[特集/PSGは最強になれるのか 01]ポテンシャルはMSN越えで間違いなし! MMNを史上最強3トップにするシステムとは
MMNの適性を見るに[4-3-3]が無難な選択
今夏に大型補強を決行して移籍市場の主役となったPSG。最も注目を集めるメッシはチームの戦術にどのような影響を与えるだろうか photo/Getty Images
パリ・サンジェルマンの今季の補強の目玉はセルヒオ・ラモスとワイナルドゥムのはずだった。メッシの加入は青天の霹靂といっていい。バルセロナと契約するものと本人も思っていたのに、バルセロナ側が契約を断念という事態になり、PSGは移籍金なしでメッシを獲得できた。
これでメッシ、ムバッペ、ネイマールという現在最強のFWが揃ったことになる。ポチェッティーノ監督が「MMN」をどのように起用していくのか興味深い。
バルセロナ時代にはメッシ、スアレス、ネイマールの南米トリオが揃ったことがある。スアレスを獲得した2014-15シーズン、3人でリーグ戦110ゴール中81ゴールを叩き出し、公式戦122ゴールという驚異の破壊力を示した。
スアレスが加入したばかりのころはスアレスを右に起用していたが、右からメッシ、スアレス、ネイマールという並びに落ち着いた。それぞれのオリジナルポジションでもある。ルイス・エンリケ監督は「MSN」を生かすために従来よりも縦に速い攻撃を仕掛けさせた。前向きにプレイすれば1対1では止められない。しかし2人でマークすれば、メッシ、スアレス、ネイマールの誰かへのマークが甘くなってしまう。早い攻め込みは打ち合いになるリスクもあったが、打ち合いならMSNがいるかぎり必ず勝てた。
バルサ時代の起用法はそのままPSGにも使える。右からメッシ、ムバッペ、ネイマールの3トップはある意味無難な選択だろう。
メッシはグアルディオラ監督時代の偽9番の印象が強いが、もともとは右ウイングだ。ネイマールも左サイドが本職。ムバッペは左右できるが、最もスピードがあるのでトップに置いてカウンターアタックを狙わせるのが効果的な起用法になる。
メッシとネイマールのコンビネーションはバルサ時代に証明済み。ムバッペとスアレスの特徴は異なるが、MSNよりMMNのほうがよりスピードがあるのでカウンターの威力は増す。問題は守備のバランスをどうとるか。リーグ・アンならば、3人を前線に残しても問題はないだろうが、CLで強豪と対戦したときには3人のうち最低1人は守備ブロックに組み込まなければならないはずだ。
バルセロナではメッシとスアレスを前線に残し、ネイマールが引いてMFのラインに入ることでバランスをとっていた。ネイマールがその役割を受け入れれば、これが最もしっくりくる形だと思う。しかし、ネイマールではなくムバッペを守備のプラス1にするのなら、CFにネイマール、右にメッシ、左にムバッペになるか、右にムバッペ、中央にメッシ、左にネイマールだ。ネイマールの右ウイング、メッシの左ウイングはプレイスタイルからいって「ない」からだ。
一方的な試合展開ならば[3-4-3]の可変もアリ
[2-3-5]への変化が可能な[3-4-3]において、CBだけでなくアンカーやボランチもこなせるマルキーニョスがキーマンとなりそうだ photo/Getty Images
全体のフォーメーションは[4-3-3]から始めると予想されるが、[3-4-3]もあるかもしれない。いずれにしてもメッシの動き方に合わせていく必要は生じる。
メッシは右ウイングといってもサイドに開きっぱなしではない。いわば偽7番で、サイドから右のハーフスペースに入り、そこを起点にゴールに迫っていく。メッシが中へ入ったときに右サイドで幅をとる役割が必要で、おそらく右サイドバックのハキミがその役割を担うはずだ。右SBが高いポジションをとることで、右のインサイドハーフはそれと連動して相手のカウンターに備えつつ、メッシとハキミをサポートすることになる。そうなると、右のインサイドハーフには守備力の高い選手が適している。
ディ・マリアでは攻撃的すぎるので、ワイナルドゥム、パレデス、エレーラのいずれかだろう。
攻撃から守備に切り替わったときにメッシは前残りするので、右インサイドハーフとSBで防御ラインを形成しつつ、MFのラインを全体に右方向へスライドする。そのときに逆の左側でMFのラインにネイマールかムバッペを引かせなければならないわけだ。
前記したようにバルセロナではネイマールがこの役割を受け入れていた。ただし、PSGでも同じとは限らない。PSGでのネイマールは、バルサのメッシと同じプレイスタイルを左で行っていた。ネイマールのPSGでのやり方をそのままにするなら、メッシのいる右サイドと同じ可変メカニズムになってしまう。そこで[3-4-3]案が浮上してくる。
とくに相手が最初から「バスを置く」形で引き切ってしまう場合、どのみちPSGの攻め込みの形は[2-3-5]だ。「3」の中央を担当するMFの主要任務はカウンターケアなので実質的にDFといっていい。3バックにしても大差はない。それにはうってつけのマルキーニョスがいるので、ラモス、マルキーニョス、キンペンベの3バックは十分ありうる。左ウイングバックにディ・マリアを起用する余地も出てくる。
ただし、メッシとネイマールの2シャドーは守備面で全くあてにならない。
カウンターケアだけに終始する展開ならともかく、反撃力の強い相手であればPSGが引かなければならない場面も多くなり、そのときにハーフスペースまたはサイドの守備をメッシとネイマールに任せるのは現実的ではない。[3-4-3]は一方的な展開限定になりそうだ。
シンプルさを求め、無駄のない[4-2-3-1]も
MMNの結成で気になるのがディ・マリアの起用法。守備面を考慮すると、インサイドよりもサイドでの起用がベターか photo/Getty Images
メッシをトップ下に起用した[4-2-3-1]もありうる。[4-3-3]と同様に左サイドのネイマールまたはムバッペは守備タスクを負うことが前提だが、[4-2-3-1]ならばディ・マリアを右サイドハーフとして起用できる。MMNの1人を守備ブロックに組み込むということでは[4-3-3]と変わりないが、メッシを右で起用した場合の可変よりもシンプルなトランジションになるので無駄は少なくなる。
バルサでのMSNの初期がそうだったように、メッシが普通に右サイドでの守備タスクを果たすことも考えられる。PSGでは新参者でもあり、ムバッペとネイマールに得点をある程度任せるならメッシは守れない選手ではない。ただ、バルサ時代がそうだったように、メッシの得点力に依存するようになると、結局は「メッシ・システム」に移行する。
しかし、構成がどうなるにせよPSGはバルサほどメッシ・システムの歪みがマイナスには作用しないと思われる。バルサより守備力のある選手が多いからだ。DFとMFに守備のタレントが質量ともに揃っている。MMNを擁することでのマイナスを最小化できるのではないか。MMNが機能すれば破壊力はMSNを超える可能性は十分ある。
文/西部 謙司
※電子マガジンtheWORLD261号、9月15日配信の記事より転載