奪えて、運べて、展開できる PSGは中盤のクオリティも屈指
ワイナルドゥムはハードワークできるし、展開力もある。PSGは中盤の補強にも成功している photo/Getty Images
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前線の豪華な顔ぶれを生かすためにはどうすればいいか? 第5節を終えて、マウリシオ・ポチェッティーノ監督は3つのシステムを採用している。[4-4-2][4-3-3][4-3-1-2]である。今後、リオネル・メッシを生かすべく、バルセロナが“メッシ・システム”を生み出したようにまだ披露していないシステムで戦うことがあるかもしれない。
いずれにせよ、大事なのは中盤だと考えられる。キリアン・ムバッペ、ネイマール、そしてメッシ。得点力のある前線の彼らにボールを運ぶのは、その後方、中盤でプレイする選手たちの役目になる。無論、献身的な守備も求められる。なぜなら、メッシを筆頭にこの3人は前線から懸命にボールを追いかけるタイプではない。同時起用するなら、中盤の整備が必要なのは明らかだ。というか、この3名に関しては守備の負担をできるだけ軽くし、得点することに精力を注ぎこんでもらったほうがいい。
4枚になるにせよ3枚になるにせよ、中盤を務める選手には前線にボールを届ける技術とともに多大な運動量が必要で、PSGはこのポジションを高いレベルでこなせる選手をしっかり揃えている。アンデル・エレーラ、ダニーロ・ペレイラ、イドリッサ・ゲイェ、マルコ・ヴェッラッティ、レアンドロ・パレデス、エリック・エビンベ、そして新加入のジョルジニオ・ワイナルドゥムなど。さらに、本来はCBのマルキーニョスという選択肢もある。
あとはシステムや前線との連携を考慮した組み合わせになるが、リーグ・アン、CLを戦うことで試合数が多くなること想定すると、ベストメンバーという固定された布陣はなく、状況に応じて最適な選手をピッチに送り出すのではないだろうか。実際、第5節を終えたリーグアンでは同じ顔触れで戦った試合はない。
第1節トロワ戦は[4-4-2]で、ダニーロ、エレーラのボランチ、右にワイナルドゥム、左にはユリアン・ドラクスラーだった。その後は[4-3-3]で中盤3枚が多く、エレーラ、ゲイェ、ダニーロ、ワイナルドゥム、ヴェッラッティ、エビンベのなかから3名が選択されている。疲労が溜まるポジションだし、それぞれの代表活動もある。今後もコンディションが考慮された起用になりそうである。
9月11日に開催された第5節クレルモン戦も中盤は3枚で、アンカーがダニーロ、右にエレーラ、左にゲイェという布陣だった。今後はともかく、現状、ポチェッティーノ監督はアンカーを配置した3枚の中盤で戦っていこうとしている。いずれもハードワークできる選手で、ボールを奪う能力に秀でている。同時に、ここぞという場面ではゴール前に顔を出せる選手たちで、4-0で快勝したクレルモン戦でエレーラが2得点、ゲイェが1得点したように決定力もある。
アンカーに関しては強いフィジカルを持ち守備力が高いダニーロが適任かもしれないが、とにかく献身的なエレーラ、ゲイェも同ポジションでプレイできる。トランジションが恐ろしく早くて自分でボールを運べるワイナルドゥム、展開力に長けたヴェッラッティ、1対1の強さに絶対の自信を持つパレデスもいる。インサイドハーフも含めて、やはりポチェッティーノ監督には多くの選択肢がある。
前線を支えるだけではない 中盤の充実で得点力アップも
攻撃をコントロールするレジスタであるヴェッラッティは、メッシと相性がいいかもしれない photo/Getty Images
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ムバッペ、ネイマール、メッシ。試合において、この3名が厳しいマークを受けるのは当然である。マウロ・イカルディ、アンヘル・ディ・マリア、ドラクスラーも同様で、ゴールに近いポジションでプレイする選手は簡単にはフリーになれない。こうしたときに重要なのが、中盤を含めた後方からのサポートになる。
クレルモン戦でわかりやすいシーンがあった。24分、右SBのアクラフ・ハキミが3トップの右サイドアタッカーのラフィーニャを追い越して攻撃参加し、相手陣内の深い位置からゴール前にクロスを折り返した。ニアサイドで厳しいマークを受けていたムバッペが潰れ、ファーサイドにもひとり走り込むことで中央が手薄になっていた。ここに走り込んだのが、アンカーを務めていたダニーロだった。
大きなストライドでゴール前に現れたダニーロは、右足インサイドでていねいにフィニッシュした。身体を投げ出したDFの足に当たってゴールにはならなかったが、フリーでシュートしており、クレルモンの守備は間に合っていなかった。
このシーンだけでなく、インサイドハーフのエレーラやゲイェが積極的に攻撃にからむことで、PSGには多くのゴールチャンスが生まれていた。実際、この試合ではエレーラが2得点、ゲイエも1得点している。ダニーロが24分の決定機を決めていたら、中盤3人がゴールを奪うという結果になっていた。
ワイナルドゥムも前線を追い越して攻撃参加できるタイプで、正確なミドルシュートもある。プレイのアイデアが豊富なヴェッラッティは、メッシと相性がいいかもしれない。こうした各選手の特徴を考えると、PSGは間違いなく得点力を増している。リーグアンでは第5節を終えてすでに16得点している。ケガ人が続出した昨シーズンはリールの後塵を拝したが、前線だけでなく中盤にもこれだけのメンバーを揃えて2年連続優勝を逃すとは考えにくい。
メッシ、ネイマールを加えた布陣はまだ不透明だが、前線をサポートできる選手が中盤に揃っている。ここまで、リーグ・アンではあるが、前線の選手に頼ることなく順調に得点してきた。絢爛豪華な屋根ばかりが目立つが、支える土台もしっかりしている。国内王者の座を取り戻し、CL制覇も狙うシーズンにおいて、不可欠なのは前線の“MMN”の爆発だ。しかしそれを実現するためには、中盤の仕事人たちの働きこそがもっとも重要なのである。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD261号、9月15日配信の記事より転載