明治安田生命J1リーグの第35節が7日に行われ、湘南ベルマーレとサンフレッチェ広島が対戦。
サンフレッチェのMF柴﨑晃誠が、相手DF山本脩斗への危険なスライディングタックルにより、19分に一発退場。これを機にサンフレッチェがジュニオール・サントスを最前線に残した[5-3-1]の隊形で自陣へ撤退し、ベルマーレが圧倒的にボールを支配する展開となったが、得点は生まれず。0-0の引き分けで幕切れとなった。
ベルマーレに足りなかったのは、相手の3セントラルMFエゼキエウ、青山敏弘、松本泰志を横に揺さぶる作業。特に前半はサイドチェンジのパスが少なく、サンフレッチェが自陣ペナルティエリア手前のスペースを埋めている状況でショートパスを繋ぎ続けたため、なかなか決定機を生み出せなかった。
─サイドチェンジのパスで、サンフレッチェの3セントラルMFを揺さぶる作業が少ないように感じました。ハーフタイムに、「もう少し揺さぶろう」という指示を出されていましたが、指示を出した前後で選手たちの動きに変化は見られましたか。
「退場者が出てからもそうですし、数的同数の試合でも、相手を揺さぶることは選手たちに要求しています。自分(ボールホルダー)と出すところ(パスの受け手)の両方に行ける中間ポジションを相手がとっていたので、それを選手たちがプレッシャーに感じてしまい、攻撃のテンポを上げてほしいところで遅くなったのが問題点としてありました。そこを剥がせる勇気という部分について、まだまだ落とし込みが足りないなと感じていますが、後半に関してはやるべきことが明確になりましたし、選手たちもそれを忠実にやろうとしてくれていたと思います」
─一人ひとりがボールを持つ時間が、いつもより長かったですね。
「それはその通りで、前半に関してはボールホルダーがボールを持ちすぎましたし、タッチ数も多すぎました。各駅停車のパスも多かったです。(ボールを)失いたくないという気持ちが強かったこと、圧倒的にボールを支配できる試合を、ベルマーレがあまり経験したことがないということが重なり、あのような展開になりました。後半に関してはテンポも良かったですし、(パスを)つけて動き直すことを繰り返せば、相手が動くんだなということは経験として残ったと思います。『自分たちのやるべきことは、どんな状況でも変わらないよ』という勉強をさせてもらった試合でしたね」
試合後の会見で、前半の拙攻を反省点として挙げたのが、ベルマーレの山口智監督。
サンフレッチェの3セントラルMFによる、ボールサイドへの素早い寄せに手を焼いていたベルマーレは、後半にサイドチェンジのパスを増やし、彼らを疲弊させることで相手の守備ブロックに穴を開けていた。数的優位に立った直後からこの攻め方を徹底していれば、得点が生まれたかもしれない。
数的優位を活かせず、勝ち点1奪取に留まったベルマーレだが、9月1日付けでコーチから監督に昇格した山口氏のもとで、整然とした遅攻を繰り出せるようになっているのは確か。
中央のレーン、大外のレーン、ハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)に選手たちが満遍なく立ち、相手の守備隊形を横に広げたうえでパスワークを仕掛けようとするスタンスが、チーム内に浸透している。広島戦でも、[3-1-4-2]の布陣の2シャドー、平岡大陽と茨田陽生のハーフスペースへの侵入が際立っており、彼らのこの動きがベルマーレの中央突破やサイド攻撃に厚みをもたらしていた。
「僕は今日の勝ち点1をポジティブに捉えています。チーム全体でやるべきことはみんな理解していますし、今日は点を取れなかったですけど、特に後半は速いテンポでボールを動かして、相手を押し込めました。広島の選手が、試合が終わった後に倒れるくらいだったので、やるべきことはやったと思います。攻守においてしっかり準備すること、前向きな(ランニングをしている)選手はしっかり使おうという共通認識のもとで今はやっていて、みんな攻守ともにポジションを取るのが速くなりました。それによって余裕も生まれますし、見える景色が変わってくる。そういうところはすごく変わったんじゃないかと思います」
広島戦で右ウイングバックを務めた岡本拓也も、試合後の会見で手応えを口にしている。攻撃の形は整ってきているだけに、敵陣ゴール前におけるラストパスやシュート、及びトラップの精度が上がれば、得点を量産できるだろう。
山口監督のもとで磨き上げてきた遅攻を、リーグ戦残り3試合でどこまで昇華させられるか。
これが、J2降格圏内との勝ち点差3の15位ベルマーレの、J1残留の成否の鍵を握るポイントと言えそうだ。