リオネル・メッシが去り、新たなフェーズを迎えたバルセロナ。昨季はタイトルが取れない無冠のシーズンとなってしまったが、クラブOBであるシャビ・エルナンデスを招聘し、再起を図るための土台を作り出した。22-23シーズンでは離されてしまったライバル、レアル・マドリードとの差を埋め、勝利を掴まなければならないシーズンであり、今季バルセロナが欧州の主役となるための準備は着々と進んでいる。
財政危機もあの手この手で跳ね返す 新生バルセロナが見せる大補強
ジョアン・ガンペール杯にてプーマスUNAMに6-0での快勝を収めたバルセロナ。プレシーズンでは計7試合戦い無敗で終えており、新シーズンに向けた準備は万端だ photo/Getty Images
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近年、財政難に陥っているなか、TV放映権の売却などで資金を作り、バルセロナはなかなかの大型補強を行った。ロベルト・レヴァンドフスキ、ジュール・クンデ、フランク・ケシエ、ハフィーニャ、アンドレアス・クリステンセンなど。いずれも即戦力であり、将来を見据えたものではなく結果を追求した補強となっている。あとは、良質な選手たちを監督であるシャビがいかにうまく差配するかだ。今シーズンのバルセロナは、タイトルを取らないといけない。
ケシエ、クリステンセンはフリーで獲得したが、レヴァンドフスキが4500万ユーロ(約63億円)+出来高、クンデが5000万ユーロ(約67億円)+出来高、ハフィーニャが5800万ユーロ(約80億円)+出来高である。9月1日23時(日本時間2日7時)の移籍期限までに、さらなるビッグネームの獲得があるかもしれない。ラ・リーガの登録選手数は25名で、整理が必要なほどシャビのもとには選手が揃っている。
顔ぶれは変わっても、伝統の[4-3-3]が基本布陣なのに変わりはない。現状把握とポジション確認のため、8月8日のジョアン・ガンペール杯プーマス戦の先発と交代選手を振り返ってみる(カッコ内が交代選手)。GKテア・シュテーゲン(ペーニャ)に、最終ラインが右からセルジ・ロベルト(セルジーニョ・デスト)、ロナルド・アラウホ(クンデ)、エリック・ガルシア(ジェラール・ピケ)、アレックス・バルデ(ジョルディ・アルバ)。アンカーがセルヒオ・ブスケッツ(ニコ・ゴンサレス)で、インサイドハーフがペドリ(フレンキー・デ・ヨング)とガビ(ケシエ)。前線は右にウスマン・デンベレ(ピエール・エメリク・オバメヤン)、左にハフィーニャ(アンス・ファティ)。真ん中にレヴァンドフスキ(メンフィス・デパイ)で、前半に4点、後半に2点を奪う上々の内容で6-0の快勝を収めている。
試合前日に「今シーズンの目標はタイトル獲得と、良質なフットボールをすること。われわれは人々を幸せにしたいし、選手たちは幸せになるに値する」と語っていたのはシャビで、さっそく有言実行となった。
世界最高のストライカーがやってきた チームへの適応は早くも上々
バイエルンで3 7 5 試合に出場し3 4 4ゴール72アシストを記録したストライカーがバルセロナにやってきた。得点だけでなくポストプレイも上手い photo/Getty Images
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ポゼッションサッカーが猛威を振るった数年前のバルサは、各選手がパウサ(小休止の意)をうまく使い、長短の正確なパス、狭い場所に仕掛けるドリブルなどで攻撃に緩急をつけて相手守備陣を翻ろうしていた。しかし、これに対応する守備戦術の向上に、アンドレス・イニエスタ、シャビ、ネイマール、リオネル・メッシなどの退団という流れがあり、こうしたサッカーから相手にボールを奪う隙を与えず、縦に早い展開も取り入れたスタイルへのグレードアップが求められた。
この点において、自分で点を取れるだけでなく、まわりの選手を使うのがうまいレヴァンドフスキの加入は早くも効果をもたらしている。プーマス戦の先制点の場面。CBのE・ガルシアがハーフスペースにポジションを取ったペドリに縦パスを入れる。攻撃陣が連動することで、前を向いてボール持ったペドリには実に4つものパスコースがあった。右サイドに開いたデンベレ、それよりも中央にポジションを取るガビ、左サイドに開くハフィーニャ、相手最終ラインの裏を取ろうとするレヴァンドフスキである。
アイデアが豊富で視野が広いペドリの選択は、一度ゴールから遠ざかる両サイドではなく、もっとも早くゴール前に到達するレヴァンドフスキへのループパスで、これを受けたレヴァンドフスキがGKのポジションを冷静に確認し、カンプ・ノウでの移籍後初ゴールをさっそく決めてみせた。
