思えば、マンチェスター・シティが44年ぶり3度目のプレミアリーグ制覇を達成した2011-12シーズンの最終節も劇的だった。QPRを相手に1-2の劣勢で終盤を迎えていたが、92分に交代出場のエディン・ジェコが同点弾、94分にセルヒオ・アグエロが決勝点を決め、マンチェスター・ユナイテッドと同勝点となり、得失点差で優勝を決めている。最終節のエティハド・スタジアムは、なにかが起こるのである。
2021-22シーズンはマンCとリヴァプールによる激しい優勝争いとなったが、最終節を1位で迎えたマンCは勝てば優勝という状況だった。しかし、アストン・ヴィラを相手に前半のうちに失点し、69分にも元リヴァプールのフィリペ・コウチーニョに追加点を許して0-2という絶体絶命を迎えた。ところが、ここでネガティブにならず、さらには慌てることなく冷静に畳みかけることができるのがマンCで、各選手に勝者のメンタルが備わっていた。
流れを変えたのはペップ・グアルディオラ監督から逆転のタスクを命じられて交代出場した選手たちで、76分にラヒーム・スターリング(56分in)からのクロスにイルカイ・ギュンドアン(68分in)が頭で合わせて1点差。78分にはオレクサンドル・ジンチェンコ(46分in)が左サイドを崩し、中央へラストパス。ロドリが右足でフィニッシュし、同点とした。ここまで来るとエティハド・スタジアムはお祭り騒ぎで、多くのサポーターが8年前の再現を期待していたに違いない。それを実現してしまうのがマンCで、81分にケビン・デ・ブライネが右サイドからファーサイドに流すと、ギュンドアンが飛び込んで押し込み、3-2と試合を引っ繰り返してプレミアリーグ連覇を果たしている。
今シーズンなかばにマンCの公式サイトにグアルディオラ監督の「私は以前と少し変わったと思う。いまは選手たちをより理解できている」というコメントが掲載された。選手をいかに起用すると、より能力が発揮され、チームの勝利につながるのか。この選手を理解するという面について、グアルディオラ監督は「シーズンを重ねることでできるようになった」とも語っている。
ベルナルド・シウバのプレイポジションをサイドではなく中央にし、ビルドアップ能力を生かす。B・シウバも生きるし、チームのためにもなる。また、グアルディオラ監督によると昨シーズンは「動き過ぎていた」というロドリも、大型アンカーとして逆に動きを制限することで変貌を遂げてチームの核となった。フェルナンジーニョからロドリへ──。マンCのアンカーは、スムーズに交代が行われたと言っていい。
こうした細かな“整備”の結果、デ・ブライネの前への推進力、ゴールにからむ能力もより生きることとなり、異次元のプレイでチームを牽引した。さらには、最終節のアストン・ヴィラ戦の後半のように、左SBにジンチェンコを起用し、ジョアン・カンセロを右サイドにまわすことで両サイドからの攻撃力を高めるオプションもあった。無論、マンCが持つオプションは多く、前線のワイドなポジションならリヤド・マフレズ、スターリング、フィル・フォーデン、ジャック・グリーリッシュなど選択肢が豊富だった。グリーリッシュは移籍1年目の今シーズンは不本意だったかもしれないが、グアルディオラ監督によってより能力が発揮されるタスクが与えられると予想される。
クラブの至宝であるフォーデンは順調に進化を遂げたシーズンとなった。スキル、アスリート能力、インテリジェンスとすべての分野が伸びており、プレミアリーグの年間若手最優秀選手に選ばれた。彼の強みはウイング、センターフォワード(偽9番)、インサイドハーフと複数のポジションでプレイできることであり、デ・ブライネやB・シウバ、マフレズとどの選手の後継者にもなれる素質を秘めている。
今季目立ったのはデ・ブライネ、フォーデンら前線の破壊力とともに、後方の安定感だ。マンCには4人の各国代表のセンターバックが在籍しており、試合に合わせてグアルディオラ監督が先発を選ぶ。とくに重宝されたのはルベン・ディアスとアイメリック・ラポルトで、昨季からはジョン・ストーンズとラポルトが入れ替わる形となった。序盤はなぜストーンズではなくラポルトなのかと批判の声もあったが、シーズンが進むにつれパフォーマンスが上がり、ウィークポイントとされていた守備面でも改善が見られるように。ビルドアップでの貢献度の高さは健在であり、加えて怪我での離脱がほぼなかった。ディアス、ストーンズ、ネイサン・アケと他の3人は必ずどこかで負傷しており、いつでも起用可能なラポルトの安心感は大きい。
カンセロもラポルトと同様に怪我での離脱が少ない。今季は左SBとして多くの試合で出場するようになり、両SBとしての地位を確立した。アタッキングサードでのチャンスメイクはリーグ屈指で、デ・ブライネがおとなしかった前半戦は攻撃のアイデアの大部分をカンセロに頼っていたほどだ。
今季のマンCはリーグ最多得点(99点)を記録した攻撃陣に注目が集まるが、それは安定感のある守備があってこそ発揮されるもので、後ろが脆ければ100%の力は出せない。ラポルトやカンセロはシーズンを通して守備陣に安定感をもたらしており、2連覇を達成したマンCの強さは守備の改善によるものが大きかった。