フランクフルト攻撃陣の中心 “和製ハフェルツ”が臨む大舞台
今季もフランクフルトを力強く牽引している鎌田。トリッキーなドリブルやパス、神出鬼没なポジショニングを武器にEL決勝の舞台でも違いを作ることに期待がかかる photo/Getty Images
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過去、EL(UEFAカップ)決勝のピッチに立ち、優勝カップを掲げたことがある日本人選手はひとりしかいない。2001-02の小野伸二で、フェイエノールトの主力としてドルトムントとのファイナルに先発出場し、3-2の勝利に貢献している。2017-18のマルセイユ×アトレティコ・マドリードでは酒井宏樹(マルセイユ)がいたが、ベンチにいたものの決勝の舞台に立つことはなかった。攻撃をリードするチームの主力という共通点がある鎌田大地には、小野以来となる偉業達成が期待されている。
フランクフルトの攻撃は前方への推進力に溢れ、チーム内でスイッチが入ると少ない人数で縦に早い展開をみせる。鎌田は長い距離を自分で運ぶことができるし、ミドルレンジ、ロングレンジのパスも正確。自陣に戻って献身的にボールを追いかけているシーンから、1本のパスでチャンスを生むことも。実際、ウェストハムとの準決勝2ndレグでは、相手が退場者を出すプレイにつながった試合に大きな影響を与えるロングパスがあった。
左サイドのシャドーを任されることが多く、同サイドのワイドなポジションでプレイするフィリップ・コスティッチと息の合った連携をみせる。鎌田が中央や右サイドに寄ってスペースが生まれると、そこにコスティッチが入ってくる。お互いに動きが手に取るようにわかるようで、バルセロナとの準々決勝2ndレグでは鎌田が高い位置でボールを持つと、左サイドからコスティッチが攻撃参加。ここに鎌田がやさしいラストパスを出し、敵地で3-0とリードを広げるゴールを奪っている(その後に2点を返されて試合は3-2で終了)。
鎌田と同じく前線でプレイするラファエル・サントス・ボレも守備をさぼらないタイプで、よい守備でボールを奪い、そのままの勢いで攻撃を仕掛けるのがフランクフルトのひとつの得点パターンになっている。こうしたチームのなかで、運動量が多く、ポジショニングがいい鎌田は攻撃ではもちろん、守備でもゴールにつながる役割を担っている。和製カイ・ハフェルツといっていいかもしれない。
パスもドリブルもフィニッシュも 鎌田が備える多彩すぎる武器
チャンスメイクだけでなく、自ら得点を決めることもできる鎌田。第19節のアウクスブルク戦では、果敢な飛び出しから技ありのゴールを決めてみせた photo/Getty Images
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ブンデスリーガで4得点(3アシスト)、ELで5得点(1アシスト)。これが今シーズンの鎌田の成績で、フィニッシュの能力も高い。むしろ、得点力こそ持ち味で、2018-19シーズンにはローン先のシント・トロイデンで二桁得点し、結果を残してフランクフルトに戻ってきた経緯がある。前線でプレイするボレやゴンサロ・パシエンシアに効果的なパスを出すシーンが目立つが、自分で仕掛けてゴールする力もある。
そのドリブルは日本人選手としては珍しいタイプで、相手の動きの裏を突き、長いリーチを生かしてスルスルとボールを運んでいく。加えて、俊敏性やキレもある。EL決勝で戦うレンジャーズの最終ラインには経験豊富な選手がいるが、鎌田はドリブルで駆け引きができる。それだけに、前を向き、スピードに乗ったドリブルを仕掛けるシーンを数多く作りたい。細かいパスワークでビルドアップするよりも、こうした「個」の力で状況を打開するのがフランクフルトでもある。
さらには、鎌田は視野が広くパスセンスがあるのも強みだ。サイドからゴール前にクロスを出すかと思えば、ダイアゴナルに動いたチームメイトを見逃さず、意表を突いたスルーパスを出す。ゴールに背中を向けた状態でボールを受けた瞬間、後方からマークにきていた相手DFの逆を突く動きで素早く身体をゴールに向け、なおかつ同時に前線の味方、敵のポジションを読み取り、正確なラストパスを出す。
こうした能力を持つことがチーム内に浸透しており、鎌田にボールが渡るときには動き出している選手が多い。ボレ、パシエンシア、コスティッチ……。EL決勝ではこのあたりの選手との連携が楽しめそうである。そして、シーズン終盤になって調子を上げている鎌田自身が優勝に貢献するゴールを奪ってもなんの驚きもない。会場となるセビリアの夜空に向けて、高々とカップを掲げる鎌田の姿をみられるかもしれない。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)269号、5月15日配信の記事より転載