第21節が終了したJ1は、横浜F・マリノスが勝点44で首位に立っている。追いかける2位鹿島は勝点39と少し離され、1試合消化が少ない川崎が勝点37で3位となっている。今後、横浜F・マリノスがACL&ルヴァン杯、鹿島は天皇
杯、川崎はルヴァン杯と、各チームが複数のタイトルを狙って戦っていくことになる。そうしたなか、2022J1リーグを制するのはどのチームになるのか。前半戦を振り返りつつ、後半戦を展望する。
8人の新戦力が早くもフィット 首位走るチーム支えるフロント力
新加入の西村拓真。豊富な運動量で様々なポジションに顔を出しビ ルドアップの出口となれる photo/Getty Images
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横浜F・マリノスは序盤戦こそ安定しない試合があったが、第15節から6連勝を飾り、首位の座を固めにかかっている。単純に考えてJ1のなかでもっとも選手層が厚く、最終ラインから前線まで良質な選手が2セット分は揃っている。ターンオーバーが可能で、誰がピッチに立ってもチーム力が落ちない。十分に複数の大会を戦っていけるだろう。
フィットするのに多少の時間はかかったが、新加入選手の多くがいまではピッチで躍動している。チアゴ・マルチンスが抜けた最終ラインの中央ではエドゥアルド、角田涼太朗が積極的なプレイをみせ、守備はもちろん攻撃にも貢献している。サイドでは小池裕太、永戸勝也が水を得た魚のように縦横を規則正しく動き、相手を混乱に陥れる。
U-21代表でも主力となっている藤田譲瑠チマ、ユースから昇格した山根陸はボールさばきが正確で、中盤をコントロールできる。セカンドトップを務める西村拓真は神出鬼没で、横浜F・マリノスの連動性あるスタイルにいち早く馴染み、得点ランク4位となる8得点をマークしている。6試合の出場停止がありながら7得点をあげているアンデルソン・ロペスも新加入であり、これほど補強が成功した例は珍しいのではないだろうか。
誰が出ても強いF・マリノス J1含む3冠も達成しうる強力スカッド
昨季スーパーサブの地位を確立した水沼宏太。今季はすでに12試合で先発とスタメンの座を勝ち取っており、4ゴール6アシストと見事な数字を残している photo/Getty Images
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最初にちょっと触れたが、既存の選手たちと合わせると様々な組み合わせが可能で、SBであれば松原健、小池龍太がいるし、CBなら實藤友紀、岩田智輝がいる。また、小池龍、岩田はボランチでの起用も可能で、そうなると藤田、山根、喜田拓也、渡辺皓太と合わせて、ケヴィン・マスカット監督にはボランチの組み合わせだけで選択肢が余るほどある。そして、アンジェ・ポステコグルー前監督の時代から築き上げた確固たるスタイルがあることで、いずれの選手が出場しても横浜F・マリノスのサッカーができるところが強みとなっている。
前線も充実しており、右サイドでは32歳となった水沼宏太がイキイキとしたプレイを継続していて、マスカット監督のファーストチョイスとなっている。左サイドでは宮市亮が持ち味である突破力をいかんなく発揮できる役割を与えられ、同ポジションを務めるエウベルとともに多くのゴールにからんでいる。さらに、2019JリーグMVPの仲川輝人がいるのだから、相手守備陣は休む暇がない。
セカンドトップには西村とマルコス・ジュニオールがいて、最前線にはレオ・セアラとアンデルソン・ロペスがいる。ポジションをやりくりすれば2点を追いかける展開になった第21節C大阪戦の後半のようにマルコス・ジュニオール、レオ・セアラ、アンデルソン・ロペスの併用も可能で、この試合では同点に追いつくことに成功している。
揺るぎないチームスタイルがあり、選手層が厚くターンオーバーも可能だ。横浜F・マリノスはJ1だけでなく、ルヴァン杯、ACLでも優勝候補にあげられる。
かつての堅守が失われ目立つ失点 エース上田が抜けた穴を埋められるか
エヴェラウドは上田綺世が抜けた今、覚醒が待たれるストライカーだ。今季はまだ2ゴールと物足りず、飛躍が期待されている photo/Getty Images
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鹿島はよく2位をキープしているという印象で、決して好調ではない。シーズン序盤はシント・トロイデンから復帰した鈴木優磨、前線で絶対的な存在感を放っていた上田綺世、抜群の決定力を持つアルトゥール・カイキが攻撃をリードし、中盤では新加入の樋口雄太、技術力の高いディエゴ・ピトゥカが攻守をつなぎ、両SBの常本佳吾、安西幸輝もどんどん攻撃参加していた。そして、勝点をジワジワと積み上げていた。
しかし、レネ・ヴァイラー監督の目指すタテに早いサッカーは失点のリスクが高いのも事実で、中盤でプレスをかわされると一気にピンチになる。第8節横浜F・マリノス戦、第12節広島戦、第16節FC東京戦はいずれも3失点して敗れている。第15節鳥栖戦は4-4、第20節C大阪戦は3-3である。
