昨季からシント・トロイデンに加入したDF橋岡大樹は、ベルギーで世界に照準を合わせ戦うサムライのひとりだ。早くも監督の信頼を掴んだ22歳の強みは、抜群の対人能力と空中戦。この「個の力」を磨き抜くことで、さらに橋岡はチームに欠かせない存在となっていく。「目標は、チャンピオンズリーグで優勝すること」そう語る橋岡の、リアルな声をお届けしよう。
観客が多ければ多いほど闘志は燃え上がる
橋岡大樹(22) 1999年5月17日生まれ。埼玉県出身。184cm。ポジションはSB、WBをこなす。浦和レッズのアカデミーで育ち、リーグデビューとなった年は25試合に出場。2020年シーズンまで、ほぼレギュラーとして出場を重ねると、2021年1月にベルギーのシント・トロイデンへの期限付き移籍が発表され、同年末には完全移籍を勝ち取った photo/Getty Images
-昨年からベルギーでプレイするようになりました。欧州での生活には慣れましたか。普段はどのようなルーティンで練習や生活をされているのですか。
「ベルギーでの生活自体には、慣れてきた感じがありますね。一人でいろんなことができるようになりましたし。あんまり困ることはないです。午前練のときは、朝来て、みんなで一緒に朝食を食べるんです。練習が終わったら、午後は基本的にずっと家にいますね。家で動画を観たり、映画を観たりしています(笑)。英語の勉強をしたりも。映画も耳を慣らすために、字幕で観るようにはしていますね。ちょっとでも勉強になっていればいいんですけど」
-ベルギーは多言語で知られていますが、普段、監督や他の選手とコミュニケーションをとるときは何語を使いますか。現地語には慣れましたか。
「チームでもみんな英語ですね。いろんな国の人たちがいるんですけど、チームメイトもみんなわかりやすい英語を使ってくれることが多いです。アメリカ人のクリス(・ダーキン)なんかは結構早い英語で喋るので、聞き取るのが難しかったりするんですけど、欧州出身で英語が第二言語の選手の英語はわかりやすいですね。オランダ語はマジでわからないですが(笑)。英語に慣れると他の言語もわかってくるようなところがあると思うので、まずは英語を覚えた方がいいなと思うし、英語を覚えるのも楽しくやれています。チームメイトとも積極的に話すようにしています」
-ちなみに海外で生活していて「これがあったらいいのに」と思うものはありますか。
「余談になりますけど、心から思うのは“温泉”です!スーパー銭湯1つ作ったら儲かるのに!と思ったりします(笑)。日本人がめっちゃたくさん働けるのは、ちゃんと湯船に浸かって疲労をとるという文化があるからだとも言われているらしいですよ」
-日頃のトレーニングについて。浦和(日本)とやり方が違うなと感じる部分はありますか。
「 “上手さ”で言ったら、正直日本にも上手い選手はたくさんいると思います。インテンシティの部分などでは、ベルギーの方が強度が高いと感じます。サッカーをプレイするなかで、休む時間が少ないですね。リズムが落ち着く時間が少ないです。前に出て行って、すぐに戻って守備することが求められたり、そういう個で頑張る部分はけっこうキツイし日本とは違うと思います」
-トレーニングでホラーバッハ監督に求められるのは、どういった点ですか。監督はトレーニングでどういった点を重視していますか。
「まず守備からしっかりやってくれ、ということは当然求められます。自分としても守備がストロングポイントだし、そこを監督も評価してくれているのかなと感じますね。あとは攻撃の部分でもっともっとダイナミックに絡んでいきたい。監督が求めているものだけじゃなくそこにプラスで、自分で考えてアクションを起こさないといけないと思っています。なのでしっかり守備をやりつつも攻撃にいけるときは積極的にいって、アシストなりゴールなりに絡んでいきたいと思っていますね。こないだもシュートが相手に当たってしまったんです。けっこういいコースに蹴れたと思ったんですけどね」
-監督は普段、トレーニングではどんなことを言いますか。
「 走ることだったり、球際の強さのところは常々かなり強く言っていて、重視していると思いますね。あとは、切り替えの早さの部分です」
-ベルギーのファンについても聞かせてください。浦和のファンも熱狂的なことで知られていますが、ベルギーリーグのサポーターはどんな感じですか。また、やりにくいと思ったスタジアム(チーム)はありますか。
「 シント・トロイデンの街は小さいですし、そのなかでたまに声をかけてくれるサポーターの方がいたりします。気軽に声をかけてくれるサポーターが好きなので、そういうところはいいなと思いますね。人数も多いわけではないと思いますが、いつもありがたいなと思っています」
「 アウェイでやりにくかったのは、スタンダール・リエージュですね。スタンダールはファンがものすごく熱くて、スタジアムも良い雰囲気になっていたので、そのなかでやるのは骨が折れました。ホーム/アウェイに関わらず、観客が多いだけ燃えるタイプなんで、スタンダールのスタジアムはすごく印象に残っています。嫌だったわけではないです。逆にああいう雰囲気、めちゃくちゃ好きです」
空中戦には手応え 1対1に課題は見えている
ベルギーでは1 対1で対峙する局面が多い。その厳しさが橋岡をさらに成長させる photo/Getty Images
-ベルギーでプレイして苦戦した点、逆に「いける」と手応えを感じた点を具体的に教えてください。
「 例えばサイドでの1対1で、日本だと取り切ることができるんですけど、こっちだと大変です。抜かれはしなくても、クリアするだけになってしまったり。それこそクロスを上げられそうになったときに、たまに股を通されてしまったり。そういう点はもっと改善しないといけないなと思いますね。対人守備などは、自分のなかでも通
