世界最高峰と言われるプレミアリーグでは、たとえ中堅クラブであっても代表クラスのタレントがひしめいている。ビッグクラブが足をすくわれることも珍しくなく、15-16シーズンのレスターのように、伏兵的な存在のクラブがタイトルを獲得することも夢ではない。そして、それがリーグの大きな魅力の1つになっている。
特に、卓越した個の力で局面を打開できる選手を抱えたクラブは、BIG6にとっても侮りがたい強敵となりうる。ここで紹介する6人は、すでに今季のリーグ戦で大きな存在感を示し、その力を見せつけている。彼らに注目すれば、プレミア観戦の楽しみは何倍にも膨れ上がるだろう。
BIG6をもなぎ倒す、おそるべき前線の仕事人
2017-18からフラムでエースとして活躍し、昨季は2部で44試合43ゴールという驚異的な得点数を記録したミトロビッチ photo/Getty Images
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開幕早々、フラムのFWアレクサンダル・ミトロビッチは強烈なインパクトを残した。リヴァプールが世界に誇るフィルジル・ファン・ダイク、ジョエル・マティプを圧倒したのである。小細工を弄せず、からだをブチ当てる。リヴァプールの両センターバックは対応に四苦八苦し、ミトロビッチとの1対1で後手にまわっていた。
また、守備意識が非常に高く、試合最終盤でも労を惜しまずにプレスバックし、高めのプレイ強度でボールホルダーを追いかけまわす。第一DFとして中盤センターと最終ラインの負担を軽減していた。
リヴァプールの両CBを圧倒したのだから、BIG6も安穏としてはいられない。ミトロビッチのパワフルなプレイが一流の守備者を脅かし、ひいては優勝の行方に少なからぬ影響を及ぼすかもしれない。
さらにもう一人挙げたいのがリーズのFWロドリゴだ。一昨シーズンは新型コロナウイルス感染などでコンディションがすぐれず、昨シーズンは負傷者続出というクラブの影響もあり、ロドリゴは真価を発揮するまでには至らなかった。
しかし、もともとはレアル・マドリードの下部組織で育ち、ベンフィカやバレンシアでも活躍したのだから、その才能に疑いの余地はない。
相手の最終ラインの背後を急襲し、トップはもちろん、二列目でもゲームプランに即して効果的に動く。なおかつリーズの信条とされるハイプレスも心得ており、足を止めずに闘い続ける姿勢はサポーター間でも熱く支持されている。
ハフィーニャがバルセロナへ、カルヴィン・フィリップスがマンチェスター・シティに去り、苦戦が予想される今季のリーズだが、第3節のチェルシー戦では3-0の勝利を収め、本拠エランド・ロードは沸きに沸いた。
この熱狂の中心にいたのがロドリゴである。1ゴール1アシスト。81分に退いたとき、サポーターは万雷の拍手で彼の労をねぎらった。
ブライトンのW杯ブレイク候補と、日本の“特別な”ドリブラー
トロサールは開幕戦からウェストハム相手に得点を決めると、第6節のレスター戦では得意のドリブルを生かして1得点とPKをゲット photo/Getty Images
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加えてアタッカーとして挙げたい選手が、ブライトンの2名。1人目はレアンドロ・トロサールである。DFにすればコースは限定できている。ところが、トロサールは狭いスペースを好んで侵入し、さらに仕掛けていく。しかもかわすドリブルではなく、守備陣の急所をえぐるようなアタックだ。いわゆる “無双”である。
また左右のウイングとシャドーストライカーをこなす汎用性も魅力であり、現在のパフォーマンスを維持できれば、ベルギー代表として出場予定のカタールW杯では世界中の関心を集めるに違いない。一気にブレイクもあるだろう。
そしてトロサールと定位置を争うのが、三笘薫である。
現時点では劣勢だ。左サイドからの突破では引けを取らないものの、移籍初年度ではプレミアリーグ特有のプレイ強度にフィットするまで時間を要する。
したがって、与えられた時間のなかでインパクトを残し、いずれ必ずやって来るスタメンのチャンスを、虎視眈々とうかがっていればいい。トロサールと三笘の両ウイングがスピードとテクニックで相手DFを破壊し、次から次へとゴールを奪うシーンも目に浮かぶ。
「彼は特別だ」
三笘のドリブルは、底意地が悪くて外国人選手に懐疑的なイングランドのメディアをも驚かせた。グレアム・ポッター監督のチェルシー移籍で揺れるブライトンだが、三笘とトロサールがいるかぎり、ゲームプランに大きな狂いは生じない。
クラシカルなGKと現代型ファイターが今季のプレミアをかき回す
打点の高いヘディングシュートもアンデルセンの武器。第4節のシティ戦ではチーム移籍後初ゴールを決める photo/Getty Images
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守備で注目したい選手の一人が、ニューカッスルのGKニック・ポープである。つなぐ意識が絶望的に低いバーンリーで長らく正GKを務めていたポープは、時代に即したタイプではない。シュートを止めた後、絶妙なパントキックでカウンターの起点、ではなく、とりあえず一旦は落ち着かせる。50メートルにも及ぶ正確なスローイングがあるというのに、ちょっと歯がゆい。
しかし、シュートストップの技術は非常に高く、ニューカッスルに移籍した今シーズンも28セーブと3つのクリーンシート(第6節時点)はともにリーグナンバー1。決してヤマを張らず、リラックスして構えているため、左右高低、あらゆるコースのシュートに反応できる。ハイクロスの目測を誤るケースもほとんどない。
クリーンシート数は3シーズン連続でトップ10に入り、「15」を数えた一昨季は、この部門でトップに立ったエデルソンにわずか1差まで迫った。バーンリーとシティでは、戦力値が雲泥の差であるにもかかわらず、だ。
来るべきカタールW杯のイングランド代表入りも確定だ。ジョーダン・ピックフォードの負傷が長引いた場合、正GKも考えられる。
DFではヨアキム・アンデルセン(クリスタル・パレス)に注目したい。強い当たりと正確なフィードには定評があった。むしろ当たりが強すぎ、アンデルセンの周囲では小競り合いが生じるケースも多く見られる。第2節でリヴァプールのダルウィン・ヌニェスが退場になったのも、アンデルセンの度重なる挑発とハードなチャレンジがあったからだ。
しかし、フィードがより正確になっている。しかも、中長距離のパスをいとも簡単に操るのだから痛快だ。自陣でプレイする機会が多くなるクリスタル・パレスにとって、相手のプレスを無効化するようなアンデルセンのピンポイントキックは貴重なアイテムだ。
局面のワンプレイで、結果がガラリと変わるプレミア。今季も彼らのようなジャイアントキラーによって、今後の順位表は目まぐるしく変化するはずだ。ビッグクラブをなぎ倒す力を備えた彼らのプレイにこそ、プレミアの醍醐味が詰まっていると言っても過言ではない。
文/粕谷 秀樹
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)273号、9月15日配信の記事より転載