ペドリとレヴァンドフスキは相性がよく、2点目はペドリ→デンベレ→レヴァンドフスキ→ペドリとつないだもので、4点目もE・ガルシア→レヴァンドフスキ→ペドリで奪ったゴールだった。どちらもレヴァンドフスキがボールを持ったときにペドリが斜めに走っており、これを見逃さずにラストパスを出したレヴァンドフスキの能力の高さがうかがえた。
また、2点目のときは右サイドでデンベレがボールを持ったときにガビが囮となる走りをみせており、オフ・ザ・ボールの動きがよかった。さらに加えれば、ペドリの判断である。1点目では縦パスを選択したが、2点目ではサイドへの展開を選択している。ペドリは縦へ素早く仕掛けるだけでなく、パウサ(小休止)も取り入れて“場”をコントロールできる稀有な選手である。20歳になる今シーズン、より大きな選手へと変貌を遂げるのは間違いない。
2季目はバリエーション増加の年? シャビが落とし込みたい[3-4-3]の新境地
178cmと小柄ではあるが、空中戦を苦にしないCBのジュール・クンデ。攻撃的な守備者であり、積極的な持ちあがりを見せる photo/Getty Images
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新戦力の役割をみれば、ハフィーニャは左ウィングを主軸に、チーム状況によって右サイドも任されることになる。プーマス戦ではデンベレと左右を入れ替える時間もあり、フェラン・トーレス、ファティも含めて、このポジションは複数のセットが可能となった。
最終ラインにクンデ、中盤にケシエが加わった意味も大きい。ボールへアタックするタイミングが抜群にいいクンデはCBを務めるが、展開力、視野の広さなどを考えると、中盤でのプレイもおそらくいける能力の持ち主だ。足元の技術力が高く、自身でボールを持ちあがることもある。いわゆるゴールにからむことができるCBである。
ケシエはボールを刈り取る力があり、味方がロストしたときにすぐに姿を現わし、取り返してみせる。危険なゾーンを本能的に察知できるタイプで、体幹も強く競り負けない。ボランチ、インサイドハーフのどちらもできるし、ユース時代はCBでプレイしており、最終ラインでも稼働できる。
最終ラインにはクリステンセンも獲得している。こうした充実した戦力が揃ったことで、どうやら3バックをオプションとすることも視野に入れられている。アラウホを中央に、右にクンデ、左にE・ガルシア。クリステンセン、ピケもいるし、ケシエもいける。さらには、昨シーズンはF・デ・ヨングがCBを務めた試合もあった。
3バックで[3-4-3]とするなら、ボランチは2人でブスケッツ、ケシエ、F・デ・ヨング、ガビ、ニコから選択。
サイドハーフはセルジ、S・デスト、J・アルバ、バルデのSB勢に、デンベレ、ハフィーニャ、F・トーレス、ファティの攻撃勢でもいい。3トップはレヴァンドフスキを中央に、シャドーにペドリ、ガビ、あるいは前述の攻撃勢という感じになる。いずれの選手も複数のポジションでプレイが可能なので、さまざま組み合わせが考えられる。
この布陣のメリットとしては、攻めに人数をかけられ、サイドで数的優位を作りやすいところにある。また、これに乗じるカタチで前からプレスにいきやすい。2ボランチのひとりが前にあがって中盤がフラットではなくダイヤモンドになればより攻撃的になり、ペナルティエリアに侵入する選手を増やすことができる。
一方で、守備に関してデメリットがある。前からプレスにいきやすいが、かわされてカウンターを受けると後方には大きなスペースがあり、少ない人数での対応を強いられる。そのため、高い能力を持つ3バックが必要になるが、今シーズンのバルサには選手が揃っている。だからこそシャビも[3-4-3]をオプションとして考えているのだろう。
とはいえ、バルセロナの基本布陣は[4-3-3]であることに変わりはない。現状でも25名の登録選手に迷うほどだが、ラ・リーガ、国王杯、CLに加えて、各国の代表選手が11月20日開幕のW杯を戦うことを考えれば、資金の範囲内で選手を揃えておいたほうがいい。将来を見据えて中・長期的な視点で強化するとかではなく、シャビは喫緊の目標としてタイトル獲得を掲げているのだからなおさらである。
苦しい財政状況のなか、資金を捻出して充実した戦力を揃えた。ペドリはもちろん、ブスケッツ、ガビなどもパウサの使い手で、攻撃に変化をつけられる。それだけでなく、前線に万能なストライカーであるレヴァンドフスキ、サイドからチャンスメイクするハフィーニャが加わったことで、より縦に早い攻撃が可能となった。
クンデ、ケシエ、クリステンセンの獲得によって、布陣の変更が可能なほど最終ライン、中盤の厚みも増している。タイトル獲得に向けて、目の前の試合に勝利することに向けて、試合ごとにシャビがどんな選択をするのか──。今シーズンのバルサは、継続性+新展開がみられる1年になるかもしれない。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)272号、8月15日配信の記事より転載