[PREMIER英雄列伝 #04]リヴァプールのすべてを背負ったキャプテンが遠くない将来に監督として新しい歴史を紡ぐ すべてにおいて世界水準 ジェラードはカッコいい

パワフルかつ正確な弾道 衝撃のインサイドキック

パワフルかつ正確な弾道 衝撃のインサイドキック

その熱いハートとキャプテンシーで、ジェラードは長きにわたってリヴァプールを牽引した photo/Getty Images

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 個人的には、なにかと縁のある選手だ。

 彼の右足から放たれる一撃を“弾丸ミドル” と名付け、2004-05シーズンのチャンピオンズリーグ・ラウンド16進出を決めたパワフルショットを「なんなんだ、こいつ」と解説し、絶賛されたり顰蹙を買ったりした。

 また、同シーズンのCLは決勝進出。前半で0-3のビハインドを背負いながら、後半になって信じられないような反発力から3-3の同点。PK戦で勝利を手繰り寄せた伝説の“ イスタンブールの奇跡” も、現地で解説する名誉に仰せつかった。彼には感謝しなくてはならない。
 スティーブン・ジェラードである。

 1999年、筆者は専門誌の編集者としてイングランドを訪れていた。主目的は現地メディアとの業務提携である。そのとき旧知のライターに「ジェラードだけは見ておいた方がいい」と勧められた。

「なんて選手なんだ! ?」

 ファースト・インプレッションが強烈すぎる。まさに度肝を抜かれた。インサイドキックでボールをミートしたときの音が、低くて重厚感にあふれていた。いままでに聞いたことがないような、なんとも表現しがたいサウンドで、しかも糸を引くように正確な弾道を描く。後にも先にも、インサイドキックだけで衝撃を受けた選手はジェラードしかいない。

 ただ、骨格がしっかりしているにも関わらず、華奢な印象も拭えなかった。19歳を迎えた彼の肉体は成長過程であり、プレミアリーグのプレイ強度に耐えうる鋼の筋肉をまとうまで、その後3~4年を要している。

 さらに、強気すぎる性格が災いし、両足タックルを試みるシーンも少なからずあった。後に「若気の至り」と猛省したジェラードだったが、現在のルールに照らし合わせると、長期の出場停止処分を科されても不思議ではないほど、ラフな面ものぞかせていたのである。

なぜかリーグ優勝に無縁 3点差を追いつかれる脆さ

なぜかリーグ優勝に無縁 3点差を追いつかれる脆さ

2013-14シーズンの第36節チェルシー戦。自らのスリップをきっかけとした失点などで0-2の敗戦を喫し、リヴァプールは首位から陥落してしまった photo/Getty Images

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 ジェラードは、典型的なボックス・トゥ・ボックス型だ。中盤センターで幅広く動き、攻守にわたって貢献する。自陣深くでからだを張り、ピンチを救う。次の瞬間、全速力で駆け上がって得意のミドル。また、一発で局面を変える正確なフィード、狭いエリアでも鋭く通すショートパスなど、すべてにおいて世界水準。陳腐な表現だが、カッコいい選手だった。

 それほどの男でも、なぜかリーグタイトルには縁がなかった。マンチェスター・ユナイテッドやチェルシーに比べると経済力で劣っていたため、移籍市場で多くの即戦力を獲得できなかったことが敗因のひとつである。

 プレミアリーグ優勝に最も近づいた13-14シーズンの最終盤には、無冠ゆえの脆さも露呈した。チェルシー戦でジェラードがスリップ。ボールをデンバ・バに奪われて決勝ゴールを許したり、クリスタル・パレス戦では0-3から追いつかれたり……。

 悲劇のヒーローといえば人々の琴線には触れる。ただ、やはりプレミアリーグは喉から手が出るほど欲していたタイトルだ。

「心残りはプレミアリーグのテッペンに立てなかったこと」

 ジェラードは、いまでも悔やんでいるという。

アンフィールドに帰還! サポーターも粋な計らい

アンフィールドに帰還! サポーターも粋な計らい

強烈なミドルシュートは彼の代名詞。プレミアリーグ通算504試合に出場して120G、92Aを記録している photo/Getty Images

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 14-15シーズン終了後にマージーサイドを去り、16年にロサンゼルス・ギャラクシーで現役引退。17年からリヴァプールのアカデミーで後進の指導に励み、18年にはレンジャーズ(スコットランド)の監督に就任。

 昨シーズンはセルティックの9連覇を阻んだだけでなく、32勝6分の無敗優勝。指揮官としての才能も披露したジェラードは、21年11月11日、アストン・ヴィラの監督としてプレミアリーグに戻ってきた。

 そして12月12日、リヴァプールの聖地アンフィールドに姿を見せた。敵将ジェラードがピッチに足を踏み入れた瞬間、スタジアムは大歓声に包まれた。本人は平静を装い、試合前に「感傷的にはならない」と語っていたが、リヴァプール・サポーターは間違いなく英雄の帰還を歓迎した。

 7~8分にかけて、「STEVENGERRARD,GERRARD」という現役当時さながらチャントが、ケ・セラ・セラのテーマに乗せて送られた。ジェラードは2004年から11年間、リヴァプールの背番号8を背負い続けた。サポーターの粋な計らいである。

 残念ながらジェラードとアストン・ヴィラは、0-1で敗れた。しかし、リヴァプールを苦しめ、試合最終盤までスリリングな攻防を見せたのだから、ほぼほぼ及第点といって差し支えない。

 また、試合前にジェラードが語っていたプラン──70分までしのぎ、残り時間で攻勢に出る──も実践できた。単なる人気者ではなく、一つひとつの試合に臨む姿勢が明確であることも明らかになった。

 決して遠くない将来に、ジェラードはリヴァプールの監督に就任する。ユルゲン・クロップ監督との契約が満了を迎える24年6月末日直後なのか、あるいは3~4年後なのか。いずれにせよ、キャプテンとしてチームのすべてを背負った男が、監督として新しい歴史を紡ぐ……。サポーターにとって、これ以上の幸福はない。

文/粕谷 秀樹

※電子マガジンtheWORLD264号、12月15日配信の記事より転載

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