かつては堅守が鹿島の代名詞で、1-0で逃げ切ることができるチームだった。しかし、時代の趨勢から変化を求められ、たしかに意識が攻撃的へとシフトしている。一方で、突発的に失点を重ねるのが気がかりである。三竿健斗、関川郁万、キム・ミンテ、ときどきブエノが登場してCBを務めるが、いずれも前がかりの積極的な思考を持ち、リスクを冒しながらプレイしている。
シーズン序盤は攻撃力で乗り越えてきたが、上田がサークル・ブルージュに移籍した。前線で献身的な守備を行うとともに、ターゲットとなってボールを受けていたエースストライカーの離脱はどう考えても痛い。負傷明けのエヴェラウドのパフォーマンスが注目されるが、上田ほど器用ではない。ただ、鹿島らしい献身的な選手で、まわりを使うのがうまいし、シュートの意識も強い。エヴェラウドが覚醒したなら、引き続き横浜F・マリノスを追いかける一番手となる。
ベルギー帰りの鈴木優磨は存在感抜群 必要な“鹿島の顔”に続く存在
2022年シーズンから10番を背負う荒木遼太郎だが、今季はケガに悩まされている。復帰時期は8月とされており、10番の帰還に期待したい photo/Getty Images
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ただ、第21節札幌戦は鈴木も負傷欠場となり、攻撃のカタチを作れずに0-0で引き分けている。押し込まれたことで守備の意識が高く失点こそなかったが、得点チャンスも数少なかった。エヴェラウド、土居聖真の2トップに、2列目の両サイドが和泉竜司、アルトゥール・カイキだったが、前線にボールが収まらなかった。結果として、SBもなかなか効果的な攻撃参加ができなかった。明らかになったのは、上田が移籍したいま、鈴木は代えが利かない存在だということだった。
背番号40を引き継いだこの新たな“鹿島の顔”の負担を減らすためには、経験豊富な土居はもちろん、新加入の仲間隼斗であり、加入3年目を迎えた松村優太、染野唯月、荒木遼太郎(負傷中)の同期トリオにも期待がかかる。守備に不安を抱えるが、いまの鹿島はそれを払しょくする攻撃力を発揮することを目指している。そのためには、新たな選手の台頭が必須となる。
3位からの逆転優勝は可能 大島ら経験ある選手の復帰がカギに
ケガに悩まされていた大島僚太だが、17節札幌戦から3試合連続で先発フル出場を果たした。後半戦のキーマンは10番を背負う大島だ photo/Getty Images
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ここまでの川崎はケガ人にも悩まされ、苦戦を続けてきた。ACL、天皇杯ですでに敗退し、J1でも第15節湘南戦に0-4で完敗を喫するなど、ここ数年とは違った戦いを強いられている。それでも、1試合消化が少ない状態で3位という状況をどうみるか。追いかける立場となった川崎だが、多くの選手が優勝経験を持つ。残り試合数と横浜F・マリノスとの勝点差を考えれば、逆転は十分に可能である。
湘南戦に続き、第16節京都戦にも敗戦。第18節磐田戦には1-1で引分け、第19節C大阪戦には敗れている。この流れが続くと上位争いに留まるのは難しかったが、第21節G大阪戦に4-0で快勝し、ひとまず悪い流れを断ち切っている。
車屋紳太郎、大島僚太、登里享平、チャナティップなどケガがあった選手たちが順々に復帰し、ピッチに戻ってきている。新加入のチャナティップは馴染むまでに時間がかかったが、マルシーニョ、橘田健人、脇坂泰斗、家長昭博らとの連携が間違いなくよくなってきている。前線のレアンドロ・ダミアンの動きもよくみており、効果的なパスも増えている。これからよりよくなっていくというか、大金を払って獲得した川崎としては、チャナティップにもう少し目覚ましい活躍をしてほしいところだ。
小林悠は健在だし、短い出場時間でも仕事ができる知念慶もいる。遠野大弥、宮城天のドリブルと積極的なシュートは、相手にとっては非常に嫌なオプションとなっている。こうしてみていくと、やはり攻撃のコマは十分に揃っている。
守備に関しては谷口彰悟、山根視来が出場を続ける一方で、CBのもう一枚は固定できず、左SBも第17節札幌戦、続く磐田戦で橘田が務めるなどやり繰りに苦労してきた。これが不調につながり、勝点を落とすことにつながっていた。しかし、佐々木旭に加えて、登里が復帰したことでこのポジションが安定することが予想される。
さらに、後半戦に向けてジェジエウが復帰すると、いよいよ戦力が揃ってくる。長期の負傷明けとなるジェジエウがどんなパフォーマンスをみせるか未知数だが、川崎にとって待ちに待った選手の復帰になることは間違いない。ACLと天皇杯。苦戦する間に2つのタイトルを失っているが、川崎の本当の戦いはこれからはじまるといえる。
この3チームの後ろには広島、柏、C大阪と続く。逆転優勝のためには上位3チームを抜かなければならず、これは現実的に考えて厳しい。自分たちが連勝しても、上位勢が揃って勝点をこぼさないと頂点には立てない。こうした状況を考えると、今シーズンの優勝は横浜F・マリノス、鹿島、川崎のいずれかになるとみていいかもしれない。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)271号、7月15日配信の記事より転載