個人のミスは解決できる フォーカスすべき課題とは?
田中(中央)の先制点、浅野(左)の執念が勝利を導いた photo/Getty Images
オーストラリアに2-1で勝利しましたが、観戦していてとても疲れました。私自身が走ったわけではないのに、とても体力を使いました。最終予選3試合の結果により、日本代表は負けられない状況でした。絶対に勝たないといけない試合だったわけですが、いい意味で裏切ってくれました。勝利することができてホントによかったです。
先にサウジ戦を振り返ると、いろいろなことが想定されました。私もサウジでのアウェイゲームは経験がありますが、とにかく暑くて熱気がこもっているなか、完全アウェイで声が通らない状況です。それでも、前半は決して悪くなかったと思います。相手のサイドバックが出てくるところ、浅野拓磨、南野拓実がうまくフタをして守備でサポートしていました。攻撃でも決定機があり、決めていればという前半でした。
後半になると試合が進むにつれてチーム全体が疲労、消耗していき、徐々に後ろ向きになっていきました。そして、ミスから失点しました。しかし、個人のミスは解決できる問題で、この部分を掘り下げてもキリがありません。フォーカスすべきポイントは、他にあります。
サウジの固い守備組織に対して、どうやって攻めてゴールを奪うのか。攻撃のカタチ、崩す方法がみえませんでした。攻め急いでいて、両サイドの幅を使うことなくかみ合っていませんでした。ビルドアップを狙っても機能していませんでした。こうした失点までの展開にフォーカスすべきで、最終予選に入ってあまり点が取れていない事実がこのあたりの課題を物語っています。サウジ戦はお互いにチャンスが作れずガマン比べのような展開になっていたので、最低でも勝点1は持ち帰ってほしかったです。
オマーン、そしてこのサウジとの戦いで感じたのは、彼らはこれまでとぜんぜん違うチームだったということです。タックルが深く、球際も激しかった。とくに、ホームだったサウジは「日本代表という格上と対戦する」というリスペクトなどなく、本気で倒しにきていました。アジアにおける日本代表の立ち位置が、以前ほど格上ではないと感じました。
選手変更、布陣変更が奏功 ひとつの“絵”が描けていた
権田の勇気あるキャッチは、勝利を確信させた photo/Getty Images
こうしたなか、オーストラリア戦を迎えました。試合前、私は選手を代えるか、システムを変えるかだなと思っていました。結果、森保一監督はどちらも変更してオーストラリア戦に臨みました。そして、立ち上がりからアグレッシブなサッカーをみせました。こうした前向きな姿勢が、早い時間の田中碧の先制点につながりました。
システム変更も効果的でした。中盤の3枚、遠藤航、田中碧、守田英正が相手のプレイ範囲に制限をかけ、中央に入ってきたら身体を寄せ、ボールを奪う。3人の回収力はさすがでした。大迫勇也がタメ作り、伊東純也がスピードを生かして突破する。さらに、南野拓実がファジーなポジションを取って相手をかく乱する。チーム全体でひとつの“絵”が描けていました。
先制点に関しても、中盤で制限をかけてボールを奪ってからの展開で決めたものでした。前半の内容は素晴らしく、あわよくばもう1点ほしかったです。追加点が取れなかったことで、後半に追いつかれることになりました。
失点したFKにつながった展開ですが、左サイドのスペースをマーティン・ボイルに使われ、対応が間に合わずクロスを許しました。長友佑都が前方にチャレンジしたことで空いたスペースであり、チームの約束事、役割がどうなっていたかがポイントになります。誰がカバーすべきだったか? そもそも長友佑都は前方にチャレンジしていい場面だったか? いろいろな考えがありますが、現役時代にサイドバックだった私でもあの場面は前方にチャレンジしていました。私が長友佑都だったなら、同じ選択をしていました。あのシーンはマーティン・ボイルの動きがよく、各選手の判断が難しかったと思います。
同点に追いつかれて嫌な雰囲気になりましたが、交代で入った選手が起用に応えました。月並みですが、ホントにみんなで奪ったゴールでした。解説していた岡田武史さんが「サッカーの神様」という話をしていましたが、左サイドのゴールには神様がいたと思います。前半にはアダム・タガートのシュートをポストが弾いてくれました。逆に、終了間際の浅野琢磨のシュートはポスト経由で決勝点になりました。
過去、埼玉スタジアムの左サイドのゴールではさまざまなドラマが生まれてきました。大黒将志、山口蛍の土壇場のゴール、井手口陽介のミドルシュート。どれも、サッカーファンの方なら鮮明に思い出せるでしょう。こうしたストーリーを生んでいるのが、サポーターの存在だと思います。今回も声は出せませんでしたが、間違いなく選手の力になっていました。サポーターの力は大きいと感じました。
終了間際に権田修一がみせた前方に飛び出しての勇気あるキャッチにも痺れました。ベンチも一緒に戦っている雰囲気が伝わってきました。最後に大きな円陣を組んでチームがひとつになっていました。ここをターニングポイントにして、オーストラリアとの戦いをベースにして、残り6試合を戦ってほしいです。
今回の姿勢を継続し、まずは11月の2試合に連勝する。そのためには、プレイ強度を高く、仕留めるところは仕留める。もう、腰が引けたサッカーはしてほしくないです。
構成/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD262号、10月15日配信の記事より転載