近年プレミアリーグのタイトルから遠ざかっているマンUとチェルシーだが、今季はひと味違う。両クラブともに強力なストライカーを獲得しており、足りなかったラストピースを手に入れている。リーグ制覇の最終兵器ともいえるC・ロナウドとルカクをどう生かすかが、今季のテーマとなりそうだ。
最大火力を見つけ出せ 鍵となるC・ロナウド活用術
かつてマンUで名を挙げたロナウドが、同じエースナンバー「7」を背負い帰還。復帰初戦となった第4節ニューカッスル戦では早速2ゴールを挙げ、その力を改めて見せつけた。“持っている”スーパーエースの再獲得は、チームに巨大なプラスをもたらす photo/Getty Images
クリスティアーノ・ロナウドを獲得したマンチェスター・ユナイテッドは、間違いなく魅力を増している。魅力を増しているが、それは成績が保証されたものではなく、「成否」のどちらに転ぶかわからない魅力で、ある意味で毎試合ドキドキさせてくれる。
もっとも難しいのが、魅力アップの要因であるロナウドの起用方法である。加入前のオーレ・グンナー・スールシャール監督は、前線にメイソン・グリーンウッド、あるいはアントニー・マルシャルを起用していた。エディンソン・カバーニはケガで出遅れ、マーカス・ラッシュフォードは離脱中というチーム事情があった。
ロナウドが加わった以降、スールシャール監督はロナウドが先発するときは必ず前線で起用している。トップ下にブルーノ・フェルナンデスを配置し、サイドにグリーンウッド、ポール・ポグバ、ジェイドン・サンチョなどを起用する[4-2-3-1]が基本となっている。
非常に贅沢な悩みだが、カバーニが復帰したことでスールシャール監督には豊富な選択肢が存在する。マンUのサポーターも、各々が自分の好みの組み合わせを考えるという楽しい作業を行っているのではないだろうか。一番のポイントはロナウドとカバーニが共存できるかどうかで、これに関して肝心の指揮官は表向き楽観的である。
「良いパートナーシップを築けるだろう。チームによっては、より深い位置に下がって守り、あまりスペースを与えてくれないこともあるが、そのようなシナリオになったときには、彼らのような2人をゴールの周りに配置したい」
これは、クラブの公式サイトに掲載されているスールシャール監督の共存についてのコメントである。現状、両者が同じタイミングでピッチに立ったのは数試合の後半途中からで、数分しかない。左サイドアタッカーに代わってカバーニが入り、同サイドでのプレイを基本としつつ、中央に絞って後方の選手が攻撃参加するスペースを空けるという感じである。チャンピオンズリーグのビジャレアル戦ではこれがうまくいき、カバーニが外からブルーノ・フェルナンデスにパスを出し、そのまま中央へ。空いたスペースに攻撃参加したフレッジにパスが出され、フレッジがダイレクトで折り返した流れからロナウドの決勝点が生まれている。
得点が必要な状況、守備の負担が少ない状況であれば、どちらかが前線を務め、どちらかがサイドでプレイすることは可能だ。ただ、スールシャール監督が語るとおり、そのときは両名ともにできるだけゴールに近いところでプレイするのが理想で、ビジャレアル戦でのゴールのように後方からの押し上げが必須となる。
とはいえ、これはスクランブルの要素が強い。このビジャレアル戦から中二日で迎えた第7節エヴァートン戦では、ロナウドを休ませてカバーニを前線で先発起用している。そして、後半なかばにロナウドと交代している。実際には、この選択が多くなるだろう。両名を最初から起用するには2トップがベストだが、立て続けに試合があるなか新しい布陣をスールシャール監督がトレーニングを通じて構築するとは考えにくい。
ロナウドとブルーノ・フェルナンデスの連携についても、試合を重ねるなかすり合わせていくしかない。ポルトガル代表ではあまりかみ合っていないが、長く一緒にプレイすることで状況が変化してくるかもしれない。
まわりを生かす能力に長けたブルーノ・フェルナンデスであれば、ロナウドを最大限に生かし、自分も生きるスタイルをみつけ出す可能性がある。
いずれにせよ、あまり複雑なことはせず、各選手が高い身体能力を生かして真っすぐにゴールを目指したほうがいい。最終兵器を補強した今シーズンのマンUは、こうした戦いを貫いたほうが優勝に近づけるポテンシャルがある。スールシャール監督のスタイルに、小細工は似合わない。
幅が広がるルカクの加入 生かされる2列目のタレントたち
