[特集/3人のサムライアタッカー 03]得点王&クラブレジェンドへまっしぐら! スコットランドで爆発する古橋亨梧の得点感覚

 第25節を終えて、首位を走るセルティックは2位レンジャーズに勝点9差をつけている。そのなかで23試合出場19得点という成績を残しているのが、古橋亨梧である。エースストライカーとしてゴールを量産し、チームをスコティッシュ・プレミア2連覇に導こうとしている。同時に、得点ランクでも2位ローレンス・シャンクランド(ハーツ)の17得点に2点差をつけており、古橋には日本人初の欧州主要国での得点王が見えている。

J2岐阜からスタートしセルティックのレジェンドへ

J2岐阜からスタートしセルティックのレジェンドへ

今季もゴールを量産する古橋は、スコティッシュ・プレミアで得点王にもっとも近い位置にいる photo/Getty Images

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 中央大学を卒業し、J2の岐阜に加入したのが2017年だった。ここで大木武監督(現熊本監督)にポテンシャルを見出され、開幕から先発に起用されて全試合に出場。当時から俊敏な動き、キレのあるドリブル、迷いのないフィニッシュを見せており、プロ1年目に記録したのは6得点。大卒ルーキーとしては十分な数字だった。

 J2からJ1へ個人昇格したのは2018年のシーズン途中で、アンドレス・イニエスタがいる神戸に移籍した。2021年の夏にセルティックへ移籍するまで、神戸では95試合に出場し42得点している。ルーカス・ポドルスキ、ダビド・ビジャ、セルジ・サンペールなどとプレイするなか、動き出し、ポジショニング、ファーストタッチの質などに磨きをかけ、ほぼ2試合に1点のペースで得点していた。

 アンジェ・ポステコグルー監督が横浜FMからセルティックに移るときに、自らが志向するポジショナルプレイをピッチで体現する選手として古橋の獲得を要望した。その理由についてポステコグルー監督は、「(古橋は)Jリーグでホントに良い水準でプレイしていたので、獲得するのにもっともリスクが少なかった。セルティックの監督に就任したときに、最初に獲得しなければいけないと考えたのが彼だった」と後にセルティック専門サイトで語っている。
 両名がセルティックで仕事をはじめた2021-22シーズンは、タイトル奪還を目指す1年だった。前年にスコティッシュ・プレミアを無敗で制したのはレンジャーズで、セルティックは実に勝点25差をつけられていた。この結果を受けて監督だけではなく多くの選手が入れ替わっており、新たに船出しやすい状況だった。

 古橋は期待に応え、岐阜、神戸でもそうだったように、高い順応力ですぐにフィットしてゴールすることでサポーターを喜ばせた。初年度はスコティッシュ・プレミア20試合12得点、リーグ杯3試合3得点の数字を残し、どちらも優勝を飾って2冠に貢献した。その献身的なプレイスタイル、高い決定力を目の当たりにしたサポーターからは、かなり早い段階でクラブのレジェンドであるヘンリク・ラーション(リーグ戦221試合174得点。得点王5回)の再来とする声まで挙がっていた。

献身的な守備でチャンスを生み、巧みなフィニッシュで得点する

献身的な守備でチャンスを生み、巧みなフィニッシュで得点する

動き出しが早く、俊敏性がある。古橋を止めるためには、相手DFはファウル覚悟となるphoto/Getty Images

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 古橋の武器である前線の豊富な運動量は、J時代と較べても進化している。前線で全力疾走してボールを追いかけ、身体を投げ出したスライディングで相手DFに簡単なフィードを許さない。マイボールにならず、そのままタッチラインやゴールラインを割ってしまうこともあるが、これは想定済み。守備→攻撃に素早くつながらなくても、プレイを一度切って相手に後方からのビルドアップをさせなければOKである。

 古橋が守備で見せるこうしたチェイシングは、後方でプレイする選手にとってはものすごく助かる。リズムよくパスをつながれると後手を踏むことになるが、前線で追いかけてくれることでパスコースを限定できてポジションを修正する時間が生まれている。

