ついにW杯本戦でスペイン代表と当たることになった。EURO2008、2010南アフリカW杯、EURO2012と国際大会で圧倒的なスキルを見せつけ、タイトルを獲得してきた「ラ・ロハ」。クラブレベルの戦術をナショナルチームで実践できる数少ないチームの1つであり、日本代表が目指すべきロールモデルでもある。当然ながら所属するのは4大リーグのスター選手ばかりであり、実力が一枚も二枚も上手であることに異論を挟むものはいないだろう。我らが日本代表は、この欧州屈指の美麗サッカーを駆使するチームに、どのように挑むべきだろうか。
世代交代進むスペイン 流動的なサッカーで再び頂点目指す
先日の親善試合アルバニア戦もフェラン・トーレス、ダニ・オルモのゴールで勝利。W杯に向けて着々とチームの形が出来上がりつつある photo/Getty Images
2018ロシアW杯では直前の監督交代も響き、ベスト16。昨年のEURO2020ではベスト4と、近年のスペイン代表は黄金期ほどの力を見せられていない。しかし、そこからさらに世代交代も進んだ。かつてレアル・マドリード、バルセロナの2強を渡り歩いた指揮官ルイス・エンリケはスペインのサッカーを知り尽くした人物であり、スペイン代表は再び上昇気流に乗って、世界の覇権を目指しているところである。
スペインには確固たるアイデンティティがあり、積極的にボールを動かし、攻撃的なサッカーを展開するところは変わっていない。最終ラインから前線に素早く預ける展開力と視野を持ったCBパウ・トーレスやアイメリック・ラポルト。まるでウインガーのような攻撃センスを見せるSBジョルディ・アルバやホセ・ガヤ。前線の柔軟な動きに対応できるFWダニ・オルモ、フェラン・トーレスなどスペインらしいサッカーを展開できる人材は豊富に揃っており、1人や2人が怪我などで離脱したとしても大した戦力ダウンにはならないだろう。
特に中盤は強烈だ。黄金期を知るベテランのセルヒオ・ブスケッツ、もしくはマンチェスター・シティで舵取り役を務めるロドリがアンカーに構え、2枚のインサイドハーフはコケ、カルロス・ソレール、ミケル・メリーノ、さらにはバルセロナで珠玉の輝きを放ちはじめたペドリやガビといった超新星たちが名を連ねる。ブスケッツ、ペドリ、ガビという構成になれば中盤はバルセロナそのものであり、彼らが慣れ親しんだ[4-3-3]でプレイすれば連携面には一抹の不安もない。
また、サイドアタッカーに誰を配置するのか読めないところも恐ろしい。エンリケ監督は就任以降さまざまな形を試しており、EURO2020スイス戦(△1-1)ではフェラン・トーレスとパブロ・サラビア、同じくイタリア戦(△1-1)ではオルモをゼロトップに置く形で両脇にフェラン・トーレスとオヤルサバル、欧州予選ギリシャ戦(○1-0)ではパブロ・サラビアとラウール・デ・トマス、コソボ戦(○2-0)ではアルバロ・モラタをトップに張らせ、サイドをフェラン・トーレスとパブロ・フォルナルスが務めている。負傷離脱していたバルセロナのアンス・ファティもメンバーに入ってくるはずだ。誰が出てもクオリティが高いのはもちろん、キャラクターの違いにも対応しなければならないのは厄介きわまりない。
欧州予選では初戦のギリシャ戦(△1-1)など得点を奪うのに苦労し勝ちきれなかった試合もあり、かつてのフェルナンド・トーレスやダビド・ビジャのような絶対的なストライカーの不在は弱点にも見える。しかし今のスペインが志向するのは、明確なストライカーに点を取らせるサッカーではなく、前線が流動的に動くなかでチャンスになった選手が点を取るサッカーだ。すなわち誰がフィニッシャーになってもよく、予選ではトーレスの4得点を筆頭に9名の選手が得点を記録した。先日のフレンドリーマッチ・アイスランド戦でも5ゴールを叩き出したように、ハマったときの破壊力は凄まじい。
意外なもろさ見せる最終ライン 後方には広大なスペースが
円熟のベテラン、ブスケッツは代表でもパスの捌き役となる。彼を抑えない限り日本代表に勝ちはない photo/Getty Images
