フランクフルトが勝てば1979-80シーズン以来、42年ぶりの優勝となる。一方、レンジャーズが勝てばクラブ史上初の欧州を舞台にした大会での優勝。当然、サポーターも含めてこのタイトルにかける思いは強い。また、メガクラブ同士の対戦ではないこともあって、この試合はお互いに「自分たちが勝てる。勝つチャンスだ」と考えていることだろう。加えて、どちらも縦に早いカウンターを持っており、好守の切り替えが早い。さまざまな共通項を持ったチーム同士の対決であるがゆえに、今季のEL決勝は例年以上に熱い戦いが繰り広げられることとなりそうだ。はたして、そんな対決を左右するポイントはどこにあるのか。
大舞台でこそベテランの力が必要 決勝では長谷部にも出番が?
両チームの攻撃のキーマンとなることが予想されるフランクフルトの鎌田(左)とレンジャーズのタヴェルニエ(右) photo/Getty Images
フランクフルトは就任1年目のオリバー・グラスナー監督のもと、シーズン当初の数試合は4バックをベースにしていたが、ほどなくして3バックに変更。[3-4-2-1]、[3-4-3]、[3-5-2]などで今シーズンを戦ってきた。とはいえ、これは新しい挑戦だったわけではなく、戦い慣れた従来のカタチに戻したもの。グラスナー監督によって4バックが試されたが、良い結果は得られなかったのだ。フランクフルトが力を発揮するのは3バックであり、EL決勝でもここは崩さないだろう。
DFラインというかチーム全体に安定感を与えるリベロは、これまでブンデスリーガでもELでもマルティン・ヒンターエッガーが務めてきた。ところが、ウェストハムとの準決勝2ndレグで右足太ももを痛めて負傷交代。早期復帰は不可能で、チームメイトよりも少し早くすでに今シーズンを終えている。
EL決勝で誰がこのポジションを務めるか要注目だ。ウェストハム戦ではマルアミ・トゥレが投入され、右CBだったトゥタが中央に入った。最終ラインは左からエヴァン・エンディカ、トゥタ、トゥレで、これがまずは候補となる。無論、長谷部誠もいる。ブンデスリーガ第32節レヴァークーゼン戦、第33節ボルシアMG戦は長谷部がリベロを務めている。左からエンディカ、長谷部、トゥタの並びだ。
さて、[ 4-2-3-1]や[4-3-3]をベースとするレンジャーズの前線はスピード、アジリティ、パワーがある。4月上旬に太ももを痛めたコロンビア代表のアルフェド・モレロスは欠場となるが、「個」の力で突破できるファッション・サカラやジョー・アリボ、同じく突破力&強烈なミドルシュートがあるケマル・ルーフェなど、個性的かつ身体能力の高い選手がいる。
この相手に対して、グラスナー監督がどういった選択をするか。スピード、アジリティなどを考えると長谷部では不安があるかもしれないが、そこはポジショニング、駆け引きで勝負できる。むしろ、重要な一戦でこそこれまで積み重ねてきた経験が生きる。5月18日、EL決勝の舞台に立ったフランクフルトのリベロは、長谷部が務めるのではないだろうか。
両軍ともに連動性と積極性は抜群 レンジャーズの超攻撃的SBは危険だ
フランクフルトの中盤~前線は、2人の守備的MF、左右のワイドなポジションに2人、シャドーストライカーが2人、そして1トップとなる。守備的MFを務めるジブリル・ソウ、クリスティアン・ヤキッチ、セバスティアン・ローデはいずれも働き者で、常に足を動かして攻撃ではチャンスに顔を出し、守備ではピンチの芽を摘む。決勝ではソウ、ローデの組み合わせが予想されるが、両名ともに前方にボールを運ぶ力があり、それでいて阿吽の呼吸が取れているのでお互いの距離間がいい。
また、右ならCBトゥタ、守備的MFソウ、アウトサイドのアンスガー・クナウフ。左ならCBエンディカ、守備的MFローデ、アウトサイドのフィリップ・コスティッチ。これらの選手が連動し、誰かがボールにチャレンジすれば誰かがサポートにいく。チームはこうした連動の集合体なわけだが、とくにELでのフランクフルトは意思の疎通が取れていて、各選手の動きに迷いがない。失うものがない強さは、準々決勝でバルセロナをも呑み込んだ。攻撃において「狙えるときは狙う」という積極性がなければ、バルセロナとの1stレグでのクナウフの強烈なミドルシュートも生まれていなかったはずである。
左サイドでは鎌田大地とコスティッチの連携がいい。鎌田の動きは神出鬼没で、後方へ下がったり、中央や右サイドに顔を出したりする。空いたスペースを使うのがコスティッチで、準々決勝のバルセロナ戦では鎌田のラストパスをコスティッチが決めたシーンもあった。
