[特集/ブンデスが今熱い! 01]ついに完成した22-23シーズンの最良フォーメーション 今季のバイエルンはこれからが本番だ

 ブンデスリーガが、例年になく大混戦だ。

 バイエルン・ミュンヘンが第24節(3月12日)終了時点で単独首位に立つも、追いかけるボルシア・ドルトムントとは僅か勝点2差。続くウニオン・ベルリン、ライプツィヒ、フライブルクまで、首位から勝点7差以内に4チームがひしめいている。

 果たしてユリアン・ナーゲルスマン体制2年目のバイエルンは、国内11連覇を達成できるのだろうか?

独走体制に入れない今季 ナーゲルスマンの決断とは

独走体制に入れない今季 ナーゲルスマンの決断とは

今季はややスロースタートだったが、やはり優勝にもっとも近いのはバイエルンだ photo/Getty Images

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 混戦となったのは、ウニオン・ベルリンとフライブルクの躍進もある。しかし、独走体制を築けていないバイエルン自体に要因があると言っていいだろう。特に、年明けのライプツィヒ戦、ケルン戦、フランクフルト戦の3試合を、すべて1-1の引き分けで終えてしまったのは痛かった。

 冬の休暇中にスキーで骨折したGKマヌエル・ノイアーの代わりとして、ボルシア・メンヘングラードバッハよりヤン・ゾマーを電撃的に獲得したナーゲルスマン監督は、聖域的だったトーマス・ミュラーのチーム内序列をも下げることを厭わず、世代交代と自身の志向する戦術へ舵を切った。しかしミュラーの扱いについて、批判的な論争を呼ぶ結果となってしまったのだ。

 35歳の若き指揮官が非凡であるのは、最新のバイエルンが最強のバイエルンであるために、本人の理想よりも現実的な選択を優先できる老練さを持ち合わせているところだ。カタチとして固まったのは、首位決戦で完勝した第22節ウニオン・ベルリン戦と、チャンピオンズリーグ大一番直前の第23節シュツットガルト戦。続くCLパリ・サンジェルマン戦でも機能した[3-4-2-1]には、試合を支配して勝ちきるバイエルンらしさが確かに存在していた。

ついに見出した最強のファーストチョイス

ついに見出した最強のファーストチョイス

DF登録でありながら驚異の攻撃力をもつデイビス。アウクスブルク戦でも決定的な5点目を叩き込む photo/Getty Images

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 ワントップにエリック・マキシム・チュポ・モティングを置き、トップ下はミュラーとジャマル・ムシアラ。ウインガーは左にアルフォンソ・デイビス、右にキングスレイ・コマン。守備的MFはジョシュア・キミッヒとレオン・ゴレツカの鉄板コンビ。最終ラインは、マタイス・デ・リフト、ダヨ・ウパメカノ、バンジャマン・パヴァールが最新のファーストチョイスとなる。

 デイビス&コマンという強力なウインガーをワイドに配置し、広い空間を使う展開は、リベリ&ロッベン時代から続くバイエルンらしい攻撃の一つ。特筆すべきは、デイビスだ。昨季は心筋炎を患いシーズン終了まで本調子ではなかったが、今季は完全復活。無尽蔵のスタミナと時速36kmを超えるスピードを武器に相手ゴールへ迫っていたかと思うと、次の瞬間、自陣に戻り、相手の決定機を阻止する。実際、現地では4バックの一角(左SB)として表記されることもある。が、基本的には上がりっぱなしだ。2人分のプレイエリアで仕事するデイビスが、数的有利な状況をバイエルンへもたらしている事は言うまでもない。

 ロベルト・レヴァンドフスキがバルセロナへ去り、後釜としてリヴァプールからサディオ・マネを獲得したが、最終的にワントップとして信頼を勝ち得たのは、チュポ・モティングだった。スイッチが入った途端、人数を掛けてオフェンスを開始するバイエルンのスタイルでは、ポストプレイにも長けたFWの方が生きるのだ。レヴァンドフスキよりもチームプレイに徹するチュポ・モティングの台頭で、バイエルンが求める最後のピースが埋まったと言って良いだろう。

 攻撃にアクセントをつけるのは、トップ下のムシアラだ。スピードを維持したまま、脚に吸い付くようなドリブルが身上のムシアラには、狭いエリアでも個の力で突破する能力がある。相手DFとしては、複数人でアプローチせざるを得なく、その結果、空いたスペースを、チュポ・モティングやデイビスなど、バイエルンの別な選手に使われてしまう……。ゴール前でこれほど厄介な選手はいない。

