長らくレアル・マドリード、バルセロナの2強が支配し、近年は第3勢力としてアトレティコ・マドリードの台頭も見られたラ・リーガ。しかし、今季はその力関係が一旦崩れ去ったシーズンだったと言える。資金不足に陥ったバルセロナはクラブの象徴であったリオネル・メッシを放出し、立て直しの混乱のなかシーズン半ばまで低迷を続けた。アトレティコは自慢の堅守が機能せず、好調だったセビージャ、ベティスのアンダルシア勢も首位レアルを脅かすには至らない。結果、戦力面とマネージメント面で磐石だったレアルが独走し、通算35回目のリーグ優勝を成し遂げている。
他の追随を許さないレアル CLも制した完璧なシーズンに
4月30日のエスパニョール戦に勝利し、通算35回目のリーグ優勝を果たした“白い巨人”。磐石の安定感が光った photo/Getty Images
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2021年5月、ジダンが自らの決断で指揮官を退任。2021-22シーズンのレアル・マドリードは、前人未到のチャンピオンズリーグ3連覇を果たし、チームの顔とも言えたジダン監督の後任探しから始まった。
アッレグリやコンテ、ラウールなど、後任候補が取り沙汰されるなか、白羽の矢を立てたのがカルロ・アンチェロッティ。2013年から2シーズンにわたりレアル・マドリードを率いた指揮官を復帰させたクラブは、アンチェロッティにクリスティアーノ・ロナウドなきあと過渡期から抜け出せないレアル・マドリードの再建を託した。そして、このクラブの決断が功を奏すことになる。
5勝1敗2分(第9節は延期)とまずまずの成績で迎えた第10節(10月24日開催)、レアルはバルセロナとの直接対決を制して一気に加速、2021年内最終のビルバオ戦(12月22日開催)までの11試合を9勝2分とし、ラ・リーガで頭ひとつ抜けた存在に。唯一、セビージャが食らいついたものの失速、前季王者アトレティコとライバルであるバルセロナの低迷により、首位の座を脅かされることなく第34節には35回目のリーグ優勝を果たした。ラ・リーガの座を早々と射程圏内にしたレアルは、アンチェロッティの掲げる、3要素「クォリティ」「モチベーション」そして「謙虚さ」に磨きをかけ、不屈の逆転劇に次ぐ逆転劇で、チャンピオンズリーグ制覇をも成し遂げた。クラブとしては、ドラマティックで完璧なシーズンだったと言えよう。
アンチェロッティは人心掌握術に優れた指揮官だ。有名選手を多く抱えるレアルにとって、チームの勢いを削ぐことなくチームに変化をもたらすことほど難しいものはない。しかし、彼は適材適所の起用法で、選手の持てる力を発揮させ、ゴタゴタすることなくチームの底上げに成功した。
なんと言っても、今季のレアルはFWカリム・ベンゼマの存在が大きかった。ヘッドありミドルあり、ボレーあり……。どんな体勢や位置からでもフィニッシュできる能力は34歳になっても健在で、周りを使うプレイにも長けていた。特に対PSG、対チェルシーのCL2戦連続ハットトリックは圧巻。メディアに対し、アンチェロッティはベンゼマの精神的な成長に触れ、ベンゼマ自身も「責任」を口にする。レアルの指揮官と大黒柱の信頼関係は厚かった。試合中に激昂することなどなく、常にクールかつ熱いプレイで精神的にもチームを牽引。リーダーとしての役割を果たした。バロンドール受賞の可能性は限りなく高い。
FWヴィニシウス・ジュニオールの覚醒が、レアル左サイドの攻撃の核となったのは間違いない。抜群のスピードとキレのあるドリブルに加え、フィニッシュの精度が増した。クイックかつ非常に落ち着いたプレイで、1人でも得点できる快速ウィンガーへと成長。新加入のCBダビド・アラバやGKティボー・クルトワからの正確なロングフィードが、相手チームに脅威を与える武器となった。
安定感抜群だったのは、トニ・クロース(32)、ルカ・モドリッチ(36)、カゼミロ(30)のベテランMF陣。ロナウドが去り、セルヒオ・ラモスが去り、世代交代が叫ばれるなか、実力と結果で存在価値を示した。精度の高いパスを配給するクロース、狭いエリアで違いをみせるモドリッチ、危険を察知しボールを奪取するカゼミロと、三者三様の個性が織りなす中盤は、今季も鉄板の組み合わせ。ミラン時代から、ベテラン選手を重用したアンチェロッティにとって、パフォーマンスが良ければ年齢は関係ないのだ。
