鎌田こそがフランクフルト復調のキーマン 長谷部の起用法は3バックがベスト[水沼貴史]

水沼貴史の欧蹴爛漫060

今季は苦しい戦いが続いているフランクフルト photo/Getty Images

スタイルの変化で大苦戦の序盤戦

水沼貴史です。新シーズンの開幕から2ヶ月が経ちましたが、ブンデスリーガが激しい上位争いを見せています。見ていて非常におもしろいです。10連覇を目指す絶対王者のバイエルンは強さを維持していますが、それ以上にレヴァークーゼンやフライブルクといったこれまで中堅だったクラブのレベルが一段上がり、強豪クラブを脅かす存在になりつつあると思います。バイエルンやドルトムントを筆頭に、上位クラブの多くが今夏に監督交代を行なったことが、序盤戦の状況に大きく影響しているのかもしれません。

一方で上位陣とは異なり、今夏の監督交代によってまだまだ本来の力を発揮できず、苦しんでいるクラブもいくつかあります。特に難しいスタートとなってしまったのが、MF長谷部誠やMF鎌田大地がプレイするフランクフルトです。昨季は5位でシーズンを終え、ヨーロッパリーグの出場権も獲得したフランクフルトですが、今季は第8節が終了した時点でなんと14位。5試合連続ドローのあとの第7節でバイエルンを撃破し、ついに調子は上向きかと思われました。しかし、続く第8節でヘルタ戦に惜敗を喫し、うまく波に乗れません。もしかしたら、現在のブンデスリーガで一番苦しんでいるクラブかもしれません。そんなフランクフルトに関して、今回は少しお話をしたいと思います。

フランクフルトは今季から、昨季までヴォルフスブルクを率いていたオリバー・グラスナー監督を新指揮官に招聘しました。グラスナー監督はヴォルフスブルク時代、プレスの強度を上げるなど、ハードワークを主体にチームを飛躍させた実力のある監督です。実際に、昨季はチームを4位へと導き、7シーズンぶりにCLの出場権をもたらしていました。ただ、個々の能力を活かしたアドルフ・ヒュッター前フランクフルト監督とは、全く異なるスタイルです。選手たちは違いに戸惑い、今はまだ型にはめられるサッカーを窮屈に感じているように見えます。

また、昨季のリーグ戦で28ゴールも奪ったFWアンドレ・シウバのようなエースストライカーがいなくなったこと。これもチームとしては相当大きなダメージだと思います。フランクフルトは今夏、新たにFWラファエル・ボレやFWサム・ラマースといった選手たちも獲得しましたが、まだチームにはフィットせず。8試合で9ゴール(リーグワースト5位タイ)しか決めることができていません。昨季までもそうでしたが、フランクフルトはやはり10番のMFフィリップ・コスティッチをいかに活かすか。コスティッチがここまで2ゴール3アシストと孤軍奮闘していますが、A・シウバがいなくなった今、さらに彼の存在が重要となってくるのではないでしょうか。

バイエルンの猛攻を最小失点に抑えるなど、5失点した開幕戦のドルトムント戦を除けば、守備陣はある程度失点を抑えられています。フランクフルトの現在の課題は、やはり今季は最大で1試合2点しか奪えていない攻撃面でしょう。勢いに乗って攻める爆発力を取るのか、守備のバランスを考えて安定感を取るのか、監督の考えの違いもあるでしょう。安定感に欠けた昨季の大味なサッカーから、今季はしっかり堅実路線に来てはいます。ただ、逆にそれが前線の選手たちの個性を活かすことにはつながっておらず、そこを今後はどうやって折り合いをつけていくのかというところでしょう。選手たちが新指揮官のリクエストに応えられるようになり、FWが点を取り出すようになれば、フランクフルトは大きく化けると思います。

フランクフルト復調のキーマンとなりそうな鎌田 photo/Getty Images

チームと同様に苦しむ長谷部と鎌田

そして、フランクフルトを語る上で外せないのが2人の日本人選手のプレイでしょう。みなさんも最も気になっていることではないでしょうか。まず長谷部ですが、ここまでリーグ戦では3試合の出場にとどまっています。グラスナー監督も長谷部の経験には信頼を寄せているでしょうし、認めているところでしょうが、今季は少し“システムありき”になってくるかもしれません。

今は3バックに落ち着いてきましたが、グラスナー監督はヴォルフスブルクでやっていたような4バックを採用するなど、ここまでシステムに関して試行錯誤してきました。そして、ボランチはMFジブリル・ソウを中心に、MFクリスティヤン・ヤキッチ、MFアディン・フルスティッチといった伸び盛りの選手たちがいます。こういったボランチたちに今季38歳の誕生日を迎える長谷部がどのように絡んでいくのか見ものですが、チームが強度のあるサッカーを行うので、今はボランチよりも後ろの方が長谷部には合っていると思います。4バックの際のセンターバックやボランチですと、やはり負担はかなり大きいです。そのため、3バックの一角としてフル出場したヘルタ戦のように、チームが今後も3バックでやっていくことになれば、長谷部にはチャンスだと思います。もしくは、3バックの際のボランチです。後ろの枚数が多いぶん4バックよりも負担が減るので、真ん中でバランスを取るという意味でもありだと思います。今季の長谷部にとっては、3バックシステムがベストかもしれませんね。

次に鎌田ですが、ここ数シーズンは幾多のゴールに絡んできました。たくさんのファンが彼に大きな期待を寄せ、周りからもこれまで以上のことを要求されていることでしょう。しかし、ここまでリーグ戦では7試合に出場して0ゴール0アシスト。本来のパフォーマンスを発揮できていません。システムが変わる、やり方が変わる中で、苦戦を強いられています。ただ、こういた状況はプロサッカー選手である以上よくあることであり、彼がもっと上に行くためにも、もう一段、二段レベルアップするためにも、今季は正念場のシーズンとなりそうです。

もちろん、エースのA・シウバがチームを去ったことや、昨季の相棒であったMFアミン・ユネスが不在なこと(開幕戦以降ベンチ外が続いている)の影響も大きいでしょう。A・シウバやユネスとは昨季、抜群のコンビネーションを披露してたくさんのゴールを生み出していましたからね。今周りにいる選手たちは彼らとはタイプが異なりますし、鎌田が今季思うような結果が残せない1番の理由でもあるかもしれません。ボールを受けられれば問題はないと思いますが、そもそもボールがなかなか受けられない。まだ感覚が合っていないこともあるでしょうが、鎌田自身も存在感を発揮するために運動量を増やしたり、立ち位置を改めて考えていく必要があるでしょう。

ただ、本人もやるべきことはわかっているようで、これから引き出しを増やしながら、レベルアップするための変革を起こし、是非とも活躍して欲しいです。以前、「無口なイメージを持たれていると思うんですけど、めちゃくちゃしゃべる(『DAZN』の『内田篤人のFOOTBALL TIME』より)」とも口にしていました。ぶっきらぼうなところはあるかもしれませんが、こういったキャラクターをフランクフルトでもどんどん出していって欲しいです。正直、私はフランクフルト復調のキーマンは鎌田だと思っています。

もしかしたら、2人とも時間が解決してくれるものかもしれません。長谷部と鎌田の今後の飛躍に期待しましょう。そうすればチームも順位を上げてくるのではないでしょうか。さらに鎌田に関して言えば、フランクフルトでのパフォーマンスが上がってくれば、日本代表でのパフォーマンスも必然と上がってくるでしょうね。

それでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

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