 ボランチのキミッヒとゴレツカは、二人の関係性がさらに洗練されてきている。キミッヒがより黒子的なポジショニングで90分間に渡りリスクを消し続け、ゴレツカが能動的なアプローチでボール奪取を試みたり、タイミングよく前線に飛び出す。どちらも強力なミドルシュートを武器とし、迷いのないプレイぶりがチームに安定感を与えてくれる。

今も絶対に欠かせない“ピッチ上の指揮官”ミュラー

今も絶対に欠かせない“ピッチ上の指揮官”ミュラー

チームメイトに指示を出し、ピッチ上の指揮官のごとく振る舞うミュラー photo/Getty Images

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 バイエルンがリーグ11連覇とチャンピオンズリーグ優勝のダブルを達成するために、絶対に欠かせないピースとなるのが、キャプテンのトーマス・ミュラーだ。

 ミュラーは、2000年の10歳から下部組織に所属した生粋のバイエルンプレイヤー。元々、右ウインガーとして頭角を現し、2010年南アフリカW杯ではドイツ代表で大ブレイク。その後クラブでは、リベリ&ロッベンという2大ウインガーへポジションを譲るカタチで、トップ下に定位置を確保した苦労人だ。2012-13シーズンにはドイツのクラブとして初のトレブル達成、2019-20シーズンにも2冠達成に貢献した現役のクラブレジェンドである。

 ミュラーの凄さは、なんといっても試合の流れや局面において、一歩先を読むための察知力にある。ピッチ上では味方のポジショニングを細かく指差しで指示し、ハイプレスを仕掛けるフォーメーションを構築。ハイプレスを仕掛けなくとも、前線のポジショニングで、自由にパスを出させない圧力を生み出してくれる。また、時にはミュラー自身が、変幻自在に動き回ることで相手の隙を作り出し、チュポ・モティングやムシアラ、コマンへのチャンスをお膳立てする。実際、第23節シュツットガルト戦では、ムシアラから入ったボールをシンプルにはたいてチュポ・モティングの決勝点を演出。これが簡単そうに見えるのは、ポジショニングが良いことの裏返しだ。

 シュツットガルト戦とまったく同じスターティングメンバーで臨んだCLのPSG戦でも、ミュラーのチェイシングに呼応したゴレツカの挟み込みからボールを奪取し、チュポ・モティングの先制点を生み出した。得点シーン直後、チームメイトへアドバイスする姿も印象的だ。プレイにおいては、無理な体勢からでもカラダを投げ出してワンタッチで局面を打開し、シュートチャンスに繋げる能力が誰よりも秀でている。ここぞという時の脚の伸びは格別で、決定的な場面を幾度となく作り出すとともに、危ないシーンでは相手の攻撃を潰してくれるのだ。完封勝利したPSGとのビッグマッチで、マン・オブ・ザ・マッチにミュラーが選出されたのも、納得のパフォーマンスだった。

 ある意味、今、バイエルンでゲームを作っているのはミュラーであり、ピッチ上の指揮官もミュラーであると言って過言ではないだろう。数々の修羅場を潜ったベテランの力が、個々の選手の特性を引き出し、チームとして活性化させているのだ。

効果的なローテーションの実現でリーグ11連覇が見えてくる

効果的なローテーションの実現でリーグ11連覇が見えてくる

スター揃いだけに繊細さが求められるが、ナーゲルスマン監督の選手起用は後半戦の鍵となる photo/Getty Images

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 PSG戦直後の第24節アウクスブルク戦では、チュポ・モティング、ミュラー、ゴレツカらの疲労を考慮し、マネ、セルジュ・ニャブリ、レロイ・サネが3トップとしてスタメンで起用された。ジョアン・カンセロやパヴァールらの5得点で勝利を収めたが、3トップ的には消化不良と言ってもよい出来で、3失点という締まりのない試合だった。前のスペースが限られたデイビスが窮屈そうにプレイしているように見えたのは、偶然ではないだろう。やはり、PSGとの第2戦の陣容が今季のバイエルンのベストだろう。唯一気になるのは、新GKゾマーの足下の技術。ノイアーなら難なく対処するボール回しを明らかに狙われ、危ないシーンが度々見受けられた。これは試合毎に連係を深めていくしかない。

 能力の高い選手を並べるだけではシナジー効果が得られないのは明白だが、それでも個の能力で勝ち切ってしまうバイエルンに地力があるのも間違いない。前線のタレントが豊富なバイエルンにおいて、11連覇達成に必要不可欠となるのは、選手達のモチベーションやコンディションを維持しつつの、きめ細やかなローテーションの実施だ。戦術以上に気難しい問題をナーゲルスマン監督が解決すれば、リーグ連覇はもとよりCL 制覇も見えてくる。トレブル達成も十分に可能だ。

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)279号、3月15日配信の記事より転載

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