レアルの強さを下支えした強靭なバックアッパー陣
弱冠19歳のカマヴィンガだが、すでにクロースらに引けを取らない完成度を持っていることをシーズン通して証明した photo/Getty Images
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中盤のバックアッパーとして頭角を現したのが、18歳で新加入したMFエドゥアルド・カマヴィンガだ。第4節セルタ戦でデビューすると、いきなり初ゴール。アンチェロッティの高い評価を得て出場機会を増やし、試合毎にポテンシャルを開花させていった。カマヴィンガは、展開力のあるキック、推進力のあるドリブル、際立つボール奪取と、鉄板トリオの特長をすべて併せ持つ新星だ。ベテラン3人が行けるところまでプレイし、カマヴィンガと交代させる。それが難しい試合での方程式となった。誰と交代してもバランスが崩れない、むしろインパクトを残せるバックアッパーは、相手にとって厄介な存在だっただろう。
バックアッパーとして言及しておきたいのは、DFナチョ・フェルナンデスとFWルーカス・バスケス。ナチョは今季先発17試合、バスケスは今季先発20試合とそれなりの出場機会を得ていたが、序列としてはファーストチョイスとはいえない立ち位置。だが腐ることなく、主力選手の怪我でチームが厳しい状況に置かれている時、難しい試合展開で緊急出動となった時、キッチリと役割を果たした。特にシーズン終盤のアラバ不在時、センターバックとして素晴らしいパフォーマンスを発揮したナチョには、アンチェロッティも感謝しかないシーズンだったはずだ。表のMVPがベンゼマだとすると、裏MVPはナチョといっても過言ではない。両選手ともレアル・マドリードの下部組織出身で、クラブに対する忠誠心が強い。そんな計算できるユーティリティプレイヤーは、決して欠かすことのできないピースなのだ。
アンチェロッティをシーズン最後まで悩ませたのは、MFフェデリコ・バルベルデとFWロドリゴ・ゴエスの起用法だろう。推進力のあるMFバルベルデに対し、ゴールに近いエリアで力を発揮し好機を見逃さないロドリゴ。どちらも先発だろうが途中出場だろうが試合にインパクトを与える極上の武器。贅沢かつ悩ましいこの問題を、アンチェロッティは試合の終わらせ方から逆算して解決した。対戦相手の戦術や力量を見極め、バルベルデを先発させるか後半に投入するか決めていたのではないだろうか。CL決勝では、ボックス・トゥ・ボックスの運動量とチャンスメイキングの起爆剤としてバルベルデが先発起用され、見事決勝ゴールを演出した。
そして、スーパーセーブを連発したGKティボー・クルトワの存在を忘れてはいけない。200㎝の高身長に加え、抜群の反応速度で、チームの危機を幾度となく救ってくれた。アンチェロッティが推し進めたシステマティックなビルドアップの強化にも対応。CL決勝ではマン・オブ・ザ・マッチに輝くなど、「レアルの守護神」の名に相応しい働きをみせた。
26勝4敗8分・勝点86の単独走行で、欧州5大リーグをすべて制した初の監督となったアンチェロッティは、「経験と若さ、情熱が上手く融合」したチームだったと語る。マルセロ、イスコ、ガレス・ベイルといったジダン時代の主力が出場機会を減らし、現実的な世代交代を進めたレアル・マドリードは、試合を重ねるごとに完成度を高めていった。レアルならではの勝者のメンタリティから生まれる巧みな試合運びと相まって、絶頂を極めるシーズンを送ったと言えるだろう。アンチェロッティの名伯楽ぶりには、フロントが最も安堵したに違いない。
バルサは混乱と足踏みのシーズンに アトレティコも本領発揮できず
11月初頭にバルセロナ指揮官に就任したシャビ。発表時点ではリーグ9位と大きく低迷していた photo/Getty Images
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バルセロナにとって、リオネル・メッシが抜けた穴を埋めるのは簡単ではなかった。オランダ代表のFWメンフィス・デパイ、FWルーク・デ・ヨングが新加入するもチームは早い段階で失速。クラシコからの2連敗を受けてロナルド・クーマン監督を解任し、11月にクラブのレジェンドであるシャビ・エルナンデスをアル・サッド(カタール)から引き抜き、立て直しを図った。リーグ9位でバトンを受けたシャビ監督は、冬の移籍でFWフェラン・トーレス、FWピエール・エメリク・オバメヤン、FWアダマ・トラオレ、DFダニ・アウベスという計算できる戦力を得て、巻き返しに成功。最終的には21勝7敗10分・勝点73の2位となり意地を見せたが、首位レアルには勝点13ポイント差と大きく水をあけられたカタチとなった。