 もちろん、一番の目的は古橋がプレッシャーをかけて相手のミスを誘い、高いポジションでボールを奪うことにある。そうなったときは一気にゴールチャンスで、素早い切り替えでゴールを目指すことになる。ポステコグルー監督が率いるセルティックはチーム全体にこの意識が植えつけられていて、プレッシャーをかけているときのまわりの選手の動きが秀逸。前田大然、旗手玲央、ジョタ、カラム・マクレガー、マット・オライリーなどが連携の取れた動きでプレスの強度を保っている。いまのスコティッシュ・プレミアのなかには、トランジションの早いセルティックのこのプレスをかわして主導権を握れるチームは存在しない。レンジャーズとの勝点9差がそのことを示している。こういったプレイでスイッチを入れるのが、古橋の役割となっている。

 献身的な守備に加えて、古橋はコンスタントにゴールすることで勝利に貢献し続けている。十八番である、最終ラインの裏に飛び出すプレイはかつてなかったレベルにまで高められてきた。タイミング、どのコースに走り込むかの判断、自分がどう動くとフィニッシュにつながるかが的確にイメージできていて、なおかつ実行に移す俊敏性、スピードといったフィジカルにも優れている。

 今季は、古橋の得意のカタチから面白いようにゴールが決まる。第22節セント・ミレン戦ではゴール前のスペースを見つけて抜け出し、スルーパスからワンタッチでループシュート。第24節リヴィングストン戦でも長いパスに反応してDFと入れ替わり、一人かわして冷静なフィニッシュでゴール右隅に流し込んだ。

 もともとシュートがうまい古橋だが、今季はより磨きがかかっているようだ。トップスピードでゴール前に走り込んでのワンタッチゴール。GKの位置を確認したうえでのコースを狙った技ありのゴール。キレのある動きで相手DFを翻ろうし、自らシュートコースを作り出してからのゴール。こぼれ球を拾って叩き込んだようなゴールも多い。どんな角度と強さで打てば枠に飛ぶのか、FWが好調なときはゴール感覚が身体に染み付いているものだが、いまの古橋はまさにそれなのだろう。

 さらに、ときおり見られるゴールシーンとして、相手DFが棒立ちになっている瞬間に古橋だけが反応しているというケースがある。古橋自身が意図的に足を止めていて、パスが出た瞬間に走り出してノーマークでフィニッシュというケースもある。状況をよく見極めたうえで、敵と味方の動きがあらかじめイメージできているからこそのプレイだろう。

残留なのか移籍なのか今夏の去就が注目される

残留なのか移籍なのか今夏の去就が注目される

スルーパスに抜け出して決めた、セント・ミレン戦での技ありループシュート photo/Getty Images

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 得点王が期待されていると書いたが、もちろん実際にはそう簡単ではなく、ハードルが高いミッションである。しかし、だからこそ大きなチャンスであり、古橋がもっと上のステージにいくためには今季このタイトルを取っておきたい。

 このもっと上のステージというのが、現状でなにを指すのかは古橋しだいだ。中村俊輔が成し遂げたように、セルティックでチャンピオンズリーグに出場して勝利をもたらすことになるのか。あるいは、プレミアなどにステップアップとなる移籍を果たし、そこで活躍するのか。こうした成功を収めるためにも、得点王となって自信をつけておきたいのである。

 ラーションはセルティックで7シーズンを過ごし、5度の得点王に輝き、4度のリーグ優勝をもたらしている。同じように長いシーズンをプレイするのか、それともさらなるチャレンジに踏み出すのか。言葉は悪いが、セルティックを踏み台としてより高いレベルのクラブへ移籍するというのはサッカー選手として当然のこと。もしその決断をするなら、古橋の年齢を考えるとここ1年、2年ということになる。

 プレミアのサウサンプトン、クリスタル・パレス、リーズなど、ここ数カ月で古橋に関心を持っているクラブの名前がチラホラと上がっている。ギオルゴス・ギアクマキスに続き、今夏に古橋も移籍となれば前線のコマが薄くなるため、冬の移籍でオ・ヒョンギを獲得するなどセルティックはすでに“そのとき”に備えている。

 また、ポステコグルー監督の去就にも注目しておかなければならない。本人はセルティックでの仕事に満足している趣旨のコメントをしているが、チームを去ることはないという意味の発言ではない。リヴァプールの次期監督に名前が挙がっているというニュースもある。そうなると、セルティックから古橋を連れて……ということも十分に考えられる。いずれにせよ、近い将来に大きなステップアップが待っているかもしれない。

文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)278号、2月15日配信の記事より転載

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