日本代表としてはまったくもって頭が痛いが、特に配球力に優れるブスケッツのところを潰せるかどうかは1つのポイントになろう。彼に自由を与えてしまえばペドリらとの連携、前線のオルモやトーレスに一気につなぐパスなど、いくらでも打開の方法を持っている。逆にブスケッツを抑えることで中盤3枚の連動性の制限に繋がり、ボールを奪うことができれば一気にチャンスとなる。ブスケッツにはマンマークをつけるなどの対応が望ましい。
弱点は、ボールを保持するがゆえ後方に大きなスペースが生まれることだ。これはスタイル上仕方のないことだが、日本としてはここを足がかりに攻略の糸口を見つけたい。
参考になりそうな試合が2つある。1つは今回の欧州予選、9月に行われたスウェーデン戦だ。この試合でスペインは開始早々に1点を先行するも、アレクサンデル・イサクの得点ですぐに追いつかれ、ヴィクトル・クラエソンの逆転弾を浴びて1-2と敗れた。
この試合、スウェーデンのボールポゼッションは25%と、ほぼスペインにボールを持たれていた展開だった。しかし最終ラインのスペースを素早くロングボールで突くことで守備陣を混乱させ、結果的に2点を奪っている。ここに勝機がある。
スペインのDF陣を見るとパウ・トーレスのスピードは脅威だが、アイメリック・ラポルトやエリック・ガルシアはどちらかといえば組み立てで力を発揮するタイプで、単純なアスリート能力では十分に対抗できる。CBにベストコンディションのセルヒオ・ラモスがいればまた話は違うのかもしれないが、現状その可能性は低いとみていい。
現状のスペインは強みであるはずのビルドアップの面でも、やや怪しいシーンが散見される。基本的に押し込まれた状態からでも果敢にビルドアップし、大きくクリアすることなくボールを繋ごうとしてくるのだが、スウェーデン戦では繋ぎのミスを素早く奪われ、イサクやエミル・フォルスベリに大きなチャンスを与えていた。DF陣にも配球に優れた選手が多いとはいえ、やはりクラブレベルでビルドアップを構築するのとは勝手が違うのだろう。スウェーデン戦の2失点はどちらもこうした形から喫しており、日本にとってつけ入る隙となるはずだ。
もう1つ参考にしたいのは、記憶している人も多いであろう、2012年のロンドン五輪での日本戦である。大番狂わせとなったこの試合でも、スペインは65%のボールポゼッションを記録。しかし日本は積極的なハイプレスを仕掛け、スペインにペースを握らせなかった。ボールを奪えば永井謙佑がそのスピードを生かして裏抜けを狙い、ゴールを脅かしていく。得点自体はコーナーキックからのものであったし、イニゴ・マルティネスの退場など幸運もあったが、日本のハイプレスによりスペインは混乱をきたしており、力を出させなかったことが勝利へと繋がっている。ちなみにこのとき日本のゴールマウスを守っていたのは、現・正守護神の権田修一であり、キャプテンの吉田麻也もOA枠として出場。スペインを下した試合後の会見では「僕らからすれば(勝利は)必然」と頼もしいコメントを残している。当時の経験のある選手たちにも期待したいところだ。
こうして見るとやはり鍵は、前線、中盤での積極的かつ組織的なプレスで、スペインにゲームを作らせないこと。そして、ショートカウンターはもちろん、ロングフィードで裏スペースを狙う、手数をかけない攻撃が対スペインには有効となるだろう。
さらに、スペインとの対戦が3戦目であることも、日本にとっては有利に働く可能性がある。スペインの2戦目はドイツとの直接対決となっており、ここに全精力を傾けてくるはずだ。優勝を狙うスペインは、タイトなスケジュールのなか、必然的に3戦目で主力を休ませることが予想され、1,2戦目でベンチを温めていた選手たちがいきなり大舞台で躍動するかはわからない。もちろん日本もスケジュールが厳しいのは同じなのだが、優勝候補に勝つためには、どんな小さな隙も利用するしたたかさが必要。それを実現できる選手たちが、日本には揃っている。
文/前田 亮
※電子マガジンtheWORLD268号、4月15日配信の記事より転載