[特集/欧州4大リーグ2021-22 #03]イタリアの頂点をミラノの2チームが争った ミランがセリエの盟主に11年ぶりの帰還

 2021-22シーズンのセリエAは、最終節まで優勝の行方が予想できない大激戦となった。最終的にはACミランが昨季王者のインテルを振り切り11シーズンぶり19度目のスクデットを獲得。この名門の復活劇には心を躍らせたカルチョファンも多いはずだ。

 しかし、今季のセリエAにはそのミラノ勢以外にも魅力的なチームが多かった。シーズン開幕前に多くのチームで指揮官の交代が発生したこともあり、イタリアの勢力地図は数年前と比べて大きく変化し始めたと言っていい。では、そんな群雄割拠のリーグで目を見張るシーズンを送ったのはどんなクラブか。優勝したミランの歩みを中心に、混戦模様となった21-22シーズンのセリエAを振り返ってみよう。

11年ぶりに手にしたスクデット ミラン復活の要因は総合力にアリ

11年ぶりに手にしたスクデット ミラン復活の要因は総合力にアリ

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 21-22シーズンのミランは、不安なスタートだった。絶対的守護神だったGKジャンルイジ・ドンナルンマが契約満了でパリ・サンジェルマンへ移籍。昨季まで背番号10を着用していたMFハカン・チャルハノールは、事もあろうに同じ街のライバルであるインテルにフリーで移籍した。

 だが、GK問題についてはすぐに解決した。リールから獲得したマイク・メニャンがすぐにフィット。周囲も驚くスピードでセリエAに馴染み、ドンナルンマの不在は全く話題にならなくなった。

 シーズン序盤のもう一つのサプライズといえば、MFサンドロ・トナーリだ。昨季は期待ほどの活躍を見せられずにいたが、見違えたように成熟し、攻守に存在感を放った。「ガットゥーゾとピルロのミックス」と評されるとおり、気の利いた守備と視野の広い展開力を武器として一気に中心選手になっている。
 そんなシーズン序盤のトナーリに代表されるように、ミランは成長のシーズンだったと言える。戦力面ではインテル、ユヴェントス、ナポリといった上位勢からワンランク落ちるという評価だったが、問題が生じるたびに誰かがヒーローになった。例えば、MFフランク・ケシエの騒動だ。ケシエはオーバーエイジ枠でコートジボワール代表として東京五輪に出場した際、2022年夏までとなっていたミランとの契約を帰国したらすぐに延長するつもりだと話していた。それにもかかわらずシーズンが始まっても動きはなく、多くの噂を巻き起こし、ファンの反発を買った。
それでも前述のトナーリが飛躍を遂げて、昨季に圧倒的な存在だったケシエの低調なパフォーマンスは大きな影響を与えなかった。シーズン後半戦にはイスマエル・ベナセルも一回り成長し、中盤の底が安定を欠くことはなかった。

 加えてDFシモン・ケアーの離脱も大きな危機だったが、シーズンが終わった今、その話題を口にする人は少ない。

 12月1日にひざを負傷したケアーがシーズン絶望となり、ミランは1月のセンターバック補強が必須と言われていた。だが、狙っていたターゲットは獲得できず、そのまま後半戦へ。これはミランにとって大きなギャンブルだったはずだが、若手のピエール・カルルが急成長。これまた若いフィカヨ・トモリとともに、いきいきとした中央の守備を築くことに成功した。

 ミランの週替わりヒーローについて挙げればキリがないが、やはりFWラファエル・レオンに触れないわけにはいかない。彼の成長がなければ、いかにミランがまとまっていたとしても、スクデットには届かなかったはずだ。ポテンシャルに疑いはないものの、球離れが悪かったり、突然インテンシティを失ったり……、以前まではとにかくムラッ気があったレオン。2020年1月に加入してミランを大きく変えた功労者であるズラタン・イブラヒモビッチをもってしても、「オレにはアイツを変えられなかった」と話すほど、良く言えば個性的だった。

 だが、そのイブラヒモビッチが「アイツは開幕前に変わった。完全にだ。自分で何をすべきか答えを見つけ出したんだ」と昨年12月にコメント。ピオリ監督もトナーリとともに夏の間に大きく変わった選手として、その変化を不思議がっていたほどだ。

 闘うことを覚えたレオンは、ミランで数少ない個で違いをつくれる武器になった。左サイドバックのテオ・エルナンデスとの破壊力は、こう着した試合を打開するカギになっている。

 若手に賭けたフロント、育てて自信を植えつけたピオリ監督らコーチングスタッフ、そしてベテラン勢。どのピースを欠いても、ミランの優勝はなかった。元イタリア代表FWアントニオ・カッサーノはシーズン終盤、「ミランが優勝したら2015-16シーズンのレスターほどじゃないとしても、それに近いミラクルだ」と語っていた。それほどの奇跡をミランは起こしたのである。

ミランと死闘を繰り広げたインテル ユヴェントスは後味が悪い4位に

ミランと死闘を繰り広げたインテル ユヴェントスは後味が悪い4位に

今季からインテルの指揮を執ったインザーギ監督。開幕前の下馬評を覆し、最終節までミランと激しい優勝争いを繰り広げた photo/Getty Images

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 ミランと最後まで争ったインテルは失望でシーズンを終えたが、前評判を考えれば上々の1年だったと言える。

