[CL激闘必至の3番勝負 02]イタリア最強VSイングランド最強の“矛矛対決” 壮絶な殴り合いを制するのはどっちだ?

 チャンピオンズリーグ(CL )・ラウンド16では、リヴァプール対インテルの好カードが行われる。どちらも自国のリーグでゴールを量産する“矛”と“矛”の激突は、大注目だ。

 リヴァプールは、プレミアリーグ20試合消化時点で52得点を挙げており、21試合消化のマンチェスター・シティと1得点差の2位という破壊力。一方のインテルは、同じく20試合を消化して51ゴールで、これはセリエAでトップの数字である。

 名門同士の対戦だが、もちろん対等などではない。2018-19シーズンにCLを制しているリヴァプールに対して、インテルはCL決勝トーナメント自体が10年ぶりというクラブ。力の差はハッキリとある。実際、インテルのシモーネ・インザーギ監督は、「ラウンド16で最も避けたかった相手がマンチェスター・シティとリヴァプールだった」と話しており、インテルからすれば、地力の差をどう埋めるかの挑戦となるだろう。

攻撃のカギを握るのはCB インテルは数的優位を生み出せるか

シュクリニアルの積極的なオーバーラップがリヴァプールに脅威を与える photo/Getty Images

 両チームのシステムが被らないのは、インテルにとってポジティブだ。いわゆる「ミラーゲーム」となった場合、個vs個の力の差が出やすいだけに、各ポジションに最上級のタレントが揃うリヴァプールとやり合うのは難しい。

 インテルはまず、セリエAでやっているスタイルをCLで貫けるかがポイントだ。昨季のアントニオ・コンテ監督体制では堅守速攻が主体だった。インザーギ監督のもとでもシステムは同じ[3-5-2]だが、完全にポゼッション重視のスタイルで、イタリア国内では魅力的なカルチョをしていると評判だ。「ミラーゲーム」にはならないはずなので、今のスタイルを通せれば、どこかで数的優位をつくることができる。

 その数的優位をつくるのは、主に3バックのうちの2人の仕事。おそらく右にはミラン・シュクリニアル、左にはアレッサンドロ・バストーニが入るだろう。彼らの攻撃参加は今季のインテルのトレードマークの一つにもなっており、神出鬼没な攻撃的センターバックの登場に面食らってマークがずれる相手は少なくない。リヴァプールが相手だからといって持ち場を離れる度胸がなければそれまでだが、インテルはあくまで挑戦者。リヴァプールに負けたとしても責められることはない。強気に出るシーンが頻繁にあれば、チャンスはきっと生まれる。

サイドが特徴的な2クラブ 両翼の攻防に要注目

アレクサンダー・アーノルドの攻撃力をどのように抑えるかも見どころだ photo/Getty Images

 もう一つ、数的優位を生み出す上でカギとなる両サイドの攻防にも注目だ。リヴァプールのトレント・アレクサンダー・アーノルドとアンドリュー・ロバートソン(もしくはコスタス・ツィミカス)の両サイドバックは、とてつもない攻撃力を有しており、インテルのウイングバック陣では分が悪いという見方が多いだろう。

 ただ、インテルの左に入るイヴァン・ペリシッチは、近年ディフェンス面でのバランスが急激に良くなり、現在のインテルでとても重要な役割を担っている。アレクサンダー・アーノルドに自由を与えない守備に期待もできるはずだ。右はデンゼル・ダンフリースの適応が進んできたが、格上相手ということで守備の安定感を買ってマッテオ・ダルミアンが入るとみる。個の力でいえばかなり厳しいところだが、この2人が持つ攻守の平衡感覚は抜群で、サイドの攻防をきっと魅力的なものにしてくれる。

 リヴァプールの両サイドバックが高い位置を取れば、インテルのウイングバックが自陣に釘付けになることもあり得るだろう。ただ、それはそれで構わない。そんなときこそ、インテルは前述のとおりセンターバックがスルスルと駆け上がり、いつのまにかゴールに近い位置でプレイしている。インテルは、センターバックとウイングバックの信頼関係と連係で数的優位を生み出すのだ。

 だが、数的優位をつくれたとしても、まだリヴァプールには届かないかもしれない。やはり決定打が欲しい。違いを生み出さなければいけないのだ。

 そこでニコロ・バレッラの名前を挙げたいところだが、こちらはグループステージ最終節で報復行為により退場となったため、少なくともファーストレグはピッチに立てない。1月末の倫理委員会の決定次第ではセカンドレグも出場停止になる可能性があると言われているところだ。バレッラの豊富な運動量とプレイ強度、そして右サイドからの鋭く正確なクロスは、リヴァプールのような強敵が相手のときほど威力を発揮しそうなだけに、セカンドレグに出られるかどうかは一つの重要なポイントだ。

