[水沼貴史]ウニオンのブンデス首位は偶然ではない 原口は出場減も問題なし!?

水沼貴史の欧蹴爛漫071

水沼貴史の欧蹴爛漫071

ライプツィヒを2-1で撃破したウニオン photo/Getty Images

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効率の良い攻撃と守備

水沼貴史です。序盤戦から各国リーグで激しい戦いが繰り広げられていますが、中でも混戦模様となっているのがドイツのブンデスリーガ。現在10連覇中の絶対王者バイエルン・ミュンヘンが第4節から4試合も白星なしと、思わぬ苦戦を強いられています。1つのクラブが独走しないことは、他のクラブのモチベーションにもつながりますし、リーグを盛り上げる上でも、面白くする上でも、とても良いことだと思います。

そんな中で、素晴らしいスタートを切ったのが日本代表MF原口元気も所属するウニオン・ベルリンです。クラブ史上初の1部挑戦となった2019-20シーズン以降、11位、7位と年々順位を上げており、昨季はヨーロッパリーグ出場圏内となる5位でフィニッシュ。着実に力をつけてきています。そして、昇格4年目の今季も開幕戦でヘルタ・ベルリンを相手に3-1の勝利を収めると、7試合を消化して5勝2分となっています。ライプツィヒ(2-1)やバイエルン(1-1)といった強豪からもしっかり勝ち点を奪っており、現在ブンデスリーガの首位を走っているのです。今回はそんな絶好調なウニオン・ベルリンについて少々お話ししたいと思います。

まずウニオンの好調の要因として大きいのが、ここまでリーグ最小失点(4失点)を誇る守備です。前からプレッシャーに行くということがチームとしてできていて、非常に素晴らしいです。その結果、素早いカウンターにもつながっている。失点の少なさとブンデスリーガで下から3番目のパス本数からみても、良い守備から非常に効率的な攻撃が仕掛けられているように思います。バイエルンやライプツィヒを相手にも変に引くことなく、前から積極的な守備が行えていましたからね。『最初からブロックを敷くのではなく、前からプレスに行く。ボールを奪えたならそこから素早い攻撃を仕掛け、奪えなかった際には少しゾーンを下げる』こういったやり方が就任5年目を迎えたウルス・フィッシャー監督のもとでしっかり整理され、洗練されてきているように思います。
また、効率の良さは守備面でも垣間見られています。ウニオンはここまでファウル数がブンデスリーガでダントツのトップなのですが、カードをもらった回数はリーグで最も少ないのです。ハードワークをしながらしっかりデュエルができていて、身体も張れている。少し間違えるとカードに繋がりかねないですからね。ELへの参加とW杯開催による過密日程の中で、カードが少ないことはチームにとって良いことですし、効率の良い守備ができていている証拠でしょう。

そして、新加入選手たちの躍動も大きいでしょう。チームのエースであったナイジェリア代表FWタイウォ・アウォニイが退団して「今後のチームはどうなる?」と思われましたが、ヤングボーイズ(スイス)から加入したアメリカ代表FWジョルダン・シエバチュが開幕戦からゴールを記録し、存在感を発揮しています。得点以外にも、ボールを収めることができ、190センチ超えの高さも武器。素早いカウンターが得意であったウニオンにおいて、速さだけではなく、タメを作れるようになったことで攻撃の幅が広がりました。スピードのあるFWシェラルド・ベッカーとの2トップは相性が良さそうですし、ウニオンの攻撃は速さと強さでバランスがこれまで以上に良くなったように思います。実際、シエバチュはここまで3ゴール、ベッカーは6ゴール、チームの得点もリーグ2位となる15ゴールと、数字も残していますね。さらに活躍してくれるのではないかなという期待感も見せてくれていますし、この2トップは今後もブンデスリーガの中で脅威となるのではないでしょうか。

また、新戦力の中でも個人的に最も注目してるのがMFヤニク・ハベラーです。昨季までフライブルクで6年間にわたってプレイしてきた同選手ですが、運動量が豊富で、相手からボールが奪え、インサイドハーフの位置から前に出ていくこともできる。フライブルクではここ数シーズン怪我に悩まされたり、思うような出場時間を得られなかったりで、苦しい時期を過ごしていたかもしれませんが、非常に素晴らしい選手だなと思いました。ハードワークが求められるウニオンのスタイルにとても合っていますね。こういった新戦力たちがチームにすぐにフィットしたことで、今季のスタートダッシュにつながったのでしょう。

ハードワークでチームを支える原口 photo/Getty Images

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原口の貴重な経験は必要になる

ただ一方で、ウニオン加入2年目となった原口にとっては、2022-23シーズンは少々難しいスタートとなっています。昨季はインサイドハーフにコンバートされると、リーグ戦30試合に出場して2ゴール6アシストを記録。ハードワークやデュエルの激しさなどでもチームに貢献し、ELの出場権をもたらしました。しかし、今季は開幕2試合こそスタメン出場を果たしましたが、その後は第3節ライプツィヒ戦と第5節バイエルン戦の終盤に途中投入されるのみ。なかなかピッチに立てない時間が続いています。

しかし、私は問題ないと思っています。開幕2試合も決して悪かったわけではありません。守備のタスクをこなし、攻撃の部分でもしっかりサポートできていました。代表戦を見てもそうですが、最近の原口はピッチに立つと、90分を計算してプレイするのではなく、その1分1秒に全てを出し尽くしてやろうとする姿が見られ、ピッチを去る際には全て出し切った感が見られます。見ていて気持ちがいいですし、今の原口は本当に素晴らしいと思います。コンディションが悪いわけではないと思うので、気持ちをうまく切り替えながらやり続けてほしいです。それができる選手でもあると思います。

いろいろなことを経験してきて「自分がこのチームでやっていくためには」ということろがしっかり考えられてきていますし、分析官ともいろいろやりとりしているようなので頭の中もだいぶ整理できているように見えます。監督が言っていることや求めていることも重々理解しているでしょう。ELへの参加とW杯の開催により今季は過密日程になっていることに加えて、ウニオンはハードワークが求められるチームなので、チャンスは必ず巡ってくるはずです。なので、これまで通りピッチに立ったら100%を出して彼らしくプレイしてほしいです。ウニオンは20代前半から半ばにかけての選手が多く、原口の貴重な経験が必要となるときもくるでしょう。

ウニオンはハードワークをして自ら仕掛けていき、ゴールへのスピード感も魅力的なチームで、展開的にも面白い試合が多いです。彼らがいま首位に立っているのは決して偶然ではないと思います。今後はまず、W杯前までにどれだけ勝ち点を積み上げることができるかが勝負所でしょう。原口に関しては、このクラブへやってきて新たなポジションを任され、プレスの強度やサポートの速さ、サッカーIQなど、31歳になってもまだまだ進化しています。当たり前かもしれませんが、戦術的な部分でもどんどん肉付けされてきている印象なので、もっともっと成長していってほしいです。今後もウニオンと原口の躍進から目が離せませんね。

それでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている

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