[水沼貴史]5部から這い上がるシンデレラストーリー 上月壮一郎はドリブラーから結果にこだわるストライカーへ進化中

水沼貴史の欧蹴爛漫076

今年1月にトップチームデビューを果たしました上月 photo/Getty Images

ドリブルだけじゃない

水沼貴史です。カタールW杯以降、多くの日本人選手が欧州で注目を集めています。これは日本のサッカーにおいて、非常に素晴らしいことだと思います。そんな中で、現在、特に注目を集めている若手選手のひとりが、ブンデスリーガのシャルケでプレイする上月壮一郎ではないでしょうか。今回はそんな上月について、少々お話をしたいと思います。

現在22歳の上月は、京都サンガF.C.、デューレン(当時ドイツ5部相当)を経て、昨夏にシャルケへ移籍。セカンドチームで結果を残すと(4部リーグ相当で14試合8ゴール5アシスト)、今年1月に行われた第16節のフランクフルト戦でトップチームデビューを果たしました。

上月の特長といえば、やはりドリブルでしょう。私が初めて上月を目にしたのは2016年だったのですが、彼はU-16日本代表の一員として鳥取で行われたU-16インターナショナルドリームカップへ参加していました。当時のU-16日本代表にはFW久保建英(現レアル・ソシエダ)を筆頭に、DF菅原由勢(現AZアルクマール)や中村敬斗(現LASKリンツ)、GK谷晃生(現G大阪)、FW宮代大聖(現川崎フロンターレ)と超豪華。その中でも、彼のドリブルで仕掛ける能力は、当時から非常に印象に残っていました。

ただ、以前まではドリブラーのイメージが強かったですが、上月がブンデスデビューを果たしたフランクフルト戦の解説を務めた際に私は「ドリブルだけじゃない。彼は変わってきているぞ!」との印象も受けました。なぜなら、プレイエリアがワイドポジションだけではなく、インサイドポジションへと広がってきています。そして、ストライカー的な部分もすごく出てきているなと感じたからです。

デビュー戦でも、続くライプツィヒ戦(第17節)でも、決定的な場面に3回くらい顔を出していました。ライプツィヒ戦ではゴールという結果も残しています。ここまで5試合の出場、時間にして383分のプレイではありますが、すでに14本ものシュートを放つなど、ゴールへの意欲が素晴らしい。シュートの場面に顔をだせるようになってきたことは、非常に大きな進歩だと思います。実際、結果にこだわって数字を残したことで、彼はセカンドチームからトップチームへの昇格を勝ち取っていますからね。

結果に厳しい欧州へ戦いの場を移したことで、もしかしたら、より結果を追求するために「今までの自分のスタイルを変えなければならない」と感じたのかもしれません。同年代の選手たちが国内外で結果を残す一方で、上月はプロデビュー以降苦しい時期も多かったと思います。悔しい思いもしていたかもしれません。同年代の選手たちから刺激を受け、彼らに負けないようにとメンタル面も成長。これが彼の結果にこだわる姿勢に変わり、成り上がってきたのかもしれませんね。

圧倒的な存在感により、クラブ公式が選ぶ1月の月間MVPにも選ばれた photo/Getty Images

整った環境でさらなる飛躍を

守備陣が安定してきた一方で、まだまだ攻撃陣に不安を抱えるシャルケ。第16節から5試合連続でスタメンに名を連ね、クラブ公式が選ぶ1月の月間MVPにも選ばれました。彼に対する期待値も大きいでしょう。ただ、トレーニング中の負傷により、現在はチームを離脱しています。まだまだ不慣れな中で強度の高い試合が続き、疲労が溜まったり、バランスが崩れてしまったりしたのかもしれません。1つ目の壁が彼の前に立ちはだかっていますが、それをぶち壊すだけのメンタルは持ち合わせているはず。なにせ、シンデレラストーリーというには大袈裟かもしれませんが、ドイツ5部のチームから自力で1部に這い上がり、シャルケのスタメンの座まで勝ち取った選手ですからね。

チームメイトには日本代表のキャプテンを務める経験豊富な吉田麻也もいます。リーダーシップが素晴らしく、コミュニケーション能力が高い大先輩が近くにいるので、頼るときは思い切り頼ってもいいと思います。まだまだ若い選手ですからね。苦しいときには吉田が陰ながら支えてくれるでしょう。また、近くに同世代の選手たちも多くいます。クラブの偉大なOBである内田篤人も古巣を含めて気にかけてくれています。そういった意味でも、素晴らしい環境が整っていると思いますよ。

まずは終盤戦へ向けて、しっかりと怪我を治してほしい。そして、自分のプレイには自信を持っているでしょうから、復帰後はそれを突き詰めていってほしいです。最下位に沈むチームの現状を考えると、「オレがこのチームを引っ張ってやるぞ!」という気持ちで、誰かに頼るのではなく「オレがチームの中心だ!」、「オレがこのチームを残留させる」という強い気持ちでやっていいのではないでしょうか。相手チームに対策をさせるなど、この先いくつもの壁が立ちはだかるかもしれません。しかし、ここまで自分の力で這い上がってきたメンタルで、1つ1つ乗り越えて進化を遂げる姿に期待です。

それでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている

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