 昨季優勝のインテルは、クラブの財政難で開幕前にエースのFWロメル・ルカクとDFアクラフ・ハキミを放出。アントニオ・コンテ監督は去り、ラツィオからシモーネ・インザーギ監督を引き抜いた。ディフェンディングチャンピオンだが、スケールダウンは誰の目にも明らかだった。

 それでも、インザーギはすぐにインテルで結果を残した。特に数的優位をつくって押し込んでいく美しいカルチョはショートカウンターベースのコンテ体制にはなかったスタイルで、ファンも評論家もうならせた。

 悔いが残るのは、欧州との兼ね合いだ。今季のインテルは10年ぶりにチャンピオンズリーグ・グループステージを突破したが、決勝トーナメント1回戦でリヴァプールと対戦。この2戦の前後に突如として勝てない時期が続いたことは、インテル陣営がシーズンを終えたあとで口々に挙げていた改善点だ。

 3位でフィニッシュしたナポリは、優勝争いに絡んでいてもおかしくない内容だった。ルチアーノ・スパレッティ監督を招へいして臨み、セリエAで最もスペクタクルなサッカーとも言われたのがナポリだった。開幕8連勝はシーズン序盤を盛り上げる要素の一つになったことは間違いない。

 その中心になったのが、FWヴィクター・オシムヘンだ。驚異のフィジカルを武器にナポリの前線に君臨し、対戦相手はどう対処するかに苦心した。

 しかし、ナポリはそのオシムヘンが11月末に頬骨を骨折。エースの代役がいなかったことは痛かった。負傷交代したインテル戦を含めて9試合でオシムヘンを欠いたナポリは、その間に3勝2分4敗という戦績で、勝ち点を落とす時期を過ごすことになってしまった。それでも上位にとどまっていたが、三つ巴となっていた終盤戦に、比較的楽に勝てると目されていたエンポリ戦でつまずくなど、詰めの甘さもあり、最終コーナーで失速した形だ。

 上位勢で最も周囲の期待を裏切ったのは、ユヴェントスで間違いない。4位フィニッシュはあまりにも情けない結果だ。

 昨季、新米監督のアンドレア・ピルロにチームを託して新時代のチームづくりを始めたユヴェントスは、これが完全に失敗に終わった。その反省から経験豊富なマッシミリアーノ・アッレグリを呼び戻して立て直しを図り、その結果が4位だったのだから、目も当てられない。

 ユヴェントスは、やりくり上手のアッレグリならうまくチームをさばけると妄信した部分もあるだろう。ただ、実際には百戦錬磨のベテランは数えるほどしかおらず、シーズン序盤でつまずいたことでチームは自信をなくし、負のスパイラルに突入。スクデットという目標が早々と消滅したことで、精神的にも立て直しが難しくなった。

ローマはUCLで結果を残した 中位勢の来季躍進もあるか

ローマはUCLで結果を残した 中位勢の来季躍進もあるか

モウリーニョ監督就任初年度でUCLのタイトルを手にしたローマ。リーグでは6位フィニッシュだったが、満足のいくシーズンを送ることに成功したと言えよう photo/Getty Images

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 5位ラツィオと6位ローマは、概ね妥当な順位と言えるが、ローマはUEFAカンファレンスリーグ(UCL)制覇という偉業を成し遂げた。もともと戦力的に上位勢から一歩劣るローマは、悪癖である浮き沈みもあり、やはり安定したシーズンを過ごせなかった。それでも、カップ戦を戦い抜いたことは自信につながる。フィオレンティーナは、前季13位から7位にジャンプアップ。シーズン途中にFWドゥシャン・ヴラホビッチを失いながらもこの順位に入ったのは、大躍進と言っていいはずだ。

 おそらく、22-23シーズンもこれらのチームがスクデットレースを引っ張っていくことだろう。ミラノの2チームは、優勝回数がともに19回。2つ目のステッラ(優勝10回ごとに付ける星)をどちらが先に手中に収めるのかは、両クラブの威信にかかわる重大なテーマである。ミランはオーナーがかわり、インテルは再び主力売却を余儀なくされる見通しで、どういうチームで臨むかは不明だ。

 逆襲に燃える盟主ユヴェントスは、一番の注目を集めそうだ。経験豊富なベテランを補強のターゲットとしているあたり、覇権奪還を急いでいることは間違いない。これが吉と出るか凶と出るかは、ファンならずと
も見守るべきポイントだろう。アッレグリ復任2季目。失敗は許されない。

 カンファレンスリーグ初代王者になって自信をつけたローマは、「モウリーニョ2年目」。クラブのレベルをもう一つ高めるシーズンになるかもしれない。

 そのほかにもナポリやフィオレンティーナ、ラツィオ、アタランタなど、上位に食い込む力を持ったクラブが多数ひしめいている。

 どんな戦力を迎え、どのような形で新シーズンを始めるのか。まずは各クラブのこの夏の動きから目が離せない。


文/伊藤 敬佑

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)270号、6月15日配信の記事より転載

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