[特集/PSGは最強になれるのか 03]ターンオーバーできる優位性を活かせるか? PSGに課せられた欧州制覇という目標

サッカー史上稀に見る“豪華で長いベンチ”

 人呼んで新銀河系軍団――。

 超大型補強によって、全世界注目の的となったパリ・サンジェルマン。彼らにとって2021-22シーズン最大のターゲットは、もちろんチャンピオンズリーグ初優勝だ。この長年の悲願を達成すれば、国内タイトルと併せて、フランス勢として史上初の3冠達成も夢ではないだろう。

 リオネル・メッシをはじめとした大型補強によって、もともと重厚だった選手層はおそろしく重厚なものとなった。

 例えば守護神の座は、経験豊かなケイロル・ナバスとEURO王者となった22歳ジャンルイジ・ドンナルンマが争う。多くのポジションに複数のワールドクラスがひしめき、レギュラー争いは世界一熾烈だと断言できる。

 この新銀河系軍団を束ねる指揮官マウリシオ・ポチェッティーノに求められるのは、有り余る戦力を空中分解させず、“足し算”すること。そのためには豊富なタレントを、巧みなターンオーバーで使いまわさなければいけない。

 ポチェッティーノは柔軟性を備えた指導者だ。チームの状況や対戦相手、試合の重要性などによって、システムや選手を巧みに使い分ける。

 5節を消化したリーグ・アンでも、主力がそろわない中、[4-3-3]、[4-3-1-2]、[4-4-2]など複数のシステムを併用して5戦全勝。早くも単独首位に立った。

 おそらく基本となるのは[4-3-3]、もしくはトップ下を置く[4-2-3-1]だろう。

 前者であれば、キーパーはナバス(もしくはドンナルンマ)。最終ラインは右からハキミ、セルヒオ・ラモス、キンペンベ、ディアロ。中盤はゲイェをアンカーにして、ワイナルドゥム、ヴェッラッティが逆三角形を形成。そして前線は右からメッシ、ムバッペ、ネイマールがならぶ。

 後者はトップ下がワイナルドゥム、もしくはメッシ。メッシがトップ下に入る場合は、右サイドにはアンヘル・ディ・マリアの起用が予想される。

 PSGではピッチ上にも控えにもワールドクラス、もしくはそれに準じる実力者がひしめく。

 センターバックのプレスネル・キンペンベは、リーグ・アン屈指のタレント。ミスが減り、年々スケールアップしている。

 左サイドバックには戦術理解度に優れたテクニシャン、ファン・ベルナトが控え、守備的な中盤には激しいデュエルが持ち味のレアンドロ・パレデスもいる。

 また中盤から左右ウイングまで、幅広いポジションをこなすユリアン・ドラクスラーがいて、なによりディ・マリアもレギュラーが保証されていない。

 さらにセンターフォワードの控えには、セリエAで2度得点王に輝いたマウロ・イカルディが……。

 サッカー史上、これほど豪華なベンチがあっただろうか。

控え組と思われた選手たちに予想外の好パフォーマンス

イカルディ(左)もすでに2ゴールをゲット。MMNの陰で存在感が薄くなると思われていたものの、かつてのセリエA得点王が健在であることを示している photo/Getty Images

 キーパーのナバスとドンナルンマがそうであるように、PSGではだれがスタメンを張っても、多くの実力者がベンチを温めることになる。どこに行ってもレギュラーを張れる実力者だけに、この扱いは容易に受け入れられるものではないだろう。つねに不協和音のリスクがつきまとうことになる。

 だが、イタリアに「強いチームはベンチが長い」という格言があるように、控えの充実はもちろんアドバンテージになりうる。

 いまだパンデミックは収束の兆しが見えず、だれが感染しても不思議ではない状況が続いている。

 また、主力の大半が強豪国の代表チームに欠かせない選手であるため、ワールドカップ予選のたびに多くの選手が長旅とタフなゲームを強いられることになる。とくに南米勢はコンディショニングが難しく、リカバリーに時間がかかる。

 そうした事情を考えれば、ベストメンバーで戦える機会はむしろ限られているといっていい。5人の交代枠を併せて考えると、“長いベンチ”はリスクをはらみつつも、プラス材料と捉えることができるのだ。

 加えて、彼らの主戦場がリーグ・アンであることも幸いするのではないか。リーグ・アンは、スペインやイングランドに比べてレベルが落ちるため、この陣容なら早々に独走態勢に入るかもしれない。そうなると基本戦術を熟成しながら、さまざまなシステム、コンビネーションを試す余裕が生まれるだろう。

 ベテランのメッシ、ディ・マリア、ラモスなどに適度に休養を与えながら、チャンピオンズリーグの大一番に備えることもできる。

 そう考えると、リーグ・アン序盤戦で、イカルディ、アンデル・エレーラ、ドラクスラーといったバックアップ要員が存在感を示したのは明るい材料である。イカルディはすでに2ゴールと自身の仕事をきっちりとこなし、ポジションが心配されたドラクスラーも3試合の先発を含む5試合すべてに出場。エレーラも5試合で3ゴール2アシストと、現時点では攻撃の中心と言っていい見事な働きを見せた。

 第5節クレルモン戦ではついにドンナルンマもゴール前に姿を現わし、4-0のクリーンシートに貢献している。そこにこれからメッシやネイマールといった主力が加わってくる。主力たちのコンディションが上がってくるこの9月、新銀河系軍団の全容が見えてくるはずだ。

CL制覇に不可欠な“MMN” 選手層駆使し確立を目指す

第5節クレルモン戦で、GKはついにドンナルンマが先発となった。ナバスとのハイレベルな正守護神争いが展開されるが、ポチェッティーノはビッグマッチでどちらを選ぶのか photo/Getty Images

 前述したように、PSGの最大の目標は欧州制覇。いずれメッシ、ムバッペ、ネイマールの“MMN”の力が必要になってくるのは明白だ。それはポチェッティーノ監督も分かっているはずで、問題はどこでその使い方を確立するか。最低でも来年の決勝ラウンドまでにはその最適解を見つけなければならないが、ポチェッティーノの慎重な選手起用を見れば、グループステージでいきなりスーパースターたちをズラリと並べてくることは考えづらい。古参の選手たちを使いながら次第にメッシらを慣れさせていく意図がうかがえる。ここでもやはり、ドラクスラーやエレーラらの働きがまずはカギになってくるだろう。

 GSの組み合わせはクラブ・ブルージュ、マンチェスター・シティ、RBライプツィヒとなっており、国内リーグよりも厳しい相手になる。唯一、明確に力が劣ると思われるブルージュ戦では、もしかすると今後の形につながるような、攻めた選手起用が見られるかもしれない。“MMN活用法”確立のための布石をここで打っていければ理想的だ。

 注目は9月28日、本拠地パリが舞台となる第2節のマンチェスター・シティ戦。この大一番の結果と内容が、ヨーロッパ制覇という悲願成就へのひとつの試金石となるだろう。


※電子マガジンtheWORLD261号、9月15日配信の記事より転載

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