 インテルの2トップは、コンディションに問題がなければラウタロ・マルティネスはほぼ確定。あと1人を誰にするかで、インザーギ監督の狙いがある程度みえてくる。グループステージではエディン・ジェコが全試合先発しているが、「パワー対パワー」の構図になるフィルジル・ファン・ダイクを相手に主導権を握る姿は想像しにくい。全体を押し上げる意味での起用もあり得るが、アレクシス・サンチェスも12月からメキメキと調子を上げており面白い選択肢。ホアキン・コレアのドリブルも捨てがたいところだ。インテルは、誰をジョーカーとして途中起用するのかも考慮した上で前線の並びを選択するだろう。

 いずれにしても、地力で劣るインテルは、局地的に勝つことが絶対条件。どこかで勝ちきって、あとは数で巨大な矛を造り、なぎ倒すように押し切る形が理想だ。

名工クロップの槍はイタリア最強の矛にも勝る

今季も絶好調のサラーはここまで公式戦26試合で23ゴールを挙げている。第2節ポルト戦の2得点などGS3試合連続得点を記録 photo/Getty Images

 リヴァプールは、狙い通りの展開にできれば、大きな問題はないというスタンスではないだろうか。インテルの[3-5-2]に比べて可変的ではなく、2015年からチームを率いるユルゲン・クロップ監督の[4-3-3]は成熟しきっており、メンバーも充実。穴は見当たらない。

 リヴァプール最大の特長は、やはりカウンターのキレと精度。それを象徴するモハメド・サラーは、現世界最強プレイヤーといっても過言ではない。サディオ・マネ、ディオゴ・ジョタ、ロベルト・フィルミーノと、ほかの前線もハイレベルだ。インテルはウイングバックを含め、スピード面でリヴァプール攻撃陣に食らいつくのは難しい。リヴァプールの速攻は“矛”というよりも鋭く貫く“槍”と表現すべきかもしれない。名工クロップがつくった槍は、インテルの守備に最も有効な武器だ。

 ハイプレスからの速攻が最大の武器であるリヴァプールは、高い位置でハメてしまえば、ゴールを決めてくれる選手がいる。いつもと変わらない。となれば、「どこで取るか」がテーマ。狙いは[3-5-2]のセンターバックの脇、と言いたいところだが、インテルの中盤の底であるマルセロ・ブロゾビッチを潰しにかかるのではないだろうか。それが最も効果的だ。

 ブロゾビッチはインテルの攻守の要であり、セリエAでの活躍ぶりは素晴らしいものがある。攻撃の起点としてボールを失うことがなく、確実に味方に届けてくれるからこそ、周囲は安心して上がることができる。それほど信頼の厚い存在だ。

 ただ、それはあくまでセリエAでの話。リヴァプールほど洗練されたハイプレスを繰り出す相手はいない。攻守の要を潰してしまえば、瓦解するのは間違いない。リヴァプールの望むように戦うことができる。

 実際には、ブロゾビッチのところで取り切れなくとも、ここでインテルが圧力を感じれば十分。インテルのインサイドハーフがブロゾビッチのサポートに入る形にできれば、それだけで守備はだいぶ楽になる。

 インテルと同じミラノを拠点とするミランは、グループステージでリヴァプールと同じ組だった。第1節の立ち上がりはまさに一方的なリヴァプールペースで、3-2という結果以上の大きな差を感じる展開だった。ミランのダビデ・カラブリアは試合後、「セリエAで対戦する相手とは別次元のスピードだった」と振り返ったほどである。

 いくら映像でスカウティングをしているとはいえ、おそらくインテルもそのプレイスピードの違いに立ち上がりは戸惑いが生じるはず。その時間帯を耐えて、前に出る精神的な強さを見せることができれば、リヴァプール相手でもチャンスはあるのではないだろうか。

 システムにとらわれない自由度の高いサッカーで波乱を狙うインテルと、ハイプレス型の[4-3-3]を突き詰めたリヴァプール。とはいえ地力の差を考えれば、リヴァプールがラウンド8進出を果たす可能性は高い。


文/伊藤 敬佑

※電子マガジンtheWORLD265号、1月15日配信の記事より転載

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