ただ、こうした連動性、積極性はジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト監督が率いるレンジャーズにもある。スティーブン・デイビス、グレン・カマラ、ライアン・ジャック、ジュン・ランドストラム。中盤を構成するのは闘える選手ばかりで、しっかりとボールを追いかけることができる。フランクフルトもレンジャーズも真ん中は強固で、ここの攻防は熱く、激しいものとなる。どちらが主導権を取るかというよりも、どちらも主導権は取れないのではないだろうか。結果として、目まぐるしくボールを奪い合う攻守の入れ替わりが早い展開になる。
真ん中がダメならサイドになるが、レンジャーズの最終ライン右サイドにはジェームズ・タヴェルニエがいる。スコティッシュ・プレミアリーグで9得点(14アシスト)。ELで7得点(2アシスト)。とてもSBが残している数字とは思えない。レンジャーズのキャプテンであるタヴェルニエが攻撃参加したときに、なにかが起こる可能性がある。
フランクフルトで対峙するポジションにいるのは、コスティッチやエンディカになる。また、同サイドのシャドーで出場した選手もタヴェルニエに付いていかなければならないが、おそらく鎌田大地になる。どちらも主導権を握れない展開になると書いたが、このタヴェルニエのところがポイントになるかもしれない。コスティッチや鎌田が守備に足を使い過ぎると、時間の経過とともにチームにとってダメージとなってくる。フランクフルトは効率よくタヴェルニエを試合から消したい。逆に、レンジャーズはタヴェルニエを普段どおりにプレイさせたいところだ。
とはいえ、レンジャーズは4バック、3バックを使い分けることができ、タヴェルニエを中盤にあげた[3-4-2-1]のカタチになることもあり、試合中に可変することもある(図1)。フランクフルトはこうした動きに惑わされず、冷静に対処することが必要となる。
フランクフルトの前線は阿吽の呼吸 鎌田を中心とした打開力に刮目せよ
ウェストハムとの準決勝2ndレグ、ボレはフランクフルトのファイナル進出を決定づけるゴールを冷静に決めた photo/Getty Images
1トップにラファエル・サントス・ボレ。シャドーに鎌田大地とイェンス・ペッター・ハウゲ。また、ゴンサロ・パシエンシアもいる。フランクフルトの前線は、この4選手を1トップ+2シャドーに組み合わせるのが基本となる。本来、イェスパー・リンドストロームもいるが、ハムストリングを痛めていて復帰時期は不明だ。ボレはゴール前でのポジショニングがよく、ラストパスを出す味方の動き、DFの動きをしっかりと見極め、瞬間的な判断と動きでフリーとなり、正確なフィニッシュでゴールにつなげる。
ウェストハムとの準決勝2ndレグで退場者を出した相手に引導を渡したのがボレで、右サイドからボールが入ってくる瞬間にゴール前で動きのリズムを変え、相手DFから離れてフリーでフィニッシュしている。天性のストライカーであり、レンジャーズのコナー・ゴールドソン、レオン・バログンといった経験豊富なCBとの駆け引きもひとつの見どころになる。
鎌田、ハウゲ、ボレはお互いの距離が離れていても問題ない。ロングパス1本でチャンスを作れるのもフランクフルトの持ち味で、パスの出し手と受け手の呼吸があっていて、準決勝のウェストハム戦でも鎌田の縦パスが相手の退場につながったシーンがあった。レンジャーズが押し込み、フランクフルトが劣勢……。そんな時間帯こそ、フランクフルトにゴールチャンスが生まれるかもしれない。
とはいえ、これに関してもお互いさまで、レンジャーズにも鋭いカウンターがある。繰り返しになるが、レンジャーズの前線には「個」の能力が高い選手が揃っている。昨季のELグループステージ第1節スタンダール・リエージュ戦でのこと。自陣でボールを奪ったルーフェが3人の相手を翻ろうして約50メートルのロングシュートを放つと、前方に飛び出していたGKの頭上を越えてゴールとなった。こちらも、自陣からアッという間にチャンスを作り出す力がある。この一戦は、決して目を離してはいけないということだ。
こうして両チームをみていけばいくほど、有利不利がわからなくなってくる。フランクフルトは準々決勝でバルセロナを下し、チーム全体に勢いと自信が漲っている。レンジャーズは勝ち上がる過程でドルトムント、ライプツィヒのブンデスリーガ勢を破ってきている。やはり、どちらが勝ってもおかしくない。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)269号、5月15日配信の記事より転載