用していると思うんですよ。あとはヘディングの競り合いなどでも、自分はけっこう強い方だと思います」
-空中戦勝利数が原大智選手に次ぐチーム2位となっているようです。エアバトルを行う際に意識していることはありますか。
「逆にチーム2位っていうのは悔しいな。まあ大智の方が競っている回数も多いですよね。俺が全部競ったら、絶対に俺が1位になりますから(笑)。まあ自分はサイドですからね。回数が同じだったら、絶対に大智にも勝てるという、それくらいの自信はあります。意識していることは、空中で止まって一番高いところでヘディングすること。それはもう、中学校くらいからずっと練習しているので」
-ベルギーリーグとJリーグ。大きく違うと思う点はどんなところですか。
「さっきも言ったように試合のなかでも落ち着く時間があまりないですし、サイドは特に行ったり来たり、攻撃参加してもボールを取られたらすぐ守備をしないといけないだとか、そういう体力面、インテンシティの高さなどの点は違うと思います。それこそ、サイドには相手にもかなり強くて、速いドリブラーの選手がいたりします。日本にも良い選手はいますけど、“強い”“速い”“上手い”3拍子揃った選手はなかなかいないなという実感はあります」
-具体的に、対応に苦労した選手は。
「オイペンの11番(コナン・エンドリ)。ものすごく速くて。彼は一番イヤだったかもしれないですね」
-例えば守備のやり方もベルギーとJリーグでは違いますか。
「それは、だいぶ違うかもしれない。日本では味方との距離感が近くて、2対1で守ることもあるし、誰かがどっちか(の方向)を切ってコースを誘導してくれて、守備がやりやすいことも多かったです。ベルギーでは本当にスペースが多くあるので、そのなかでの1対1、ホントの1対1みたいな局面が多いんですよね」
-とりあえず個の部分、1対1に勝てるようにならないといけない。
「そうですね。そういう意味では本当に自分も1対1が磨けると思うし、ものすごく自分のなかでは良い環境にいるなと感じます」
-WB、SBの両方でプレイすることがあると思います。どういった違いを意識していますか。
「SBだといつも前に選手がいるので、その選手に当ててオーバーラップをしたりクロスまでもっていくことが多いです。WBだとけっこう高い位置を取ることが多く、もらってから自分で仕掛ける局面が多いですよね。そういう意味では、自分としてはSBの方がやりやすさはあります。でも、ずっとWBでもやってきていますからね」
-欧州に来て、改善できたなと思う点は。
「自信をもってプレイできている点ですね。パッと判断できるところなどは、日本にいるときよりも自分のなかで上がっているなと思います。あとはクロスの質なども、絶対に日本にいるときよりも良いボールが蹴れていると思います」
代表にも呼ばれたいし、いずれはCLで優勝したい
東京五輪のメンバーにも招集された橋岡。今後のA代表招集にも期待が高まる photo/Getty Images
-昨年は日本代表にも招集されています。試合に出ることはありませんでしたが、一方で代表チームそのものも、なかなか結果が出ない苦しい時期でした。複雑な思いがあったと思いますが、どのような気持ちで試合を見ていましたか。
「いや、やっぱり日本代表で出たいなというのはありますよね。それこそ久保建英みたいに、自分と同年代や自分よりも下の世代でも試合に出ているのを見ると、刺激を受けます。もっともっと、頑張らなきゃいけないなと思いましたね。シント・トロイデンでアシストやゴールなど目に見える結果を出すのも大事ですけど、やっぱりステップアップっていうのも大事なのかなと思います。5大リーグのどこかでプレイして、そこでも俺はできるんだぞというのを見せて、今後も代表にコンスタントに選ばれるようになりたいですね」
-今後挑戦したいリーグがあれば教えてください。
「 ドイツ、イタリア、イングランドには挑戦したいなと思います。ドイツに関しては、日本人サイドバックも多くプレイしていますが、サッカー的に、ちょっと日本と似ているのかなという部分もあるし。そういった意味ではドイツに挑戦してみたいというのはあります。イタリアも守備がしっかりしている国だし、もっともっと自分の守備も成長できると思います。あとはプレミア。自分もものすごく憧れていますし、世界最高のリーグはプレミアだと思っているので」
-ロールモデルとしている選手はいますか。
「酒井宏樹選手のことは映像でもよく観ますし、やっぱりすごい選手だと思っています。ああいうダイナミックさ。守備もしっかりやって、攻撃の部分でも出ていくところは出ていく。そのタイミングもすごく上手いですし、お手本にしたいですね」
「 でも、結局自分は自分です。僕は酒井宏樹ではなく、橋岡大樹以外の何者でもありません。自分ができるプレイをもっともっと探しつつ、ストロングポイントを伸ばしてやっていけば、もっと上に行けると思うし、自分を目標にしてくれる選手が現れればいいなと思います」
-現在の目標を教えてください。
「 僕は目標を、近い目標と最終的な大きい目標に分けて立てているんです。近い目標としては、例えばステップアップすること。大きな目標としては、UEFAチャンピオンズリーグに出られるチームへ行って、優勝することです。大きな目標ばかり立てていても今の自分とはギャップがあるので、うまくいかないかもしれない。だから大きな目標を掲げつつ、ひとつずつ小さな目標をクリアしていくんです。ずっと前から、そういう考え方を実践しています」
構成/前田 亮
※電子マガジンtheWORLD267号、3月15日配信の記事より転載