らしくないシーズンだったのは昨季王者のアトレティコ・マドリード。攻撃的な布陣で勝ち切るチームへと変貌したはずだったが、それも強固な守備があってこそ。守備が崩壊し、取りこぼす試合が多かった。右サイドバックとして昨季優勝に大きく貢献したDFキーラン・トリッピアーが、本人の希望により、冬の移籍で退団したことも痛かった。数字で見てもここ5年、シーズンを通じて20点台後半で推移していた失点が、43失点まで拡大。最後まで守備を立て直すことができなかった。攻撃面でも、前線は試行錯誤が続いた。最終的には、MFジョアン・フェリックスとFWアントワーヌ・グリーズマンの組み合わせがファーストチョイスに落ち着いたかと思われたが、第32節にフェリックスがハムストリングを負傷し、最終節まで復帰できなかった。コロナ陽性による離脱者も多く、21勝9敗8分・勝点71の3位という結果。やり繰り上手なディエゴ・シメオネ監督にとっても、苦悩の1年だったに違いない。
今季のラ・リーガを面白くしたのは、間違いなくセビージャだろう。リーグ最少30失点の負けないサッカーで、18勝4敗16分・勝点70の4位。終盤の5試合で1勝5分と失速したが、それまでレアル・マドリードに食らいつき、3強の牙城を崩すのに、あともう一歩だった。
久保建英が所属するマジョルカは、最終節で奇跡的な1部残留を決めた。だが、この試合に久保の出番はなし。来シーズンは久保にとって、自身のポテンシャルを見せつけなければならない正念場となる。
リーガの来季はシャビ次第!? レアルを止めるデッドヒートに期待
バルサ期待のアンス・ファティが躍動すれば、来季のラ・リーガはまた違ったパワーバランスがみられるはずだ photo/Getty Images
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果たして、来シーズンのラ・リーガはどうなるのだろうか?
王者レアル・マドリードは、来季の補強も着々だ。既にチェルシーからドイツ代表DFアントニオ・リュディガーの獲得を発表。そしてモナコからNEXTポグバと称される大型MFのオーレリアン・チュアメニ獲得も決めた。モドリッチとは契約延長に漕ぎ着けた。層の薄いDF陣を補強し、中盤は徐々に若返りを図るシーズンとなるだろう。不安があるとすれば、ベンゼマへの依存度が高いことだけだ。
チーム再建を目指すバルセロナは、メッシから10番を引き継いだFWアンス・ファティに注目したい。今季は負傷離脱を2度強いられたが、ベストコンディションであればバルセロナで最も違いを作れる選手となるはずだ。バルセロナは逸材流失阻止のため、巨額な契約解除金を設定するケースが多い。既にFWアンス・ファティ、MFペドリ、そしてDFロナルド・アラウホには、10億ユーロ(約1425億円)の契約解除金が設定され、主力としての活躍が期待される。あとはフィニッシャーとして、FWロベルト・レヴァンドフスキをバイエルンから獲得できるかどうか。シャビ流のバルセロナが本格始動する舞台は整いつつある。
アトレティコ・マドリードには、原点回帰が必要だ。守備の再構築が何よりも優先事項となる。攻撃面では、退団決定のFWルイス・スアレス、退団間近のFWアンヘル・コレアに代わり、ジョアン・フェリックスがゴールゲッターとして開花するかどうかがカギを握るだろう。シメオネにとって、タフなシーズンがもう1年続きそうだ。
マイナーチェンジでチーム力を上げてくるレアル・マドリードが、一歩リードしていることは間違いない。しかし、バルセロナの攻撃を担うのは、現在10代のヤングスターたちだ。彼らの成長には計り知れないものがあり、一旦、上昇気流に乗れば、手がつけららないほどの無双状態になる可能性もある。総じて、来シーズンのラ・リーガを面白くするのは、指揮官シャビの手腕しだいとも言えるだろう。
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)270号、6月15日配信の記事より転載