約149億円で再獲得されたルカクだが、以前チェルシーに在籍したときは出場機会を得られず、まさかの0得点だった。今季はすでに3ゴール。191cmの恵まれたフィジカルのみならず周囲を活かす術も身につけ、成長を遂げたルカクのリベンジはすでに始まっている photo/Getty Images
最終兵器を手に入れたのは、チェルシーも同じである。トーマス・トゥヘル監督は就任当初から[3-4-2-1]を軸にしているが、昨シーズンはカイ・ハフェルツ、ティモ・ヴェルナーを0トップ気味に起用して乗り切ってきた。攻撃力を高めるべく獲得されたのがロメル・ルカクで、この補強によってチェルシーは攻撃面でオプションが増えている。
とくに豊富なのが、ルカクの近くでプレイするシャドーストライカーで、ハフェルツ、ヴェルナーはもちろん、メイソン・マウント、ハキム・ツィエクがいる。いずれも運動量が多くて長い距離を走れる選手たちで、守備から攻撃への切り替えも早い。タメを作れるルカクが加入したことで、2列目から飛び出すこれらの選手の能力がより引き出されている。直近のサウサンプトン戦でもルカクのキープで引っ張られたセンターバックが空けてしまったスペースをヴェルナーが生かしており、チャンスシーンを演出している。惜しくも相手GKに阻まれ得点とはならなかったが、ルカクの強力なフィジカルを使いバイタルエリアをこじ開ける戦い方は今シーズンのチェルシーで頻繁にみられている。
昨シーズンは[3-4-2-1]を貫き、CLを制覇している。現状のスタイルを継続して精度を高めていけばプレミアリーグ制覇、CLの連覇も不可能ではないが、向上心と探究心の塊であるトゥヘル監督は新たな布陣にもチャレンジしている。
第6節マンチェスター・シティとのホームゲームを迎えて、[5-3-2]で戦っている。本来は[3-5-2]で戦いたかったと考えられるが、マルコス・アロンソ、リース・ジェームズの両サイドハーフが低いポジションに押し込まれ、中盤がジョルジーニョ、エンゴロ・カンテ、マテオ・コバチッチ。前線にルカク、ヴェルナーというカタチになっていた。重心が後方に下がることで、よい守備でボールを奪い、マイボールになったら素早く前線にぶつけてスピードのある2人でゴールを狙う。そういったシーンを作り出せず、劣勢を強いられて0-1で敗れている。
最終スコアは1点差だったが、ボールポゼッション40%対60%。総シュート数5対15。枠内シュート数0対4という完敗で、マンCが繰り出すハイプレスをかわすことができなかった。マンCと同じような強度でプレスをかけてくるチームはそうそうないが、このような展開になったときにいかに打開するかが今後の課題になる。
続くCLユヴェントス戦にも0-1で惜敗したが、こちらは戦い慣れた布陣で臨んだ一戦で、ボールポゼッション73%対27%。総シュート数15対6と逆に圧倒していた。マンC戦もいつもの布陣で戦っていたら、また別の展開になっていたかもしれない。そう考えると、マンC戦でこのような策を講じるくらい、トゥヘル監督には余裕があったと判断できる。結果は得られなかったが、大きな影響がある1敗ではなかった。
連敗ののち、前線の組み合わせを探るべく第7節サウサンプトン戦ではルカク、ヴェルナー、カラム・ハドソン・オドイという今シーズン初の3トップが試されている。相手に退場者が出たあとに勝ち越す展開だったが、結果は3-1で勝利している。
この試合でもそうだったが、ルカクはマークが厳しい前線に居残っているわけではなく、中盤に下がってきてボールを受け、少ないタッチ数で味方につなぐなど攻撃のビルドアップに加われる。そして、このようなときはシャドー、サイドハーフ、ボランチなどがルカクと入れ替わって前線に飛び出してゴールを狙う。このカタチが早くも確立されていて、ルカクはもちろん、どこからでも点が取れるのがチェルシーの特長になっている。
ただ継続するだけでなく、進化するべく新しいことにもトライしている。ルカクの加入によってチェルシーは昨シーズンよりもスケールアップしている。他チームの追随や追い越しがなければ、今シーズンもなんらかのタイトルを獲得することになる。
強力なストライカーを獲得した両クラブ。現状ではマンC、リヴァプールが一歩先を行くが、マンU、チェルシーも最終兵器の獲得によって大きな力を手にした。この4チームがしのぎを削る今季の優勝争いは最終盤までもつれることになりそうだ。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD262号、10月15日配信の記事より転載