によって束ねられたバルセロナや今のマンチェスター・シティのように、ボールポゼッションに特化した戦いをしているわけではない。フィオレンティーナ戦では、ミドルゾーンや自陣後方で守備ブロックを敷き、ロングカウンターで相手ゴールを目指す時間帯もあった。

基本的にボールポゼッションを目指しながらも、状況に応じて堅守速攻プランに切り替える今のローマのスタイルは、2003-04シーズンのポルトと似ている。11年ぶりにセリエAの舞台に戻ってきたスペシャル・ワンのもとで、万能型チームへと変貌を遂げることができれば、ローマは黄金期のポルトのように、国内リーグや欧州のコンペティションでサプライズを起こせるかもしれない。

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